26 / 46
第一章
26、天然の威力
しおりを挟む
「そうでした、ルートヴィッヒ様、ハニートラップとは何ですか? 」
「ごふっ」パキッ。
やんごとなき人々の晩餐には相応しくない会話と効果音。
ジークフリートが咳き込むと同時に、ルートヴィッヒが持っていた先祖代々伝わるクリスタルのワイングラスにヒビが入った。
給仕をしていた者達は、一斉に息を飲む。主人の怒りを恐れる気持ちと、今すぐ裏手に行ってみんなに話したい衝動との間で板挟みになった。
今の今まで、ジークフリートとエレオノーラで用意したお酒と料理はルートヴィッヒの機嫌を直すのに十分だったが、その努力が一瞬で砕け散る。
(あー、これはもう、何をしてもしばらく無理だな……)
ジークフリートとしては、エレオノーラが今夜可愛らしくベッドでルートヴィッヒに質問をする事を想定していたが、意味を知らない彼女が夕食時に聞くのは至極当然だった。
(こう言う読みと詰めの甘さがダメなんだよなぁ、僕は)
「ジーク、食事が終わったら話がある」
「うん、分かった……」
エレオノーラの末っ子として周りの空気を読むスキルが奇跡的に発揮されて、何となくこの会話を続けない方が良いと悟り、何とか別の話題を探す。
「ジーク様は私達の結婚式の時に遠征に行ってらしたそうですが、どちらへ行かれていたんですか?」
「あー、うん、地方のとある街にね。細かいことは話しちゃいけない規則なんだ」
「まぁ、それではとても重要なお仕事を任されているのですね。お若いのに、素晴らしいです」
「いや、そんなこともないんだけどさ。結婚式に行けなくて残念だったけど、まさかルドがお見合いしてからこんなに早く結婚すると思ってなくて。長期の仕事を受けちゃってたんだよね。今まで『俺は一生結婚しないかもしれないから、跡継ぎは頼むぞ、ジーク』とか里帰りの度に言われてたし」
「ジーク、俺の話は少し慎め。そう言う自分はどうなんだ」
ルートヴィッヒは興味も無いだろうに話題を変えたいが為だけに弟の恋愛事情を尋ねてきた。
「うーん、良い子は一杯いるんだけどさぁ、何か『この子だ!』って感じがないんだよね」
「八方美人をしているから自分の感情が分からなくなるんじゃないか?」
「そうかもね、まぁとりあえず今は特定の子は居ないよ」
「将来ジーク様とご結婚なさる方はきっと幸せになられますね」
そう言ったエレオノーラにぎょっとしたルートヴィッヒ。
「エル、今の流れでどうしたらそう言う考えに至るんだ?」
「それは、ジーク様とってもお優しいですし、お話も面白いし、料理もお上手で、かっこ良いですし……」
「そうか、エルはジークと結婚できなくて残念だったな」
ルートヴィッヒがナプキンをテーブルに置くと二人を置いて出ていってしまった。
エレオノーラは何故こんな事になってしまったのか理解できず目を白黒させている。
ジークフリートは二人には本当に申し訳無いけれど、可笑しいのを通り越して祝福する気持ちに溢れていた。
"あの"ルートヴィッヒがあそこまで感情を露にするなんて。一日に二回も、しかも弟である自分の前で。
「エル、僕の事は良いから、ルドのところに行ってあげて」
「ですが……」
「いいから、いいから、ルドはエルが来るの待ってるよ」
「……すみません、では少しだけ失礼します」
エレオノーラは部屋を出るまでは淑やかに歩いていたけれど、廊下に出るとパタパタと足音を立てて走って行った。
「ごふっ」パキッ。
やんごとなき人々の晩餐には相応しくない会話と効果音。
ジークフリートが咳き込むと同時に、ルートヴィッヒが持っていた先祖代々伝わるクリスタルのワイングラスにヒビが入った。
給仕をしていた者達は、一斉に息を飲む。主人の怒りを恐れる気持ちと、今すぐ裏手に行ってみんなに話したい衝動との間で板挟みになった。
今の今まで、ジークフリートとエレオノーラで用意したお酒と料理はルートヴィッヒの機嫌を直すのに十分だったが、その努力が一瞬で砕け散る。
(あー、これはもう、何をしてもしばらく無理だな……)
ジークフリートとしては、エレオノーラが今夜可愛らしくベッドでルートヴィッヒに質問をする事を想定していたが、意味を知らない彼女が夕食時に聞くのは至極当然だった。
(こう言う読みと詰めの甘さがダメなんだよなぁ、僕は)
「ジーク、食事が終わったら話がある」
「うん、分かった……」
エレオノーラの末っ子として周りの空気を読むスキルが奇跡的に発揮されて、何となくこの会話を続けない方が良いと悟り、何とか別の話題を探す。
「ジーク様は私達の結婚式の時に遠征に行ってらしたそうですが、どちらへ行かれていたんですか?」
「あー、うん、地方のとある街にね。細かいことは話しちゃいけない規則なんだ」
「まぁ、それではとても重要なお仕事を任されているのですね。お若いのに、素晴らしいです」
「いや、そんなこともないんだけどさ。結婚式に行けなくて残念だったけど、まさかルドがお見合いしてからこんなに早く結婚すると思ってなくて。長期の仕事を受けちゃってたんだよね。今まで『俺は一生結婚しないかもしれないから、跡継ぎは頼むぞ、ジーク』とか里帰りの度に言われてたし」
「ジーク、俺の話は少し慎め。そう言う自分はどうなんだ」
ルートヴィッヒは興味も無いだろうに話題を変えたいが為だけに弟の恋愛事情を尋ねてきた。
「うーん、良い子は一杯いるんだけどさぁ、何か『この子だ!』って感じがないんだよね」
「八方美人をしているから自分の感情が分からなくなるんじゃないか?」
「そうかもね、まぁとりあえず今は特定の子は居ないよ」
「将来ジーク様とご結婚なさる方はきっと幸せになられますね」
そう言ったエレオノーラにぎょっとしたルートヴィッヒ。
「エル、今の流れでどうしたらそう言う考えに至るんだ?」
「それは、ジーク様とってもお優しいですし、お話も面白いし、料理もお上手で、かっこ良いですし……」
「そうか、エルはジークと結婚できなくて残念だったな」
ルートヴィッヒがナプキンをテーブルに置くと二人を置いて出ていってしまった。
エレオノーラは何故こんな事になってしまったのか理解できず目を白黒させている。
ジークフリートは二人には本当に申し訳無いけれど、可笑しいのを通り越して祝福する気持ちに溢れていた。
"あの"ルートヴィッヒがあそこまで感情を露にするなんて。一日に二回も、しかも弟である自分の前で。
「エル、僕の事は良いから、ルドのところに行ってあげて」
「ですが……」
「いいから、いいから、ルドはエルが来るの待ってるよ」
「……すみません、では少しだけ失礼します」
エレオノーラは部屋を出るまでは淑やかに歩いていたけれど、廊下に出るとパタパタと足音を立てて走って行った。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく
愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。
貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。
そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。
いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。
涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。
似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。
年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。
・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。
・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。
・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。
・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。
・多分ハッピーエンド。
・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。
没落寸前子爵令嬢ですが、絶倫公爵に抱き潰されました。
今泉 香耶
恋愛
没落寸前貴族であるロンダーヌ子爵の娘カロル。彼女は父親の借金を返すために、闇商人に処女を捧げることとなる。だが、震えながらカジノの特別室へ行った彼女は、部屋を間違えてしまう。彼女は気付かなかったが、そこにいたのはバートリー公爵。稀代の女好きで絶倫という噂の男性だった。
エロが書きたくて書きました。楽しかったです。タイトルがオチです。全4話。
色々と設定が甘いですが、エロが書きたかっただけなのでゆるい方向けです。
※ムーンライトノベルズ様には改稿前のものが掲載されています。
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる