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オーギュスト国へご訪問〜猫神様の祟り!?もふもふパンデミック大パニック

小話 クロカンブッシュに怪しい雲行き?

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 ーーユハの実家のレイター公爵家の屋敷。
 黒と白を基調とした綺麗な屋敷に貴族界隈でも1や2を争うほど美しいと噂される自慢の広い庭園。王族の分家で由緒正しい血筋に、豊かで膨大な領地や資産を持ち、非常に裕福な家だ。

 春の某日、姉のクリスティの婚約者を交えての食事会が屋敷で行われた。
 城で事務官をしており普段は居城で暮らしているアズや、家出をしたはずのユハも食事会に参加していた。

 両親や兄弟がこうやって集まるのは一~二年ぶりだろうか。

「リタってば、伯爵家のお嬢さんとは婚約破棄しちゃったの?可愛らしいお嬢さんでしたのに……。年始まではうまくいってたじゃない」

 久しぶりに顔を合わせた姉のクリスティがナイーブな話題を開口一番で聞いてきた。
 ユハの一番上の兄で、長男であるリタは胸の内で苦笑いしつつ、平静を装い眼鏡を掛け直した。

「ま、まあ?やっぱり人間ですからね?相性ってものがあるでしょう?」

「そだねー☆まあ、“趣味”が合わないと~結婚生活って難しいもんね☆リタ兄ちゃん」

「なっ……そうだな」

 末っ子のユハは相変わらずヘラヘラ笑っている。
 昔から人懐こい性格ではあったが常に飄々としてて、どこか食えない奴で、長男のリタはユハが少し苦手であった。

 婚約破棄した、いや、されてしまった理由を知ってるとでも言うのか!?
 涼しい顔を貫いたが内心リタは焦っていた。

 婚約していた令嬢と何度かデートを重ねて愛を深めていた。お互い酔っていた事もあり、とある夜、そんなムードになったのだ。そこでリタはうっかり自身の隠していた性癖を露呈してしまった。

 ……そう、お恥ずかしいことに、赤ちゃんプレイがお好みだと言うことを。
 相手の令嬢にドン引きされるのに三秒もかからなかった。
 これは親どころか兄弟でさえ知らないリタの秘密。婚前交渉はタブーである貴族界隈、例の令嬢は周囲には言いふらしていないようだが……。

 ユハが知り得るわけもないか……、なんとか焦る気持ちを宥めていた。

「そ……それはそうと、ユハ、父上とは仲直りしたのか?」

「してないよ?でも今日は必ず出席しろってさ☆まあ、クリスティ姉ちゃんのめでたい席だもん。来れてよかったよ」

「今日の食事会のお料理はユハが作ってくれたのよね、とっても美味しいわ!」

 長テーブルの上にはユハお手製の豪華なフレンチが並んでいた。

「ユハ、これはなあに?」

 姉達がテーブルの上のスイーツに興味津々だ。

「クロカンブッシュっていうケーキだよ」

 無数の小さなシュークリームを飴で繋ぎ積み上げたケーキ。
 ユハが婚約するクリスティのために作ったお祝いのケーキだ。

「まあ、変わったケーキね!」

 執事は物静かに一人一人のグラスに最高級ワインを注いでいる。

「クロワッサンはオーギュスト国のアルハンゲル大公が焼いてくれたよ~、赤ワインはオリヴィア小国の右王様から姉ちゃんへ本のお礼だって!、牛肉はミレンハン国の王妃様から牛一頭丸々プレゼントしてもらいました☆」

 ユハは無邪気に笑った。
 リタは唖然とする。

 公爵家の次期当主候補であるリタでさえ簡単に知り合うことのできないVIPの名を、さらっと連ねる弟に驚愕した。
 ユハは何故か国王ともかなり親密で、小さい頃から度々本殿の銀の間に呼ばれては一緒にボードゲームをしたりお菓子を食べていた。

 だが、家でのユハは公爵家の問題児で、アカデミーは何度も留年するし父が無理やり就かせた仕事は数日で退職、定職にも就かずフラフラ遊び回っている馬鹿な弟だ。

 公爵家では昔から家の跡継ぎの件で兄弟同士骨肉の争いが繰り広げられていたが、ユハは本人も興味を示さないし、親も頭を抱えるほどの問題児で論外だと思っていた。

「ああ、聞いたぞユハ、ミレンハン国から穀物や野菜を輸入するんだってな。しかも破格の関税で!ミレンハン国の貿易に掛かる関税はエゲツないって噂なのによく値切って貰えたなぁ~。宰相が褒めていたぞ」

 アズが口を開いた。

「公爵家の領地の農家と契約もしたんですってね、ユハの技術提供のおかげで今年は豊作だって皆さん喜んでいましたわ。領地からの税収も順調に増えそうね」

 母がニコニコ笑いながら言う。

「小麦粉もペレー国から安定供給できるように手配したんですってね、すごいわ!」

 母や姉達、皆口を揃えてユハを褒め始めた。
 ユハは大きな口を開けておどけるように笑ってる。

 ま、まさか、ユハは公爵家の次期当主の座を狙っているのか?
 それどころか国王に取り入って、この国の宰相、もしくはグレース皇子を蹴落とし次期王の座を狙っているのか……?

 猜疑心に囚われる。

 父は兄弟たちの生まれ順にこだわらず何より実績重視、能力のある者に家の跡を継がせるつもりらしい……。
 今まで馬鹿だ馬鹿と侮っていたが、思わぬところに脅威が存在していたとは……。

 リタの隣に座っている次男のレアも奥歯をギリギリ鳴らしながらユハを睨んでいた。
 ユハはフフンと強気に笑ってこちらを横目で見ていた。

「……出る杭は打たねばならん」

「……珍しく意見が合ったね、リタ兄さん」

「ふふふ……たとえ兄弟であろうとこの世は弱肉強食なのさ」

「ふふ」

 リタとレアは密かに黒い笑みを浮かべ、お互いの顔を見合ってニヤリと笑った。


(まあ、どうせ、俺っちが公爵家の当主の座を狙ってるとか早合点して、出る杭は打ってやる……とか、考えてるんだろうな)

 向こうの席でヒソヒソ話込んでいる上の兄達を傍観しながらユハはクスッと笑っていた。
 兄達の考えることなど何でもお見通しなのだ。

 頭はものすごく良い兄達ではあるが、やる事はワンパターンだし、読めるし、捻りがないし、脅威でも何でもない。

 こっちには裏ルートや独自調査で仕入れたネタがあるのだ。
 ユハが本気を出せばどんな相手であろうと、社会的に抹殺して再起不能にぶっ潰せる。

 これでも平和主義だし、兄弟達に愛情はあるのだ。

(暇だし、適当に遊んであげようっと☆)

 ユハは笑顔でワインを飲み干した。
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