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5買い物デート
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ーー翌る日の朝。
「服を買いに行こう」
クインスからの突拍子も無いお誘いだった。
デイジーはお仕着せのエプロン部分だけを脱いで街へ出掛けた。
お洒落な街のブティック。
エキセントリックな配色のモダンな外観の店にはさまざまなワンピースが並んでいた。
「いらっしゃーい」
陽気な雰囲気のお店の人が出迎えてくれる。
「彼女に合う服を見立てて欲しい」
「第二王子様じゃない、毎度~」
ハイテンションな店主のハイテンションなお見立てに、終わる頃には少し疲弊していた。
でも真新しいワンピースをいくつも買ってもらえて、デイジーは大喜びしていた。
早速下ろし立てのワンピースと靴を履いて城に帰ることにした。
カジュアルだけれど可愛らしいフリルと襟元のシックな色合いのロングワンピース、真っ赤なローヒールの靴に、猫耳が隠せる柔らかい素材の大きな帽子。
「可愛い?」
「可愛い」
ぶっきらぼうに褒めてもらえた。
「うふふ、素敵なワンピースを買ってくれてどうもありがと!クインス」
「あっ、安眠を提供してくれているお礼だからな!勘違いするな」
「うん!」
ご機嫌そうなデイジーは鼻唄をうたう。
「ヒヒン、ヒヒイイイン」
とある建物の前を通り掛かると、馬が激しく鳴く声が聞こえた。
馬小屋で一匹の馬が拘束されたまま、苦しそうにもがいていた。
馬子が必死に馬の上半身を抱きしめ宥めている。
「どうしたの?」
馬子に事情を訊くと脚に酷い怪我を負ってしまった馬らしい。酷い骨折で治療をする術もなく殺処分となり、倫理上の問題で安楽死がタブー視されている国なので このまま自然に死を待つだけだと馬子は嘆いていた。
それを聞いてデイジーは顔を曇らせた。
「ちょっと、ここへ立ち入ってもいいかしら?」
「え、ええ……」
デイジーはひょいっと軽く柵を乗り越え、敷地内に入る。
「デイジー?」
デイジーは真新しいワンピースや靴が汚れてしまうことも気にせず、汚れた馬小屋の中へ入っていった。
そして痛みや苦しさに悶える馬の顔を優しく撫で、その頰に祝福のキスをしたーー。
するとパァっと白くおぼろげな光が馬小屋の中に溢れ、苦しんでいた馬は安らかな表情で眠りについた。
光が引くと、デイジーは悲しげにぼろぼろと涙を流していた。
「死んだのか?」
「ううん、眠ってるだけ。痛みも感じないわ。これなら……苦しむこともなく幸せな夢を見ながら、眠ったまま死を迎えられるわ」
眠り猫の祝福の効果だ。
精霊の自分にも命を助けることができず、怪我を治すこともできない。やるせない気持ちになりデイジーは涙を流していた。
「精霊でも生物の死はどうすることもできないし致命傷は治せないの。だから、せめて…楽に死なせてあげたくて」
「そうか」
彼女をなだめるように、クインスは肩を抱き寄せた。
馬子は何度も何度も眠り猫のデイジーに感謝をした。
馬小屋を出るとデイジーは涙を拭い、笑った。
「初めて会った馬のために泣けるのか」
クインスが問うとデイジーは言った。
「泣くわ。だって悲しいんだもん。あなたはどうして友達を亡くしたのにーー泣くのを我慢しているの?」
「え?」
「涙には自浄作用があるってどっかの精霊が言ってたよ。悲しい気持ちを外に出してくれるの。きっと楽になれるわ」
「楽になっていいんだろうか」
「友達に一生苦しめ!って願う友達はいないわよ」
デイジーは無邪気に笑った。
その顔を見て、クインスもつられて笑う。
「お前の、眠り猫の祝福を受けて…毎回楽しい夢を見たんだ。死んだ友人の夢だった。どの夢も友人や俺は笑い合っていた。すっかり忘れていたよ」
「そう、よかった。あなたが友達を忘れない限り、あなたの中でずっと生き続けるわ!」
「そうだな」
帰る頃には、お城の中の白い道がすっかりオレンジ色に染まっていた。
「服を買いに行こう」
クインスからの突拍子も無いお誘いだった。
デイジーはお仕着せのエプロン部分だけを脱いで街へ出掛けた。
お洒落な街のブティック。
エキセントリックな配色のモダンな外観の店にはさまざまなワンピースが並んでいた。
「いらっしゃーい」
陽気な雰囲気のお店の人が出迎えてくれる。
「彼女に合う服を見立てて欲しい」
「第二王子様じゃない、毎度~」
ハイテンションな店主のハイテンションなお見立てに、終わる頃には少し疲弊していた。
でも真新しいワンピースをいくつも買ってもらえて、デイジーは大喜びしていた。
早速下ろし立てのワンピースと靴を履いて城に帰ることにした。
カジュアルだけれど可愛らしいフリルと襟元のシックな色合いのロングワンピース、真っ赤なローヒールの靴に、猫耳が隠せる柔らかい素材の大きな帽子。
「可愛い?」
「可愛い」
ぶっきらぼうに褒めてもらえた。
「うふふ、素敵なワンピースを買ってくれてどうもありがと!クインス」
「あっ、安眠を提供してくれているお礼だからな!勘違いするな」
「うん!」
ご機嫌そうなデイジーは鼻唄をうたう。
「ヒヒン、ヒヒイイイン」
とある建物の前を通り掛かると、馬が激しく鳴く声が聞こえた。
馬小屋で一匹の馬が拘束されたまま、苦しそうにもがいていた。
馬子が必死に馬の上半身を抱きしめ宥めている。
「どうしたの?」
馬子に事情を訊くと脚に酷い怪我を負ってしまった馬らしい。酷い骨折で治療をする術もなく殺処分となり、倫理上の問題で安楽死がタブー視されている国なので このまま自然に死を待つだけだと馬子は嘆いていた。
それを聞いてデイジーは顔を曇らせた。
「ちょっと、ここへ立ち入ってもいいかしら?」
「え、ええ……」
デイジーはひょいっと軽く柵を乗り越え、敷地内に入る。
「デイジー?」
デイジーは真新しいワンピースや靴が汚れてしまうことも気にせず、汚れた馬小屋の中へ入っていった。
そして痛みや苦しさに悶える馬の顔を優しく撫で、その頰に祝福のキスをしたーー。
するとパァっと白くおぼろげな光が馬小屋の中に溢れ、苦しんでいた馬は安らかな表情で眠りについた。
光が引くと、デイジーは悲しげにぼろぼろと涙を流していた。
「死んだのか?」
「ううん、眠ってるだけ。痛みも感じないわ。これなら……苦しむこともなく幸せな夢を見ながら、眠ったまま死を迎えられるわ」
眠り猫の祝福の効果だ。
精霊の自分にも命を助けることができず、怪我を治すこともできない。やるせない気持ちになりデイジーは涙を流していた。
「精霊でも生物の死はどうすることもできないし致命傷は治せないの。だから、せめて…楽に死なせてあげたくて」
「そうか」
彼女をなだめるように、クインスは肩を抱き寄せた。
馬子は何度も何度も眠り猫のデイジーに感謝をした。
馬小屋を出るとデイジーは涙を拭い、笑った。
「初めて会った馬のために泣けるのか」
クインスが問うとデイジーは言った。
「泣くわ。だって悲しいんだもん。あなたはどうして友達を亡くしたのにーー泣くのを我慢しているの?」
「え?」
「涙には自浄作用があるってどっかの精霊が言ってたよ。悲しい気持ちを外に出してくれるの。きっと楽になれるわ」
「楽になっていいんだろうか」
「友達に一生苦しめ!って願う友達はいないわよ」
デイジーは無邪気に笑った。
その顔を見て、クインスもつられて笑う。
「お前の、眠り猫の祝福を受けて…毎回楽しい夢を見たんだ。死んだ友人の夢だった。どの夢も友人や俺は笑い合っていた。すっかり忘れていたよ」
「そう、よかった。あなたが友達を忘れない限り、あなたの中でずっと生き続けるわ!」
「そうだな」
帰る頃には、お城の中の白い道がすっかりオレンジ色に染まっていた。
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