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*シャルロット姫と食卓外交

お城へ帰ろう

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「派手に暴れたようじゃないか」

 上空より誰かの声がする。
 朝朗の林の中に、天空より一匹の大きな幻狼が舞い降りた。
 夜明けの空に似たコバルトブルーの毛並みを明け方の爽やかな風に揺らし、凛とそこに立っている。

「コボルト?」

 グレース皇子はその名を呼んだ。

「我はレイメイに派遣されたのだ。そこのクロウが馬鹿をやらかしてると」

 レイメイとはクライシア大国の王の名だ。
 クロウは自分に向かって怖い顔をしながらズカズカと近付いてくるコボルトを見て怯えながら後退る。

「幻狼とは契約者の友であり好きパートナーであるものだ。」

 コボルトは横目で先ほどのクロウの暴走で軽い怪我を負ったグレース皇子をチラリと見ると、また尻尾を巻いて耳を垂らしている情けない姿のクロウに視線を向けた。

「どんな理由があろうと友を無闇に傷付け、友の伴侶を奪い、暴走するなど幻狼の威信を失墜させる悪質行為である。よって、お前を厳罰を科す」

 コボルトの厳しい言葉にクロウはギョッとした。
 シャルロットにはクロウの姿もコボルトの姿も視えないが会話だけは聴こえる。

「良いな、グレース」

「ああ」

「待って!コボルト!グレース!ごめんなさい!ごめんなさい!もうしない、もうしないから……っ」

 アワアワと混乱しているクロウに向かって、コボルトは問答無用で魔法を掛けた。
    白い稲妻のような光がクロウに直撃した。

「ぎゃー!」

 クロウの叫び声が王有林に轟いた。

*

  ーー城に戻ったシャルロット一行は揃って第二騎士団の詰め所に居た。

 
「父さん!?……“コレ”が?」

 コボルトがバルキリー夫人の領地から手土産に牛一頭を持って来たので、今日は第一騎士団と第二騎士団合同で親睦会と、お疲れ様会を兼ねたバーベキューをやるそうだ。
 先程から若い騎士たちがせっせと牛を解体し、野菜を切ったりと各々準備を始めている。

 そこでクロウとユーシン。
 前世の父と子が感動の再会を果たしたのだが……。

 驚愕した顔のユーシンの目の前には、グレース皇子が椅子に腰をかけている。
 その膝の上には黒い毛並みに大きな黄金の瞳をしたチワワがちょこんと座っていた。

 コボルトの魔法により、クロウは黒いチワワに変えられてしまったのだ。

 あの後 城へ戻り、国王陛下から直々にこっ酷く叱られたクロウは罰として“社会奉仕命令”を言い渡された。
 王族に危害を加えたことは場合によっては死刑になるような重罪だが、国のシンボルでもある幻狼を幻狼を処罰する法はなく、禁固刑にもできない。
    グレース皇子自身がクロウを許したこともあり、保護観察処分程度で済んだのだ。

 コボルトによれば自尊心の高い幻狼にとってチワワのような、ちんけな小型犬にされるのは最も屈辱的な罰らしい。

「ーー転生というものがあるのだな。クロウのその“前世”の妻がシャルロット姫で、ユーシンの母親だったとはな。不思議なこともあるものだ」

 グレース皇子はしみじみ考えていた。
 そして膝の上のチワワを持ち上げると顔を見合わせた。


「……クロウ。私はシャルロット姫と結婚しようと思う、異議はないか?」


 クライシア大国の皇子の結婚は最終的に魂を分かつ幻狼の合意が必要なのだ。

「うんっ。ていうことは~、シャルロットは私の奥さんってことにもなるんだよね!?ていうか、彼女がグレースの婚約者だって知っていたらこんな事しなかったのに!なんで言ってくれなかったの?」

 クロウは嘆いていた。

「婚約者の名前は言ってあっただろう。それに、お前が考えもなしに行動するからだろう?その間抜けな犬の姿で反省するんだな。あと、もう少し人の話も聞く努力をしろ。それに、お前はただのペットだ、ただのコブだ」

「ペットじゃないもん!コブでもないよ!」

 チワワはグレース皇子の腕の中で荒ぶる。
 二人の様子をユーシンは微笑ましそうに見ていた。

「……父さん、あんまり母さんやグレースを困らせるなよ」

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