上 下
213 / 262
シャルロットと精霊博士のサンクスギビング・ターキーデー

ロレンス学園へ

しおりを挟む
D番街のカラフルな色をした時計塔の前には金髪に金色の瞳をした美しい青年がポツンと立っていた。
シャルロット達の姿を見るなりパァーッと明るく笑って大きく手を振った。

「ママ~!」

シャルロットが産んだ幻狼の子ーーエステルだ。

東大陸にある明帝国の皇帝ジョンシアと契約し、ずっとあちらの国に住んでいる。
数年の間に魔力もだいぶ増えて成長していた。
現在では転移魔法も容易いものだ。オオカミ姿もクロウやグレイ達のように大人に成長し、人型になると見た目年齢はシャルロットよりも上に、20代前半くらいの成人男性。
ママと呼ばれるには違和感はあるが、シャルロットは嬉しそうに笑顔で彼に抱き着いた。

「エステルっ、見ない間にまた大きくなったわね」

身長はもう頭一つ分くらいシャルロットの背を超してる。
こんなに大きな子供がいるのは変な感覚だ。

「ママも元気そう!えへへ~、あ、これはジョンシアからママにプレゼント~餅茶だよ。どうぞ~!」

「ありがとう!うれしいわ!明帝国のお茶ってとっても美味しいのよね~」

餅茶ーープーアル茶は西大陸ではあまり手に入らないお茶だ。
円盤型に固められた茶葉を崩して飲むもので、健康にも良い。クセがあるから、茶葉は少なめ、水出しにして飲むと飲みやすいと教えてくれた。


「あ、その子っグレイの子供?はじめまして~!」

今日は一緒に着いてきた幻狼たちは皆、学生祭を回るために人の姿に化けている。
グレイは2歳児くらいの幼児姿に変化したスノウを抱っこしている。

神秘的な白髪に黄金の瞳、真っ赤なプニプニほっぺの可愛い男の子。

「スノウって言うの。まだ生まれたばかりなのよ」

「へえ~、じゃあ僕がお兄ちゃんだ!!わぁ~い」

「ふふ、スノウ、私の息子のエステルよ」

「エステル兄ちゃん?」

スノウはポツリと呟いた。

「グレイ~僕が抱っこしてもいい?」

「ああ」

グレイはエステルに我が子を託した。
エステルは小さなスノウを抱えてギュッと抱きしめ、優しく笑うと頬擦りした。

*

大学都市にはいくつかアカデミーが存在する。
グレース皇子が通うアカデミーは国が運営する名門校で高級住宅街のA番街にある。
B番街にあるのが魔人が通う全寮制の魔法学校でユハやジョンシアが通っていたアカデミーだ。

C番街には庶民が通う一般的な私立の学院が4つ、D番街はダウンタウンにあるロレンス学園。
ここは少し特殊な教育機関で、劇団員など役者を目指す人や音楽や絵などの分野を磨きたい人、それから料理人になるための専門的な知識が学べる学科がある。
能力とやる気があれば庶民でも金持ちでも差別なく受け入れ、夢を追いかけて入学してくる若者が多い。

エスター国は国を挙げて優秀な人材の育成に取り組んでいる。
シャルロット達が住んでいる西大陸では生まれつきの身分で人生は変わるが、こちらでは誰にでも平等にチャンスがあり実力至上主義というお国柄、富裕層の殆どは成金だろう。

「スイーツアートコンテスト?」

今日、シャルロットがこのロレンス学園の学生祭にやってきたお目当てはこれだ。
ロレンス学園の菓子職人育成コースの生徒達がケーキを作り展示するイベントだった。

それもただのケーキじゃなく、美術品、芸術品のように美と造形にこだわったケーキのビジュアルを審査するものだ。

大人気のイベントで、外部からもこれを目当てにやってくる客がいるそうだ。

「そう。ユハに教えてもらったのよ。販売用のケーキも売ってるんですって」

「ケーキ♪わぁい~」

フクシアとエステルはニコニコご機嫌そうだ。

「シャルロット…メロンはある?」

グレイはぽつりとローテンションな様子でシャルロットに尋ねた。

「どうかしら。シーズンオフだからないんじゃないかしら」

精霊達は本当に甘いものが好きみたい。

(本当はグレース様も誘おうと思ったけれど……)

シャルロットは怒っていたことを思い出して首をブルブルと横に振った。

「いいわ…、今日はケーキをやけ食いしましょう」

「わーい、やけ食い♪やけ食い♪」

一行は学園へ向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~

黒鴉宙ニ
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」 自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。 全然関係ない第三者がおこなっていく復讐? そこまでざまぁ要素は強くないです。 最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...