朔の生きる道

ほたる

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定期入院

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定期入院当日の土曜日の朝。
父さんがいつものように尿カテを抜いている不快感に目が覚めた。

「……ん………やぁ…」

「おしっこの管抜いてるだけだから、まだ寝てていいぞ。」

「………ンん…」

だけど普段なら夜に服用している薬の作用で再び眠気に呑まれて行くのに、今朝は完全に目が覚めてしまった。
こんなにも早く憂鬱な1日が、スタートしてしまい残念な気分になる。

ボーと抜いたカテーテルを片付けている父さんを見ていて気がついた。

「…とー、なんで私服?」

「ん~?…あぁ、今日は夜勤に変わったんだよ。早いけど起きるか?」

「……起きない。ご飯も食べない。病院も行かない。」

「ご飯食べないのはいいけど、病院は行くぞ。秦先生に前の検査結果も聞かないといけないだろ?」

「とーさん達だけで行って来てよぉ…グスッ…。俺行きたくないぃぃ…。」

コンコン……ガチャ…

「おはよう。朔の声がするから来てみたら泣いてるの?」

「泣いてなぃぃ…ぅう……」

蒼が洗腸道具を持って部屋に入って来た。

「いつもより早く目が覚めたから、不機嫌なんだよなぁ。洗腸は俺がやっとくから置いといていいぞ。」

「分かった。父さん頼んだよ。」

「やらない!やらないぃ!」

置いて行こうとする蒼の腕を力の入らない手でペシペシ叩いて抗議したが、頭をくしゃっと撫でて部屋を出て行った。

「よし…サクッと洗腸してリビング行くか。」

「しない!洗腸しない!とーもここに寝て…。」

「なんだ?今日はとことん甘えるんだな。…洗腸は病院でしてもらうか。」

吸水シーツを広げ始めていたのを片付けて、俺が寝るベッドの横に寝転んでお腹を撫でてくれた。

「お腹に栄養入れたら、体も元気になるからな。父さんも今日は一緒に病院に行くからな。」

「…ん。絶対一緒に来てよ。」

「あぁ、絶対一緒に行くよ。」

父さんがそう言ってくれてとても安心した。


いつもより早く起きていたけど、病院に行きたくない気持ちが強くて支度に時間がかかり、家をギリギリに出る事になってしまった。

「朔、そろそろ出かけるぞ。足に装具着けるな。」

「……着けない。」

「着けないと歩きずらいだろ。ほら、足貸して。」

装具を片手に右足を掴んで来るのを足をジタバタさせ抵抗した。

「とーさんが抱っこしてよ…。」

俺の抵抗に装具を着けるのを諦めた父さんは、入院バッグの中に装具をしまい俺の体を軽々と抱え上げ車に連れて行った。

病院に着くと、母さんに入院バッグを預けて再び俺を抱えて、小児科病棟へ上がった。

「朔、おはよう。…どうした?お父さんに抱っこされて来るの久々じゃんか。」

俺が入院する時に高確率で担当に着いてくれる男性看護師の山添さんが笑いながら迎えてくれた。
山添さんは、小児科では数少ない男性看護師で、優しくてノリも良くて頼り甲斐のある兄貴肌な人で、俺が最も信頼している看護師の1人だ。

「今日から宜しくお願いします。朝から病院に行きたくないって駄々捏ねてまして…。」

「そういう日もあるよな?…病室に案内しますね。」

ナースステーションの奥にある個室が、俺が定期入院する時に使う部屋だ。
ナースステーションとはガラス張りの壁で仕切られていて、病室の様子がよく見えるような造りになっている。

病室に入りベッドに俺を下ろした父さんは、母さんと秦先生に検査の結果を聞きに行くと
言って出て行こうとする。

「とーさん!…ずっと一緒に居て!これから洗腸されるのに1人じゃ嫌だ!」

「……母さん、どうするよ?」

「今日は甘えたい気分みたいだから、一緒に居てあげて?私が秦先生とお話してくるわ。」

「分かった。」

母さんが病室を出て行って、山添さんがガウンタイプの病衣を手渡して来た。

「朔、洗腸道具持って来るから着替えててな。」

山添さんが出て行った後、父さんに愚痴を零した。

「……ん~。……ホントは洗腸も栄養剤もやりたくないんだよ?」

「…そうだよな。」

「…ぅん。お尻から管通されて、夜通し襲って来る排便欲求に耐え続けるのは辛いんだよ。でもさ、栄養剤入れて貰わないとしんどくなるし…。定期入院の後は体が軽いのも事実だし…。」

「…1人でいっぱい頑張ってくれてありがとうな。」

父さんに頭を抱え込むように抱きしめられ、少しだけ涙が零れた。
その後服を脱ぐのを手伝って貰いガウンタイプの病衣に着替えてベッドに寝転んだ。

「朔、抱き枕ここに置くな?」

「…とーが横に寝てよ。」

「いいけど、泊まってはやれないぞ?」

「分かってるよ。処置してる間だけでいいから…。」

父さんと向かい合うようにベッドに寝転び、優しく背中を撫でてもらっていると山添さんが戻ってきて、洗腸が始まった。

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