絶対お兄ちゃん主義!

桜祭

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1章

10分

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講習での初めての休憩。
時間は10分、どのくらいの時間置きの休憩とは決めないが、目安は学校の授業と同じく50分置きを目標にしている。
アラームをセットさせ流亜を休憩させると椅子の上でぐーっと伸びた。

「達裄先輩、青空高校の由来とかってあるんですか?」
「なんかあったな。青空の様に広い知識を持つ人間に成れとかそんな意味」
「流石、優等生を育てる学校ですね。そんな意味があったんですか。てっきり空の様に高い偏差値と倍率で受験生を真っ青にさせるというドSな意味があると思ってました」
「お前すっげーネガティブな」

くだらない雑談で休憩時間を消費させては勉強の繰り返しを続けるのであった。
流亜は基礎はなっているが応用する問題が苦手でそこを中心に教えていた。

「いいか、文章題は読みながら使う公式を絞っていくんだ。読み終えた途端計算に移れる様にな。消去法がてっとり早いな。どうせ使う公式はこれの内のどれかだからこれを消して解いていく。これは暗記しとくと7割解ける」
「へぇ、こんなに絞って7割ってすごいですね。というか教えるセンスありますね。先生の授業よりわかりやすいです」
「教師の授業ってすぐ脱線して1個1個ゆっくり進めるから次の授業いったら忘れやすいかな。一気にこれ大事って言われた方が覚えられると思う。でも俺教えるセンスなんか無いぞ」
「去年の経験上の話ですか?」
「ちょっと違うな。勉強を教える側って3倍理解しないといけないって言うだろ?俺には3倍では無理だった。8倍理解してやっと教えられたよ。でも教えられただけ。だから解説も出来る様になるまで10倍理解したから」
「……誰ですかあんた?」

教えるとすぐに実践、これでいいか問う。
光、星丸はそれが出来ないで、実践して無理だったから嘘付こうというスタイルで最悪だった。
何回見捨てようと縁を切ろうと迷ったもんだ。
流亜は正直にわからなかったら聞く。
これが出来るか出来ないかで結構変わるのではないだろうか。

「早いなもうあと1セットってとこか。今日最後の休憩だ」
「うぅ、勉強ばっかり……」
「俺は何しに来てんだよ……。じゃあ休憩の10分間俺がなんかしてやろう。肩もみでもマッサージでも柔道でも」

アラームを手に持ち流亜の頼みごとを聞いたら押してやろう。
要望を聞いている今から押す程小さい男ではない。

「柔道いらんでしょ。そうですね、……なら先輩プレイをしましょう」

先輩プレイ。
全く意味がわからなかった。

「私憧れのシチュエーションプレイですよ。私が達裄先輩の後輩ですがプレイの間だけ私が先輩になって達裄先輩が後輩になって学園生活の恋愛シチュエーションを演じるんです。アドリブで私を楽しませてください」
「時間勿体なくね?」

しかし本人はそれが良いと言うので今から開始すると宣言しアラームをセットした。
残り9分59秒と表示されて先輩プレイが幕を揚げた。

―――――

日の明るさがまだ残る放課後。
だるそうに机から立ち上がる遠野達裄。
今日は部活をさぼってゲーセンでも行こうと財布を覗き込むがお金が無かった。
仕方ない、帰るかと教室の外へゆらゆら歩いて昇降口玄関へ辿り着き外履きを持ち出そうとする彼に甲高い聞きなれた声が響いた。

「こらー、達裄また部活さぼろうとしてる」
「げっ、流亜。違うんすよ、今日じいちゃんの法事なんだよ」
「先輩を呼び捨てにするなっていつも言ってるじゃない。というか今年のじいちゃんの法事16回もしてるよね?」
「俺じいちゃん48人居るんで」
「複雑な家庭事情グループOLD48、……なわけないじゃない。どうして実力あるくせにさぼるのよ」
「見たくねー顔があんだよ。しかも目の前に」
「はぁ!?せ、先輩にそういう事言う!?」

いつもは口でぶーぶー言いながらも見逃す先輩の流亜。
しかし今日の流亜は引き下がらなかった。

「というか心配してあげてる先輩にそういう事思っても言わなくない?」
「はぁ!?何うぜー事言ってんだよチビ!てめーは実力無いんだからそんな事言ってる時間無いだろ」
「っ、……酷いよ達裄……」

さっきまでの強さはどこへやら。
簡単に涙目になる流亜は先輩の威厳など既に消えてた。
溜め息をついた達裄、面倒そうな目で流亜を見ているのであった。

「そういううざったいけどキレイな顔で泣くからお前を見たくないんだよ。あまり俺を好きにさせるな。マジ恥ずかしくなるからさ……。恥ずかしすぎて顔見れなくなると俺が顔見たくても見れなくなる」
「な、何言ってんのよ達裄……」
「こんなキレイな顔見てると愛おしくなる。キスしたくなる。つーかする。嫌なら逃げろよ後悔するから」

気になる後輩、そんな彼をずっと叱って気を惹かせようとしていた。
それがこんな形で告白されるとは。
覚悟した流亜の目の前残り5センチ。
ーー3センチ。




ピリリリリ!
タイムアップの電子音が無常に鳴り響いた。


―――――


「よし、休憩終わり」

流亜の唇残り3センチ目の前で流亜の背に合わせた目線を上げていつもの視点の高さに戻す。
流亜はまるでメデューサの姿を見て石にされたかの如く固まったまま動かなかった。

「おーい、流亜?ルアルア?ルアー?アルー?ルアちん?ルーアー?」
「た、達ゆき……」

流亜のあだ名を色々付けてみて呼んでみたものの混乱しているのかいまだに呼び捨てであった。
個人的ルアルアが好きだ。

「いつまでそうやってんだよ……」

結局5分間観察していたが動く気配がなく、それからもう5分やっと流亜は混乱状態が解かれて復活した。

「し、してくれないんですか?」
「……」

おかしい。
いまだに混乱している。
本当に混乱が解けて思い出した時、ふいに口走った言葉で悶絶する。
今の状態はそんなわけもわからず自分を攻撃している様なものなのだろうか?
光ならまだそう思っている可能性はあるかもしれないが、流亜が俺なんかとキスをしたいと思うわけないしな。
女との距離感は難しい。

「遊びとか軽い気持ちでキスする程流亜の存在は俺にとって小さくないからしないよ」
「じ、じゃあ今のって……」
「タイミング見計らってたね」
「うわわぁ……」
すごく慌ててしまった。
赤くなって両手で頭を押さえて俺と目を合わせない為か下を向いてしまった。

「ほら座れって。本当は言いたくなかったんだけどさ、俺お前と一緒に学校行きたいから協力してるんだぜ。だから俺の気持ちも汲んでくれよ」

そう言って流亜の背中を勉強机の椅子まで押す。
流亜は俺に押されたままにされて足を動かしていた。

「そ、そんなに私と一緒に行きたいですか。なら頑張りますよ!…………私の気持ちも少しは汲めよなぁ……」

元気な宣言からぼそっと愚痴がこぼれていた。

「俺もお前の気持ち汲んでるさ。青高行くんだろ」
「だからなんでぼそっと呟いた言葉聞こえてんですかぁ!この地獄耳!鈍感!そして解釈の仕方!」
「?」

鈍感?
むしろ星丸と雨が付き合う前から気持ちに気付いていたから鈍感ではない気するんだけどなぁ。
解釈の仕方ってどういう事だ?
青高に行きたいんじゃなくて、秋風女子に行きたくないって事か?

それからはさっきまでの時間同様に勉強を教えていき、昼の12時から10分ぐらい延長して今日の勉強会はお開きになった。
流亜の家から徒歩10分の道のりを歩き、我が家へと帰還するのであった。
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