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第二章
42、悪友と面談と
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「それでは、ルドの素人童貞卒業を祝して、乾杯っ!」
良いヤツか嫌なヤツかの二分割なら、多分良いヤツの括りに入る人間だが、時々どうしても殺意が湧いてしまう、そんな親友のオズワルド•シーモア。
王都に着いて三日目、エレオノーラは実家に泊まっているので、ルートヴィッヒの別宅でオズワルドと飲んでいる。
「お前に10回迄は殺されても死なない能力があれば、その内の5回は確実に俺が利用させてもらっただろうな」
ルートヴィッヒは悪態をつくが、これすら友人を楽しませている自覚がある。
「泣く子も黙るルートヴィッヒ•フェルデン辺境伯がこんなに幸せそうなオーラ全開で現れたらからかいたくもなるよ。いかにも新婚さん、って感じで」
他人が見れば、今まで通りのルートヴィッヒだが、オズワルドには隠し通せていないようだ。
「お前にいじられること程、屈辱的な事は無い」
「ルドって意外といじられキャラがしっくりくるよね。それに良いじゃん、僕なんてもうずーっと片想いで、まだ手も出せない所か、相手にこっちの好意すら気付いてもらえて無いんだから」
「あぁ、例の女性か。強者だな」
このオズワルドが手こずっているなんて、一体どんな女性なのだろうか。
聞いても絶対に言わないのだ。
ルートヴィッヒは恋愛の手練手管に長けた妖艶な美女を思い浮かべる。
いずれにしても、向かうところ敵なしのオズワルドが手も足も出ない相手がいることが愉快だ。
「今度会う時は、お前の幸せに乾杯出来るといいな」
「そうだね……」
オズワルドは半ば諦めの境地に至っているのか、力なく笑った。
「ところで、フランツの騎士団長試験の事だけど──」
急に真面目になってオズワルドが話し始めたのは今回のルートヴィッヒの旅の目的の内容だ。
フランツを騎士団長にして新しい騎士団を作ることが決まり、それに際してフランツに団長になるための試験を受けてもらう事になって、その審査員の一人にルートヴィッヒが選出された。
ルートヴィッヒ自身、辺境伯と言う国の重要な砦としての役割がなければ、いずれかの騎士団の長になっていただろう実力の持ち主だ。
「失礼します」
ノックしたフランツに入室を促すと、静かな、けれどよく通る声がして、扉が開いた。
無駄な肉を削ぎ落として筋肉で覆われたフランツの身体は、数ヶ月前に見掛けた時よりもさらにストイックな印象を与える。
「どうぞお座りください」
ルートヴィッヒの正面に置かれた椅子に着席したフランツの背筋はピシッと伸びて、一分の隙もない。
訓練所の会議室は、窓を閉めていても外からの騎士達の鍛練の声が聞こえてくる。
「ノイマイヤー大佐、貴方が今度新設される騎士団長に就任することはほぼ決まっています。優秀で人望も厚い貴方が騎士団長になることに、私は一切異論がありません。なのでこの面接は一応、便宜上行われているだけです。ですが5分と経たずに大佐がこの部屋を出てしまうとあまりよろしくないので、どうでしょう、世間話でもしませんか」
フランツはルートヴィッヒの提案に意表を突かれた。
「大佐の部署で弟のジークフリート•フェルデンが大変お世話になっている事に感謝します」
「いえ、私は何も。彼はとても優秀な騎士ですから、私が出来ることは特にありません」
「新しい騎士団でもどうか宜しくお願いします」
「辺境伯様、お止めください。私のようなものに──」
ルートヴィッヒが頭を下げたので、フランツは慌てて椅子を立ち上がり、ルートヴィッヒに頭を上げるよう頼んだ。
「それから、これは私が頼める話ではないのは重々承知しているのですが、一度、妻のエレオノーラと話してやってくれませんか」
「何故でしょうか」
フランツの顔が少し強張る。
「妻は貴方がご結婚なさった経緯を恐らく知らないのです。勿論、貴方がその訳を公表していない事は存じ上げています。ですが、きっとエレオノーラは貴方の言葉で直接知りたいと思うのです。ある日突然、誰かから間違った解釈で伝えられるよりは、大佐、貴方自身の口から、伝えてやってください」
「それを話しても意味がありません」
「意味はないかもしれませんし、貴方が私の願いを聞く義理は一切ありません。ですが、エレオノーラには知る権利があると思うのです」
「すみません……」
それがフランツの答えだった。
「もし気が変わったら、今日か明日、エレオノーラの実家を訪ねてください。不躾な事を言ってすみませんでした。新しい騎士団での益々のご活躍を期待しています」
フランツの出ていった部屋の中でルートヴィッヒはしばし物思いに耽った。
ルートヴィッヒはジークやオズワルドからフランツの結婚の経緯を聞いていたが、エレオノーラも当然知っているものと思っていた。
だが時間が経つにつれて、もしかしたらそうではないのかもしれないと思うようになった。
それなら、エレオノーラは知らなくてはいけないのではないだろうか。
それを知って、エレオノーラの気持ちがまたフランツに戻ってしまうかもしれない。
けれど、彼女が真実を知らないのはあまりにも酷な気がした。
そして正直に言えば、全てを知っても最後は自分の所に戻ってきて欲しいと言う切なる願いもあった。
良いヤツか嫌なヤツかの二分割なら、多分良いヤツの括りに入る人間だが、時々どうしても殺意が湧いてしまう、そんな親友のオズワルド•シーモア。
王都に着いて三日目、エレオノーラは実家に泊まっているので、ルートヴィッヒの別宅でオズワルドと飲んでいる。
「お前に10回迄は殺されても死なない能力があれば、その内の5回は確実に俺が利用させてもらっただろうな」
ルートヴィッヒは悪態をつくが、これすら友人を楽しませている自覚がある。
「泣く子も黙るルートヴィッヒ•フェルデン辺境伯がこんなに幸せそうなオーラ全開で現れたらからかいたくもなるよ。いかにも新婚さん、って感じで」
他人が見れば、今まで通りのルートヴィッヒだが、オズワルドには隠し通せていないようだ。
「お前にいじられること程、屈辱的な事は無い」
「ルドって意外といじられキャラがしっくりくるよね。それに良いじゃん、僕なんてもうずーっと片想いで、まだ手も出せない所か、相手にこっちの好意すら気付いてもらえて無いんだから」
「あぁ、例の女性か。強者だな」
このオズワルドが手こずっているなんて、一体どんな女性なのだろうか。
聞いても絶対に言わないのだ。
ルートヴィッヒは恋愛の手練手管に長けた妖艶な美女を思い浮かべる。
いずれにしても、向かうところ敵なしのオズワルドが手も足も出ない相手がいることが愉快だ。
「今度会う時は、お前の幸せに乾杯出来るといいな」
「そうだね……」
オズワルドは半ば諦めの境地に至っているのか、力なく笑った。
「ところで、フランツの騎士団長試験の事だけど──」
急に真面目になってオズワルドが話し始めたのは今回のルートヴィッヒの旅の目的の内容だ。
フランツを騎士団長にして新しい騎士団を作ることが決まり、それに際してフランツに団長になるための試験を受けてもらう事になって、その審査員の一人にルートヴィッヒが選出された。
ルートヴィッヒ自身、辺境伯と言う国の重要な砦としての役割がなければ、いずれかの騎士団の長になっていただろう実力の持ち主だ。
「失礼します」
ノックしたフランツに入室を促すと、静かな、けれどよく通る声がして、扉が開いた。
無駄な肉を削ぎ落として筋肉で覆われたフランツの身体は、数ヶ月前に見掛けた時よりもさらにストイックな印象を与える。
「どうぞお座りください」
ルートヴィッヒの正面に置かれた椅子に着席したフランツの背筋はピシッと伸びて、一分の隙もない。
訓練所の会議室は、窓を閉めていても外からの騎士達の鍛練の声が聞こえてくる。
「ノイマイヤー大佐、貴方が今度新設される騎士団長に就任することはほぼ決まっています。優秀で人望も厚い貴方が騎士団長になることに、私は一切異論がありません。なのでこの面接は一応、便宜上行われているだけです。ですが5分と経たずに大佐がこの部屋を出てしまうとあまりよろしくないので、どうでしょう、世間話でもしませんか」
フランツはルートヴィッヒの提案に意表を突かれた。
「大佐の部署で弟のジークフリート•フェルデンが大変お世話になっている事に感謝します」
「いえ、私は何も。彼はとても優秀な騎士ですから、私が出来ることは特にありません」
「新しい騎士団でもどうか宜しくお願いします」
「辺境伯様、お止めください。私のようなものに──」
ルートヴィッヒが頭を下げたので、フランツは慌てて椅子を立ち上がり、ルートヴィッヒに頭を上げるよう頼んだ。
「それから、これは私が頼める話ではないのは重々承知しているのですが、一度、妻のエレオノーラと話してやってくれませんか」
「何故でしょうか」
フランツの顔が少し強張る。
「妻は貴方がご結婚なさった経緯を恐らく知らないのです。勿論、貴方がその訳を公表していない事は存じ上げています。ですが、きっとエレオノーラは貴方の言葉で直接知りたいと思うのです。ある日突然、誰かから間違った解釈で伝えられるよりは、大佐、貴方自身の口から、伝えてやってください」
「それを話しても意味がありません」
「意味はないかもしれませんし、貴方が私の願いを聞く義理は一切ありません。ですが、エレオノーラには知る権利があると思うのです」
「すみません……」
それがフランツの答えだった。
「もし気が変わったら、今日か明日、エレオノーラの実家を訪ねてください。不躾な事を言ってすみませんでした。新しい騎士団での益々のご活躍を期待しています」
フランツの出ていった部屋の中でルートヴィッヒはしばし物思いに耽った。
ルートヴィッヒはジークやオズワルドからフランツの結婚の経緯を聞いていたが、エレオノーラも当然知っているものと思っていた。
だが時間が経つにつれて、もしかしたらそうではないのかもしれないと思うようになった。
それなら、エレオノーラは知らなくてはいけないのではないだろうか。
それを知って、エレオノーラの気持ちがまたフランツに戻ってしまうかもしれない。
けれど、彼女が真実を知らないのはあまりにも酷な気がした。
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