2 / 46
第一章
2、不誠実な果実と珍しい紅茶
しおりを挟む
フランツは自分の事を別に女たらしでも無ければ、聖人君子でも無いと思っていて、十六で初めて女性を知ってからは、悪目立ちしない程度に人並みに経験を重ねた。
あまりギスギスしていない娘なら良くて、特に好みは無かったし、後腐れも無い、割り切った関係を求めるような子が多かった。
だから髪の色も瞳の色も気にした事なんて無かったのだ。
それなのに、あの雨の日以来、街を歩いていて金髪の子を見掛けるとエレオノーラを思い出してしまうし、その子が青い目だったりすると、(エレオノーラ様の瞳の方が綺麗だ)なんて思ってしまう。
そんな事だから、もう金髪で青い目の子はやめようと固く誓った。
「ねえフランツ、いつになったら私と結婚してくれる?」
「いつまでも不可能な事でございます、エレオノーラ様」
「じゃあ私と林檎を食べてくれる?」
「いえ、出来かね──はい、それは可能でございます。」
また結婚の事かと思って反射的に答えかけると、今度は随分簡単なお願いだった。
エレオノーラが自分で林檎を準備すると言い張るので、その危なっかしい手付きに肝を冷やしながらもじっと見守る。
「はい、どうぞ、フランツ」
「ありがとうございます」
いつもは丸ごと齧りついて食べる林檎をフォークとナイフで食べるのは何とも妙だったが、エレオノーラがわざわざ剥いてくれた林檎なので、黙々と食べた。
「美味しい?」
「はい、とても美味しいです、エレオノーラ様」
心配そうだったエレオノーラはフランツの言葉に安堵して笑顔を浮かべると、自分も食べ始めた。
(随分小さい一口だ)
フランツはエレオノーラの小さな赤い唇に飲み込まれて行く林檎を眺めて思う。
「フランツ、どうしたの? もっと林檎が食べたい?」
エレオノーラがフランツの方を何の疑いも淀みもない透き通った瞳で見てくる。
「いえ、そう言う訳では──」
フランツはまたしても彼女に見惚れてしまった自分を戒めた。
「紅茶も飲んでね。これはエマがくれた西の大陸の珍しい紅茶なの」
フランツは普段水か酒位しか飲まないが、エレオノーラのお茶にたまに付き合うことがあった。
毎回フルーツや花の香りのするお茶を淹れてくれるが、正直フランツには違いもわからないし、美味しいのかどうかも判断しかねるものだった。
けれどエレオノーラが毎度期待した目で見てくるので、「とても美味しいです」と言った。
すると彼女はなんとも言えず幸せそうな顔をした。
その日もいつも通りエレオノーラが夕食を終え寝室に入るタイミングで、女性の騎士と護衛を交代し、自室に戻った。
簡素な引き出しからペンとインク、羊皮紙を取り出す。
明日、侯爵様に辞職を願い出よう。
このまま自分がここに居ては、エレオノーラはいつまでも嫁に行きたがらないかもしれない。
それに、エレオノーラにあの日以来何度も邪な思い抱いてしまった自分に彼女を護衛する資格はもう無い。
エレオノーラの自分に対する感情は、錯覚だ。誘拐されかけて不安と恐怖のピークにある時に自分が助けに行ったことで、恋心と思い込んでしまったのだろう。
退職願いを書き終え、夜着に着替えていると、突如身体が異常に火照り出した。
「なん……だ……これ……」
フランツは何とか意識を保とうとするも、どうする事も出来ず、ベッドに倒れ込んだ。
あまりギスギスしていない娘なら良くて、特に好みは無かったし、後腐れも無い、割り切った関係を求めるような子が多かった。
だから髪の色も瞳の色も気にした事なんて無かったのだ。
それなのに、あの雨の日以来、街を歩いていて金髪の子を見掛けるとエレオノーラを思い出してしまうし、その子が青い目だったりすると、(エレオノーラ様の瞳の方が綺麗だ)なんて思ってしまう。
そんな事だから、もう金髪で青い目の子はやめようと固く誓った。
「ねえフランツ、いつになったら私と結婚してくれる?」
「いつまでも不可能な事でございます、エレオノーラ様」
「じゃあ私と林檎を食べてくれる?」
「いえ、出来かね──はい、それは可能でございます。」
また結婚の事かと思って反射的に答えかけると、今度は随分簡単なお願いだった。
エレオノーラが自分で林檎を準備すると言い張るので、その危なっかしい手付きに肝を冷やしながらもじっと見守る。
「はい、どうぞ、フランツ」
「ありがとうございます」
いつもは丸ごと齧りついて食べる林檎をフォークとナイフで食べるのは何とも妙だったが、エレオノーラがわざわざ剥いてくれた林檎なので、黙々と食べた。
「美味しい?」
「はい、とても美味しいです、エレオノーラ様」
心配そうだったエレオノーラはフランツの言葉に安堵して笑顔を浮かべると、自分も食べ始めた。
(随分小さい一口だ)
フランツはエレオノーラの小さな赤い唇に飲み込まれて行く林檎を眺めて思う。
「フランツ、どうしたの? もっと林檎が食べたい?」
エレオノーラがフランツの方を何の疑いも淀みもない透き通った瞳で見てくる。
「いえ、そう言う訳では──」
フランツはまたしても彼女に見惚れてしまった自分を戒めた。
「紅茶も飲んでね。これはエマがくれた西の大陸の珍しい紅茶なの」
フランツは普段水か酒位しか飲まないが、エレオノーラのお茶にたまに付き合うことがあった。
毎回フルーツや花の香りのするお茶を淹れてくれるが、正直フランツには違いもわからないし、美味しいのかどうかも判断しかねるものだった。
けれどエレオノーラが毎度期待した目で見てくるので、「とても美味しいです」と言った。
すると彼女はなんとも言えず幸せそうな顔をした。
その日もいつも通りエレオノーラが夕食を終え寝室に入るタイミングで、女性の騎士と護衛を交代し、自室に戻った。
簡素な引き出しからペンとインク、羊皮紙を取り出す。
明日、侯爵様に辞職を願い出よう。
このまま自分がここに居ては、エレオノーラはいつまでも嫁に行きたがらないかもしれない。
それに、エレオノーラにあの日以来何度も邪な思い抱いてしまった自分に彼女を護衛する資格はもう無い。
エレオノーラの自分に対する感情は、錯覚だ。誘拐されかけて不安と恐怖のピークにある時に自分が助けに行ったことで、恋心と思い込んでしまったのだろう。
退職願いを書き終え、夜着に着替えていると、突如身体が異常に火照り出した。
「なん……だ……これ……」
フランツは何とか意識を保とうとするも、どうする事も出来ず、ベッドに倒れ込んだ。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく
愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。
貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。
そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。
いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。
涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。
似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。
年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。
・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。
・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。
・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。
・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。
・多分ハッピーエンド。
・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。
没落寸前子爵令嬢ですが、絶倫公爵に抱き潰されました。
今泉 香耶
恋愛
没落寸前貴族であるロンダーヌ子爵の娘カロル。彼女は父親の借金を返すために、闇商人に処女を捧げることとなる。だが、震えながらカジノの特別室へ行った彼女は、部屋を間違えてしまう。彼女は気付かなかったが、そこにいたのはバートリー公爵。稀代の女好きで絶倫という噂の男性だった。
エロが書きたくて書きました。楽しかったです。タイトルがオチです。全4話。
色々と設定が甘いですが、エロが書きたかっただけなのでゆるい方向けです。
※ムーンライトノベルズ様には改稿前のものが掲載されています。
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる