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番外編・スピンオフ集

(番外編)幻狼コボルトの過去

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精霊には光系と開花と呼ばれる2つの種類がある。

自然発生、もしくは精霊同士が番を作って産まれた子は光系ーー火の精霊ウェスタや花の精霊フラー、幻狼のフクシアやスノウがこれに当たるだろう。

開花と呼ばれる精霊は元は生身の人間であり、死んだ後で突然変異で精霊へ昇華するのだ。
統括者と呼ばれる精霊には異なる世界から人を召喚させたり、数多の世界を自由に行き来したり、死んだ人間の魂を精霊へ変換させる能力があった。
開花を行なっているのは統括者たち。


クライシア王と契約しているオオカミの精霊・幻狼コボルトもかつては人間だ。

コボルトは、数百年前に西大陸にあった亡国の王に仕える優秀な宮廷医だった。
王は精神を病んでおり酒に溺れ、判断能力や正気を完全に失っている。政略結婚で敵国に嫁ぎ、まだ18歳の若い王妃も味方が1人もいない宮廷内でノイローゼになっていた。
コボルトは王夫妻の主治医として宮廷に住んでいた。

商家の中間子として産まれたコボルトには幼い頃から目指していたものがあった。
王や貴族らが贅沢の限りを尽くし、国とは彼らを中心に都合良く回っている。平民は虐げ続けられ人権なんて存在しないような理不尽な世界を変えたかった。

だから孤独で、心が弱っている王夫妻にひたすら優しく接し、良き理解者であるように振舞って信頼を得た。
王妃は美しくて頼り甲斐のあるコボルトに心を奪われ、王妃と愛人関係も持った。
すっかりコボルトを信用し、心酔していた王夫妻は彼の言いなりだった。

王を裏で操り、悪事を行う貴族を排除、国内に王立の病院や学校を建てたり、道路を整備し、財政を見直し無駄を省きながら税金を減らした。
全ては苦しい暮らしをしている国民のためーー正義のために。

やがて王妃は愛人関係のあったコボルトの子を身籠った。
王妃はコボルトの事を心から愛していた。しかし、コボルトは王妃に対して愛など無かった。

「貴方と一緒に居られるなら王妃の座など捨てるわ、だから一緒に国外へ駆け落ちしましょう」

王妃から幾度となくラブレターを送られたが、コボルトはそれを無下にした。

全ては国民のため、正義のために、利用価値のある王妃だから愛を囁いていたのだ。
王妃でない彼女など、コボルトには必要無いからだ。

無理やり、その座に擁立されただけの王夫妻に何ら罪は無い。むしろ哀れんではいた。
だが、正義のためならば王夫妻がどうなうと…大勢の民と秤に掛ければ安い犠牲だと思っていた。

しかし、コボルトは貴族らを敵に回し過ぎていた。

コボルトの存在が邪魔に思ったのだろう、貴族らはコボルトを排除しりうる罪を用意してきた。
王妃を誑かし国庫金を横領した罪を突き付けられ、王妃は廃妃となり国外追放、コボルトは処刑台に立たされた。

処刑台の上で拘束されたコボルトは歯を食いしばり、死の恐怖よりも激しい怒りや憎しみに震えていた。
どう猛な獣のような鋭い眼は貴族らに向けられている。

「自分では冷静にやっていたつもりだろうが、君はあまりに感情の奴隷になり過ぎていた。それが君の敗因だね」

処刑台に金髪碧眼の男が空から舞い降りた。
コボルトの目の前で座ってニコニコ笑っている

「お前は……」

「僕はオリヴァー、精霊王さ」

「精霊王?」

コボルト以外の誰にも、すぐ脇に立っている処刑執行人の目にも彼の姿は見えていない。

「死神……ではなく?」

「はは、死神でもいいさ。ねえ、君、僕と一緒に来ない?」

「はあ?」

「ちょっと頭が頑固すぎな奴だけど、君のその正義感の強さや、優秀さや不憫さはそばで見ていた僕がよく知ってる。ここで死なせてしまうのはもったいないと思ったんだ」

彼はまた笑い、コボルトの頬に手を添えた。

「僕なら君を正しく評価できる。死を目前とした君にチャンスを与えられる、だから、僕と一緒においで」

「精霊王……」

「君はここで人間としての生涯を閉じ、精霊として生まれ変わるんだ。君には統括者という役職を与えよう。僕の補佐として働かないか?ちょうど、優秀な部下が欲しかったんだ」

「……わかった。精霊王、貴様に忠誠を誓おう。俺を連れて行け」

「精霊になれば死ぬことができない、気の遠くなるような月日を永遠に生き続けなければならない。後悔はしないか?」

「それでいい。俺の野望を実現するには、人間の100年の命ではあまりに時間が足らない」

「ハハ、それではーー」

冷たい処刑台の上に拘束されたままうつ伏せにされたコボルトの手足や頭は斬り落とされ、そのまま絶命した。
しかし、その顔は強気に笑っていたと、執行人は後に語った。

次に目が覚めた時、コボルトはオオカミの精霊として生まれ変わっていた。

「おい、このリンゴ。古くなっているぞ!勉強しろ!半値でどうだ?」

あれから長い月日が経過しーー後にクライシア王となる、クリシア帝国のレイメイ皇子と契約した。
商人の真似事が趣味で金にがめつい変わった皇子は七歳になったばかり
今日もまた青空市場にやってきて商品を大声で値切っていた。

「おい、レイメイ。皇子が庶民の市場でセコく値切り回るなど…王家の品格が何たらと皇后がまた怒るぞ?」

「ふん!俺はセコくなんかない!金は大事だ!買うなら正しい価値で買いたい主義なんだ。売り物にならないならば捨てるとコイツはいったんだ、まだ食えるのに捨てるのはもったいない!それならば半額で売れと申したまでだ」

「レイメイ皇子、ほどほどに……」

護衛の騎士を務める騎士マークも苦笑いしていた。

「そんなに古いリンゴを大量に買ってどうするんだ?」

「これを煮てチャツネを作るんだ。リンゴは栄養もあるからな。大量に作って余った分は騎士団や従士団に売り込むぞ!それで利益はザッと~」

一日中 金儲けのことばかり考えている変人皇子だったが、コボルトは退屈しなかった。
楽しそうにビジネス論を語る少年を見てコボルトは笑う。

「何だ?」

「いいや」

この少年がこれから作り上げる世界を見たい、それがコボルトの願いだった。
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