上 下
46 / 46
第二章

46、身勝手な彷徨い

しおりを挟む
エレオノーラは庭をしばらくあてもなく歩いた。
陽も暮れてぐっと冷え込んで来ているが、頬に当たる乾いた冷たい風が心地よかった。
ルートヴィッヒを裏切ってしまった後悔が心を占めている。
ルートヴィッヒを愛しているのに、何故フランツの存在にあんなに心を揺さぶられて、馬鹿げた質問をしてしまったのか。
久しぶりに再会したフランツを困らせもした。
自分の心が分からなくなってくる。
どっちにしても言えるのは、自分はずるい人間だと言う事だ。
貴族間の婚姻に恋愛感情は必要ない。
けれど、ルートヴィッヒに愛していると自分から言ったのに、ルートヴィッヒがその想いを受け止めてくれたのに、舌の根も乾かぬうちに自分から裏切った。
あんなに優しくて、温かくて、自分を大切にしてくれる人を。
フランツにも、どうしようもない感情をぶつけてしまった。



自分のしでかしたことを後悔し、ルートヴィッヒに会わせる顔も無いのに、今すぐに会いたかった。
ルートヴィッヒに抱きしめて、その腕の中に閉じ込めて欲しい。
自分がまた愚かな事をしたり、考えたりしないように。

(ルドに会えるのは明日だけど、今日帰っても大丈夫かしら……)

「エル、こんなに寒い所に居たら風邪をひいてしまうぞ」

「ルド……」

考え込んでいてルートヴィッヒが近付いて来ているのにも気付かなかった。
ルートヴィッヒは静かにエレオノーラの所までやって来ると、その肩に大きくて暖かなストールを掛けてくれた。
かすかにルートヴィッヒの香水の香りがする。

「エルを迎えに来た。しっかりご飯を食べて、暖かくすると約束したのを忘れたか?」

そんなに長く離れていたわけじゃないのに、ルートヴィッヒが目の前に居てくれるのが奇跡みたいだった。

「ルド、私……」

エレオノーラが謝ろうとルートヴィッヒを見上げると、ルートヴィッヒに強く抱き締められた。

「こんなに冷えて──寒かっただろう……」

「いえ、寒くありません。ルド、私、お話ししなくてはならないことが……」

「分かった。でもまず身体を温めてからだ」

ルートヴィッヒはエレオノーラを軽々と抱き上げると、何も言わずにエレオノーラの部屋まで戻った。
ファンデンブルク家のエレオノーラの私室にルートヴィッヒが入るのは初めてだった。
しばらく暖炉の前のカウチに座って暖まりココアを飲むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。

「エル、今日はすまなかった」

「何故ルドが謝るのですか?」

自分が謝ろうと口を開きかけた時にルートヴィッヒの謝罪を受け、不思議に思った。

「エルにも、ノイマイヤー大佐にも、迷惑を掛けたからだ。俺の勝手な一存で二人の間に介入するようなマネをした」

「いえ、大佐はどうか分かりませんが、私は話を聞けて良かったです。ずっと、気になっていたことでしたから……」

きっと失望しているだろう。
自分の裏切りに怒っているだろう。
エレオノーラは恐る恐る隣に座るルートヴィッヒの目を見た。

「エル、そんな『この世の悪は全て自分のせいです』、みたいな顔をするな。悪いのは俺なんだから」

ルートヴィッヒは困ったように微笑んだ。

「エルは何も悪くない。大佐も悪くない。俺は……少し悪いな、いや大分タチが悪い」

「いえ、ルドは悪くありません!! 悪いのは私で……私、ルドを愛しているのに、大佐に会って心が乱れて──」

エレオノーラはルートヴィッヒに説明しようとするも、言葉が上手く見つからない。

「エル、大丈夫だ。何も言わなくていい。その気持ちはエルの小さい時からのもので、一過性の恋愛感情なんかではない、人生において大切にすべきものだ。そして今、エルはここに居る。それだけで、俺には十分だ」

「でも……」

「まぁ正直言うと大佐に嫉妬している。だが男はそう言うのを見せたがらないものだ。今夜は格好つけさせてくれ。明日になったら気が変わってすごく嫉妬心丸出しになるかもしれんがな」

ルートヴィッヒがおどけて言った。

「ルド……私、ルドを愛しています」

例えずるくても、フランツに心が揺さぶられても、ルートヴィッヒを愛している。
この人の事が愛おしい。

「わかっている」

ルートヴィッヒは嬉しそうに微笑んだ。

「俺もエルを愛している」

(こんなどうしようもない私の言葉を、ルドはまだ信じてくれている……)

ルートヴィッヒはエレオノーラをその腕の中に閉じ込めた。



しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

yunashu
2023.02.06 yunashu

ルートヴィッヒのこと、偏屈で女嫌い、と描写があったような気がしますが……エレオノーラと会ってからは女を抱いてないって、、しっかり女遊びしてたようですね。いきなりキスしてくるくらいだし、遊んでそうでちょっと残念💧もっとお堅い人かと思いましたが……題名の堅物騎士様とはフランツのことかな?
フランツがなにを考えてたのかも知りたいですね。
続き楽しみにしてます!

灰兎
2023.02.07 灰兎

yunashu様、
この度はコメントいただきどうもありがとうございます!(お礼を申し上げるのが遅くなりすみません)
拙作を隅々まで読んでいただき恐縮です🙇‍♀️
とっても嬉しいです💕
もうしばらく話は続きそうなのですが、お付き合いいただけましたら何よりでございます。
どうもありがとうございます🙏💖

解除

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく

愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。 貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。 そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。 いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。 涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。 似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。 年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。 ・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。 ・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・多分ハッピーエンド。 ・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。

没落寸前子爵令嬢ですが、絶倫公爵に抱き潰されました。

今泉 香耶
恋愛
没落寸前貴族であるロンダーヌ子爵の娘カロル。彼女は父親の借金を返すために、闇商人に処女を捧げることとなる。だが、震えながらカジノの特別室へ行った彼女は、部屋を間違えてしまう。彼女は気付かなかったが、そこにいたのはバートリー公爵。稀代の女好きで絶倫という噂の男性だった。 エロが書きたくて書きました。楽しかったです。タイトルがオチです。全4話。 色々と設定が甘いですが、エロが書きたかっただけなのでゆるい方向けです。 ※ムーンライトノベルズ様には改稿前のものが掲載されています。

皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~

一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。 だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。 そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。