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4 映画撮影
21日目 東欧のカラディシア
しおりを挟む浄とは、ぼくが物心つく頃からの付き合いだ。
子供の頃から、サッカーとは名ばかりの蹴り合いをしたり、図書室で一緒に本を読んだりしていた。
小等部生のときに、なにを勘違いしたのか、ぼくに告白をしてきてからは距離が開いてしまった。
ぼくたちの関係はそれっきりだと思っていたのだけれど、あちらはそう思っていなかったようで、高等部に進級したとき、あちらから声をかけてきた。
中等部を卒業した時点で、ぼくは、学年上位12位の成績を取り、浄は24位の成績を取った。
上位12位の成績を取った者は学園の仕事を手伝ったり、希望する職種のインターンに参加することが認められていたので、ぼくは、インターポールのインターンとして働き始めることにした。
上位12位に入り込んだぼくには、13位から26位までの成績を取った同級生を部下として雇う権利があったけれど、生来、人付き合いが好きなわけではない上に、自分の技量や頭の出来に自信のあったぼくは、誰のことを雇うこともしなかったわけだけれど、そんなぼくに自分を売り込んでこようとする同級生たちも何人かいた。
在学中にインターンとしての経験を積んだり、学園の仕事を手伝ったことは、魔法界において、かなり大きな意味を持つ。
好き好んで目立とうとする人間性が、ぼくには受け付けなかったので、ぼくは、仕事を手伝わせて欲しい、インターンとして働くなら、自分を助手にして欲しいと言って近寄ってくる同級生たちを避ける以外の選択肢はなかった。
浄は、そうやって自分を売り込んできた人たちの1人だった。
『お前を守れる男になりたくて頑張ったんだぜ』
緑色の瞳でぼくを見ながら言う浄だったけれど、ぼくは『ぼくは男だって言ってんだろ』と言ってその股間を蹴り上げて奴に背を向けたのだった。
そんな浄は、今はウルグアイで別のインターンの下で働いていると小耳に挟んだのだけれど、何故か今、ぼくと同じテーブルに着いていた。
きらきらと輝く緑色の目でぼくを見ている。
やめろそんな目で見るな。
知ってんだぞお前。
エロいこと考えてんだろ。
そんなことを思いながら、ぼくは、浄から視線をそらした。
テーブルには、ぼく、アーヴィンさん、ヨハンナさん、シェルナーさん、そして、初対面の、灰色の目をした男性が1人。
彼は、名前をステファノと名乗った。
ぼくたちは、東欧カラディシアへと向かう長距離列車の食堂車にいた。
食事がてら、簡単な作戦会議というわけだ。
食堂車内には、他のお客さんはいなかった。
シェルナーさんが、精神の魔法を使って人払いを行ったらしい。
「カラディシアは、独立を謳っているが、未だに適っていない、人口1万人の小さな国だ」シェルナーさんがテーブルに置いたのは、数枚の写真。航空写真と、主要な場所がいくつか移されたもの、そして、美術館。
見た感じでは、普通の東欧の首都という雰囲気だ。
大きな石造りの建物、大きな道路。
「独立の動きは近年になって、急速に生まれたものでね、人々の団結は固く、よそ者を受け付けない。スラブ系は特に。私達のような西洋の連中も良い顔をされない。試しに、捜査官を数名向かわせたんだが、入国直前から監視が付き、最後は銃で脅され、尋問の後に追い出されてしまった。広さはルクセンブルクと同じくらい。もっとも、そのほとんどは農耕にも使えないような広大な雪原だ」シェルナーさんは、そのしなやかな人差し指で、美術館の写真を示した。「連中の目的の吸血鬼は、この地下にある棺で眠っている。回収が適っていないのは、カラディシアの人々にとって、私達の存在が警戒の対象でしかないからだ」シェルナーさんはコーヒーを啜り、唇を濡らした。「捜査官が1人潜入している。彼が逐一情報を送ってくれている。彼は守護天使の魔素の持ち主で、神の幸運に守られているから、心配はいらないし、救出の必要もないよ」シェルナーさんは、1枚の顔写真をテーブルに置いた。「ユライだ。ソラとヨハンナは知っているんじゃないか?」
ぼくは頷いた。
3年前、魔法使いの世界で知り合った。
口を開けば愚痴ばかりが出てくるような、アラサーでバツイチで娘さんラブの、スロヴェニア系アメリカ人で、元ニューヨーク市警の警官だ。
彼は人間だけれど、その身に宿している魔素が特別で、それこそ神に守られているかのような幸運で戦場を生き抜いていた。
「ユライは今、カラディシア内の安いホテルに泊まっている。そこで彼とは合流、その日のうちにすべてを終え、リヨンに戻る」
ぼくは頷いた。
「まずは、私がカラディシアの街のすべてを精神の魔素で包む。ソラ、ユライ、ステファノは精神体になったまま美術館に潜入するんだ。アーヴィン、ジョー、ヨハンナは、周辺の観察」
シェルナーさんは、ぼくとヨハンナさんの前にA4の紙を置いた。
紙には、美術館の館内地図と内部の写真。
「頭に入れておくように。作戦は10分で終わらせる」
「連中が出てきたら?」ヨハンナさんが言った。
シェルナーさんがヨハンナさんを見て、ぼくとアーヴィンさんを見た。「カラディシアの街を精神の魔素で包む際は、可能な限り全員を眠らせて記憶を奪うようにしておく。起きていられるのは、精神の魔法使いと、強力な万能の魔法使い、あとは対処が早かった極少数くらいだ。私の魔法に対抗出来るということはそういうことだが、そんな奴は数えるくらいしかいない。それくらいなら対処出来るだろ?」シェルナーさんは、ファイルをぼくとヨハンナさんの前に置いた。
中には、いくつかの顔写真と名前、扱う魔素の種類、それぞれの過去の所業などが記されていた。「容赦はしなくて良い。それぞれのやり方で無力化すれば良いさ。ただ、彼らが情報源であることを忘れずに」
ぼくは頷いた。「運転中の人とかが眠ったら、事故になるんじゃ……」
シェルナーさんは優しくほくそ笑んだ。「言ったろ。すべてを精神の魔素で包む。ついでに、すべてを精神体に変える。そうすればあらゆるものが物理上の制約から開放される」
「出来るんですか?」
シェルナーさんは笑った。
ステファノさんが、意味ありげな目でシェルナーさんを見た。
シェルナーさんはかぶりを振りながらコーヒーを啜った。「出来るさ。今回の作戦は、私達とユライの7人で行われる。十分すぎるくらいだ」
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