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21、能ある鷹は隣にいるかもしれない

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「ティーナ、遊びに来たよー。ってのは嘘で、お見舞いに来たよ。ティナが具合悪いって聞いて心配で来ちゃった」

綺麗に編み込まれたカミーユの赤毛が窓からの日差しで温かに輝いている。

「カミーユ、ありがとう。普通に元気なんだけど、ウィリアムとお医者様が過保護で……」

「そうなの? でもこう言っちゃなんだけど、顔色少し悪いよ? 何かあった?」

昨晩、クリスティーナが気絶して帰宅したので、屋敷は上を下への大騒ぎになった。
ベックマン侯爵夫人のお抱えの医師が呼ばれ、一週間は安静にして下さいとお達しが出たらしい。
今朝は母にこっぴどく怒られるかと思ったら、「好き合ってる同士で馬車に乗ればそれくらいの事はあるわ。私だってそれを承知で送り出してるんだから、今さら何があっても怒ったり驚いたりしないわよ。まぁ、でもパパには黙っててあげた方がいいかもね。ショックで寝込んじゃうわよ、ふふ」とあっけらかんと言った。

今まで、父は母の美しさにだけ魅了されて結婚したのだと思っていたけれど、案外こう言う肝の据わった所にも惚れたのかもしれない。



「何も無いよ、本当に大丈夫なの」

「ティナ、私には話してよ。そりゃ侯爵様の手先となって、ティナに男が近付かないようにしてたとか言う奴を信用もしたくないだろうけど」

「そんなことないよ、別にその事は気にしてない。カミーユが良かれと思ってしてくれたことだし、昨日はカミーユが居てくれてすごく心強かったし」

「じゃあ、話してくれる?」

「うん……」





「──やばい、マジで侯爵の顔見たら一発お見舞いしちゃうかも。いいよね、ティナ?」

かなり掻い摘まんで、ふわっと話しただけでも、カミーユは怒り心頭で拳を握っている。

「カミーユ、私の責任でもあるから。ウィルのせいじゃないの。それに……」

「それに?」

「ウィルはもうベックマン侯爵夫人から重い一発もらってるの……知らなかったんだけど、ベックマン侯爵夫人は東洋の武術の師範の資格をお持ちで、とっても可憐で美しいご婦人なのだけど、鳩尾を殴られたウィルは顔面蒼白になってしばらく声も出せなかったらしくて……私は気絶してたから見てなくて、母が後から教えてくれたの」

(あぁ、それでさっき城で会った時、なんか歩き方がおかしかったのか)とカミーユは合点がいった。

「嫁入り前のティナに手を出したんだから、市中引き回しの刑でも良いくらいよ」

「でも私も流されちゃったから、本当なら私もベックマン侯爵夫人に殴られないといけないし……大切な甥っ子をたぶらかした訳だから……」

「ティナから誘った訳じゃないんでしょ?」

「そうだけど……」

(ティナのお人好しは天然物だから変わらないわね……)

友人を羨ましくも、気の毒にも思えるカミーユ。

「まぁ、理由はどうあれしばらく王都に居ることになったんなら、私も嬉しいわ。 体調が大丈夫ならちょっと散歩しない? お屋敷の庭の中だけでもさ。ずっと部屋に籠ってたら、気分も落ち込むでしょ?」

「ありがとう、カミーユ」

心配する侯爵夫人と母を、一人で大丈夫だからと外出させたものの、実はちょっと退屈していたので、カミーユが来てくれて助かった。

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