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第一章
14、背中越しの沈黙
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無言で淡々と飲み物を並べて行くフランツにエレオノーラの心は沈んだ。
自分はこんなに動揺しているのに、フランツは落ち着き払って仕事をこなしている。
ずっと自分の片思いだと知っていたけれど、それを改めて確認すると言うのがこんなにも辛いことだと思わなかった。
「オズワルド、こないだの予算案の事で少し話したいことがある」
「あぁ、あれね。僕もルドが行く前に話そうと思っていたんだ。向こうに資料が置いてある。フランツ、僕たちが居ない間、フェルデン辺境伯夫人のボディーガードを頼めるかな?」
「はい、かしこまりました」
ルートヴィッヒがシーモア公爵に仕事の話を持ち出したので、二人は立ち上がって隣の部屋に行ってしまった。
パタンとドアが閉まる音がする。
エレオノーラもフランツも何も言わない。
フランツはエレオノーラが座るソファーから少し離れた後ろに立っている。
エレオノーラは沈黙に耐えられなくなり、とうとう口を開いた。
「フランツ、お久し振り。元気にしていた?」
「はい、お陰様で元気にしております。この度はご結婚おめでとうございます、フェルデン辺境伯夫人」
何もかもがフランツに一番言われたくないことだった。
「どうもありがとう」
「昨日はセレモニーの際に大聖堂の警備を務めさせていただきました。
とてもお美しかったです」
前にも一度、フランツに綺麗だと言ってもらった事があった。あの時は恥ずかしくて、嬉しくて、舞い上がったけれど、今はどん底に突き落とされた気分だった。
他の男の隣に立つ自分を見て「お美しい」等と言うのは、あまりに残酷だ。
エレオノーラはフランツに背を向けたまま「貴方もお幸せに」と言うのが精一杯だった。
「ありがとうございます」
その後はお互い一言も発さなかった。
三分程してルートヴィッヒとオズワルドが戻ってきた。
「フランツどうもありがとう、お疲れ様。もう仕事に戻って大丈夫だよ」
オズワルドがそう告げるとフランツは退室した。
「今度来る時はうちにも寄ってね。僕もその内君たちに会いに行くよ」
オズワルドが社交性の塊のような笑顔を浮かべる。
「エレオノーラ様、ルドは僕が知る中でも最も頼もしい男だから、何かあったら彼を信頼して頼るといいですよ」
「そうですね、そうさせて頂きます……」
エレオノーラは可憐に微笑んだが、心の中では地団駄を踏んでいた。
(フランツをここに来させたのは絶対にシーモア公爵だわ、意地の悪い人……)
自分はこんなに動揺しているのに、フランツは落ち着き払って仕事をこなしている。
ずっと自分の片思いだと知っていたけれど、それを改めて確認すると言うのがこんなにも辛いことだと思わなかった。
「オズワルド、こないだの予算案の事で少し話したいことがある」
「あぁ、あれね。僕もルドが行く前に話そうと思っていたんだ。向こうに資料が置いてある。フランツ、僕たちが居ない間、フェルデン辺境伯夫人のボディーガードを頼めるかな?」
「はい、かしこまりました」
ルートヴィッヒがシーモア公爵に仕事の話を持ち出したので、二人は立ち上がって隣の部屋に行ってしまった。
パタンとドアが閉まる音がする。
エレオノーラもフランツも何も言わない。
フランツはエレオノーラが座るソファーから少し離れた後ろに立っている。
エレオノーラは沈黙に耐えられなくなり、とうとう口を開いた。
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「はい、お陰様で元気にしております。この度はご結婚おめでとうございます、フェルデン辺境伯夫人」
何もかもがフランツに一番言われたくないことだった。
「どうもありがとう」
「昨日はセレモニーの際に大聖堂の警備を務めさせていただきました。
とてもお美しかったです」
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他の男の隣に立つ自分を見て「お美しい」等と言うのは、あまりに残酷だ。
エレオノーラはフランツに背を向けたまま「貴方もお幸せに」と言うのが精一杯だった。
「ありがとうございます」
その後はお互い一言も発さなかった。
三分程してルートヴィッヒとオズワルドが戻ってきた。
「フランツどうもありがとう、お疲れ様。もう仕事に戻って大丈夫だよ」
オズワルドがそう告げるとフランツは退室した。
「今度来る時はうちにも寄ってね。僕もその内君たちに会いに行くよ」
オズワルドが社交性の塊のような笑顔を浮かべる。
「エレオノーラ様、ルドは僕が知る中でも最も頼もしい男だから、何かあったら彼を信頼して頼るといいですよ」
「そうですね、そうさせて頂きます……」
エレオノーラは可憐に微笑んだが、心の中では地団駄を踏んでいた。
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