75 / 136
第5章 鳥籠の少女
31、バッドタイミング
しおりを挟む
マスターの娘ーー谷川咲夜がズカズカと入ってきた。
マスターが「おかえりー」と挨拶を返す。
「ん?マスターさんのお子さんですか?」
永遠ちゃんが入ってきた女の子を見て、マスターに質問をすると当然コクリと頷いた。
「そうそう。僕の子供。名前は咲夜っていうの。宮村さん達と同い年で同じ学校だから仲良くしてやって欲しいな」
「む?誰だ、マスター?」
「僕の店に最近通うようになった子」
咲夜の質問にマスターが答えていると、永遠ちゃんがそっと俺に耳打ちをしてくる。
「自分の父親を『マスター』って呼ぶって変わった子ですね」
「そうですね……」
3年以上見てきた光景なので、咲夜のマスター呼びはもはや違和感もない。
日常そのものである。
「こっちがね、宮村永遠さん」
「よろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む」
ちょっと胸を張って偉そうな返事をする咲夜。
だから友達ができないんだぞお前……。
「こっちがね、明智秀頼さん」
「よろしくお願いします」
「うむ、よろしくたの…………って秀頼じゃねーか!ふざけてるだろ貴様ら!?」
咲夜が俺に近付き睨みを効かせてくる。
凄い不機嫌な目である。
「おい、マスター!?どういうことだ!?」
「だって秀頼君が初対面ってノリでくるからー」
「なんで初対面なんだよ!ウチとこれまで積み上げてきた思い出はなんだよぉぉ」
咲夜が涙目で俺を上目遣いで見てくる。
俺の良心を痛む。
ふざけたノリならいくらかギャグで流せても、悲痛なノリをされるとギャグで流しにくくなる。
「咲夜さん、ちょっとー?いつまで待たせるのー?」
「待ってくれ理沙!だって秀頼がー!」
「え?なんで明智君が?」
「…………」
理沙が店に顔を出したと思ったら、タケル、絵美、津軽というメンバーも一緒に来ていた。
……全員身内じゃねーか。
「秀頼めぇー、ウチとの約束を断ってデートしやがってー。友達をウチの店に呼ぶって流れだったのに貴様だけ捕まらなかったんだぞ」
「あの、本当に帰って良いかな?マジで……」
いつもはマスターと俺の会話しかない喫茶店は、いつの間にか中学生の溜まり場になっていた。
「え?ひ、秀頼さん、マスターさんと知り合い……?」
「知り合いというか秀頼君は、僕の姉貴の家でお世話になってる居候。親戚の子だよ」
「え、えぇぇぇ!?」
永遠ちゃんが驚愕の声を上げた。
「なんで秀頼君が永遠と一緒にいるんですか!?酷いよ、そんな抜け駆け!?」
「おい、秀頼!俺と2人ではいつ遊んでくれるんだよ!?」
「明智君、いつになったらスターチャイルドのCD買いに付き合ってくれるんですか!?」
永遠ちゃんと2人で会っていたことにズルいズルいと騒いだのが絵美とタケルと理沙だった。
そもそも後半2人に至っては『また今度』ってだけで日にちも決めていなかったはずなんだが……。
「もう恥ずかしいよ!秀頼さん!私が常連面してたのに、あなたの方が常連なんて!最初に教えてくださいよ!」
赤くなった永遠ちゃんが俺の身体を揺らしてくる。
「秀頼ぃ、次は絶対ウチの約束優先だぞ?」
俺の手を握りながら泣きそうな目で訴えかけてくる咲夜。
「ふっ、デート邪魔されてざまあ。どんな気分?どんな気分?」
俺の不幸が面白いのかニヤニヤ笑ってくる性悪女の津軽。
「うわー……、僕や姉貴が思ってた以上にすけこましだこいつ……」
ただこの光景を止めるでも、煽るでもなくただぼんやりと眺めているだけのマスター。
「あの……、本当……、全員ごめん……」
「許さないですよ秀頼君!わたしともデートしましょう!」
「俺と一緒にゲーセン行くぞ秀頼!」
「兄さんより、まず私を優先してよ明智君!」
「ウチの約束も守れぇぇ、ひでよりぃぃ」
「秀頼さん、そういう隠し事は次から無しですよ!」
「明智君、がんばれー」
「姉貴にちょっと秀頼君の育て方間違ってんじゃないかって連絡しとこうかな……」
明智秀頼って、本当になんでこうも運が悪いのかと己の不運を呪うのであった……。
マスターが「おかえりー」と挨拶を返す。
「ん?マスターさんのお子さんですか?」
永遠ちゃんが入ってきた女の子を見て、マスターに質問をすると当然コクリと頷いた。
「そうそう。僕の子供。名前は咲夜っていうの。宮村さん達と同い年で同じ学校だから仲良くしてやって欲しいな」
「む?誰だ、マスター?」
「僕の店に最近通うようになった子」
咲夜の質問にマスターが答えていると、永遠ちゃんがそっと俺に耳打ちをしてくる。
「自分の父親を『マスター』って呼ぶって変わった子ですね」
「そうですね……」
3年以上見てきた光景なので、咲夜のマスター呼びはもはや違和感もない。
日常そのものである。
「こっちがね、宮村永遠さん」
「よろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む」
ちょっと胸を張って偉そうな返事をする咲夜。
だから友達ができないんだぞお前……。
「こっちがね、明智秀頼さん」
「よろしくお願いします」
「うむ、よろしくたの…………って秀頼じゃねーか!ふざけてるだろ貴様ら!?」
咲夜が俺に近付き睨みを効かせてくる。
凄い不機嫌な目である。
「おい、マスター!?どういうことだ!?」
「だって秀頼君が初対面ってノリでくるからー」
「なんで初対面なんだよ!ウチとこれまで積み上げてきた思い出はなんだよぉぉ」
咲夜が涙目で俺を上目遣いで見てくる。
俺の良心を痛む。
ふざけたノリならいくらかギャグで流せても、悲痛なノリをされるとギャグで流しにくくなる。
「咲夜さん、ちょっとー?いつまで待たせるのー?」
「待ってくれ理沙!だって秀頼がー!」
「え?なんで明智君が?」
「…………」
理沙が店に顔を出したと思ったら、タケル、絵美、津軽というメンバーも一緒に来ていた。
……全員身内じゃねーか。
「秀頼めぇー、ウチとの約束を断ってデートしやがってー。友達をウチの店に呼ぶって流れだったのに貴様だけ捕まらなかったんだぞ」
「あの、本当に帰って良いかな?マジで……」
いつもはマスターと俺の会話しかない喫茶店は、いつの間にか中学生の溜まり場になっていた。
「え?ひ、秀頼さん、マスターさんと知り合い……?」
「知り合いというか秀頼君は、僕の姉貴の家でお世話になってる居候。親戚の子だよ」
「え、えぇぇぇ!?」
永遠ちゃんが驚愕の声を上げた。
「なんで秀頼君が永遠と一緒にいるんですか!?酷いよ、そんな抜け駆け!?」
「おい、秀頼!俺と2人ではいつ遊んでくれるんだよ!?」
「明智君、いつになったらスターチャイルドのCD買いに付き合ってくれるんですか!?」
永遠ちゃんと2人で会っていたことにズルいズルいと騒いだのが絵美とタケルと理沙だった。
そもそも後半2人に至っては『また今度』ってだけで日にちも決めていなかったはずなんだが……。
「もう恥ずかしいよ!秀頼さん!私が常連面してたのに、あなたの方が常連なんて!最初に教えてくださいよ!」
赤くなった永遠ちゃんが俺の身体を揺らしてくる。
「秀頼ぃ、次は絶対ウチの約束優先だぞ?」
俺の手を握りながら泣きそうな目で訴えかけてくる咲夜。
「ふっ、デート邪魔されてざまあ。どんな気分?どんな気分?」
俺の不幸が面白いのかニヤニヤ笑ってくる性悪女の津軽。
「うわー……、僕や姉貴が思ってた以上にすけこましだこいつ……」
ただこの光景を止めるでも、煽るでもなくただぼんやりと眺めているだけのマスター。
「あの……、本当……、全員ごめん……」
「許さないですよ秀頼君!わたしともデートしましょう!」
「俺と一緒にゲーセン行くぞ秀頼!」
「兄さんより、まず私を優先してよ明智君!」
「ウチの約束も守れぇぇ、ひでよりぃぃ」
「秀頼さん、そういう隠し事は次から無しですよ!」
「明智君、がんばれー」
「姉貴にちょっと秀頼君の育て方間違ってんじゃないかって連絡しとこうかな……」
明智秀頼って、本当になんでこうも運が悪いのかと己の不運を呪うのであった……。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる