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16、魔力の要らない魔法
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結局、夜会の4日前にはクリスティーナとセレスタはウィリアムの叔母の屋敷を訪れていた。
ドレスの最後の微調整をしなくてはならないけれど、夜会直前で他の貴族令嬢の仕事も沢山あるのでクリスティーナが王都にいた方がバーンズ氏も楽だから、もし可能なら数日前から王都に来て欲しいとウィリアムから頼まれた。
ウィリアムの言う"こじんまりした屋敷"と言うのはこう言うものなのかと改めて格差を感じながら、立派な門扉をくぐった。
ウィリアムの父方の叔母ベックマン侯爵夫人は4人の息子を育て上げた後、5年前に夫を亡くしてからは元の屋敷を親戚に預け、今は一人でこの屋敷に住んでいるそうだ。
とても気さくな人で、ウィリアムがクリスティーナ達の事をどう説明したのか分からないけれど「もう親戚なのだから、自分のお家と思って自由に過ごしてね」と言ってくれた。
にっこり笑うその優しげな表情はウィリアムを思い出させた。
ベックマン侯爵夫人はクリスティーナとセレスタを毎日王都の色々な場所へ案内してくれた。
そして日が暮れた頃になるとウィリアムがやって来て、4人で、時には近くに住むベックマン侯爵の息子達やその家族も加わって和やかで楽しい夕食の時間になった。
「ティナ、とっても綺麗よ」
「えぇ、もう一着のロイヤルブルーのドレスもとても似合っていたけれど、やっぱりこちらの方がより一層クリスティーナさんに似合っているわね」
ライトブルーのイブニングドレスを着たクリスティーナを嬉しそうに眺めるセレスタとベックマン侯爵夫人。
今朝早い時間からベックマン侯爵夫人選りすぐりのメイド三人がかりでクリスティーナの髪からお肌から色々なお手入れをしてくれた上に、ドレスの気付けとメークアップまでしてくれた。
「私じゃないみたいです……」
クリスティーナは姿見の前で自分の姿をまじまじと見つめた。
「今夜は素敵な王子様にエスコートされて、楽しんできてね」
「ウィリアムもここ数日は楽しみで落ち着きがなかったわね。今まではパーティーと言うと嫌々顔を出していたのに。クリスティーナさんに感謝しなきゃいけないわね」
ベックマン侯爵夫人がそう言った時、部屋の外で執事がウィリアムの到着を告げた。
「ウィリアムに挨拶してくるわ。クリスティーナさんはお母様とゆっくりいらしてね」
「はい、ありがとうございます、ベックマン侯爵夫人」
少女のように軽やかな足取りで部屋を出ていくベックマン侯爵夫人。
ドアが閉まると、セレスタは娘の化粧やセットが崩れないように気を付けながらぎゅっと抱きしめた。
「クリスティーナ、私のせいでこれまで辛い思いをさせてしまったと思っているわ。ごめんなさい。でも私の時とは時代も少し変わったはずよ。折角陛下からご招待頂いて、コーンウェル侯爵様に素敵なドレス等も頂いたのだから、今夜は可能な限り楽しんで来るって約束してくれる?」
「……うん、約束する……」
母親の慣れ親しんだコロンの微かな香りがクリスティーナの鼻を掠める。
部屋を出て、玄関ホールの方へ向かうとウィリアムが遠くに見えた。
ベックマン侯爵夫人と楽しそうに話している。
(本物の、王子様みたい……)
漆黒の燕尾服はシンプルで品が良く、ウィリアムのかっこよさをより一層引き立てている。
さっきまでベックマン侯爵夫人と母に褒められていい気分になっていた自分が恥ずかしくなってしまう。
「ティナ!」
ウィリアムはクリスティーナに気付くと駆け寄らんばかりの勢いでこちらにやって来た。
「ティナ、すごく綺麗……想像してた更に1000倍以上綺麗だ……」
自分のかっこよさなんてまるで気にしてないみたいに、ティナを見つめたまま感激している。
「やっぱりこんな綺麗なティナを他の奴に見せるのはやだな……」
「何を馬鹿なことを言ってるの。クリスティーナさんをきちんとエスコートしてらっしゃい」
後ろから追い付いたベックマン侯爵夫人にたしなめられるウィリアム。
「コーンウェル侯爵様、娘をどうか宜しくお願いいたします」
セレスタはウィリアムに頭を下げた。
「お義母様、今夜は大切な娘さんを僕が責任を持ってお守りいたします」
「ちょ、ちょっと、二人とも大袈裟よ、いくら陛下が催されるパーティーだからって。私だって子供じゃないんだし」
セレスタとウィリアムはクリスティーナを見返す。
「そういう事を言う人が一番危ないんです」
「そうだよ、僕以外の男は全員、野蛮な狼位に思っておいてもらわないと」
クリスティーナが返事に困っているとベックマン侯爵夫人が軽く手を叩いた。
「さぁ、二人ともそろそろ出発の時間よ」
「ティナ、甘いお酒を飲み過ぎないでね!」
「はい、甘いお酒と甘い言葉には気を付けます。行って参ります!」
クリスティーナは見送ってくれたベックマン侯爵夫人と母親にお辞儀をするとウィリアムにエスコートされて馬車に乗った。
ドレスの最後の微調整をしなくてはならないけれど、夜会直前で他の貴族令嬢の仕事も沢山あるのでクリスティーナが王都にいた方がバーンズ氏も楽だから、もし可能なら数日前から王都に来て欲しいとウィリアムから頼まれた。
ウィリアムの言う"こじんまりした屋敷"と言うのはこう言うものなのかと改めて格差を感じながら、立派な門扉をくぐった。
ウィリアムの父方の叔母ベックマン侯爵夫人は4人の息子を育て上げた後、5年前に夫を亡くしてからは元の屋敷を親戚に預け、今は一人でこの屋敷に住んでいるそうだ。
とても気さくな人で、ウィリアムがクリスティーナ達の事をどう説明したのか分からないけれど「もう親戚なのだから、自分のお家と思って自由に過ごしてね」と言ってくれた。
にっこり笑うその優しげな表情はウィリアムを思い出させた。
ベックマン侯爵夫人はクリスティーナとセレスタを毎日王都の色々な場所へ案内してくれた。
そして日が暮れた頃になるとウィリアムがやって来て、4人で、時には近くに住むベックマン侯爵の息子達やその家族も加わって和やかで楽しい夕食の時間になった。
「ティナ、とっても綺麗よ」
「えぇ、もう一着のロイヤルブルーのドレスもとても似合っていたけれど、やっぱりこちらの方がより一層クリスティーナさんに似合っているわね」
ライトブルーのイブニングドレスを着たクリスティーナを嬉しそうに眺めるセレスタとベックマン侯爵夫人。
今朝早い時間からベックマン侯爵夫人選りすぐりのメイド三人がかりでクリスティーナの髪からお肌から色々なお手入れをしてくれた上に、ドレスの気付けとメークアップまでしてくれた。
「私じゃないみたいです……」
クリスティーナは姿見の前で自分の姿をまじまじと見つめた。
「今夜は素敵な王子様にエスコートされて、楽しんできてね」
「ウィリアムもここ数日は楽しみで落ち着きがなかったわね。今まではパーティーと言うと嫌々顔を出していたのに。クリスティーナさんに感謝しなきゃいけないわね」
ベックマン侯爵夫人がそう言った時、部屋の外で執事がウィリアムの到着を告げた。
「ウィリアムに挨拶してくるわ。クリスティーナさんはお母様とゆっくりいらしてね」
「はい、ありがとうございます、ベックマン侯爵夫人」
少女のように軽やかな足取りで部屋を出ていくベックマン侯爵夫人。
ドアが閉まると、セレスタは娘の化粧やセットが崩れないように気を付けながらぎゅっと抱きしめた。
「クリスティーナ、私のせいでこれまで辛い思いをさせてしまったと思っているわ。ごめんなさい。でも私の時とは時代も少し変わったはずよ。折角陛下からご招待頂いて、コーンウェル侯爵様に素敵なドレス等も頂いたのだから、今夜は可能な限り楽しんで来るって約束してくれる?」
「……うん、約束する……」
母親の慣れ親しんだコロンの微かな香りがクリスティーナの鼻を掠める。
部屋を出て、玄関ホールの方へ向かうとウィリアムが遠くに見えた。
ベックマン侯爵夫人と楽しそうに話している。
(本物の、王子様みたい……)
漆黒の燕尾服はシンプルで品が良く、ウィリアムのかっこよさをより一層引き立てている。
さっきまでベックマン侯爵夫人と母に褒められていい気分になっていた自分が恥ずかしくなってしまう。
「ティナ!」
ウィリアムはクリスティーナに気付くと駆け寄らんばかりの勢いでこちらにやって来た。
「ティナ、すごく綺麗……想像してた更に1000倍以上綺麗だ……」
自分のかっこよさなんてまるで気にしてないみたいに、ティナを見つめたまま感激している。
「やっぱりこんな綺麗なティナを他の奴に見せるのはやだな……」
「何を馬鹿なことを言ってるの。クリスティーナさんをきちんとエスコートしてらっしゃい」
後ろから追い付いたベックマン侯爵夫人にたしなめられるウィリアム。
「コーンウェル侯爵様、娘をどうか宜しくお願いいたします」
セレスタはウィリアムに頭を下げた。
「お義母様、今夜は大切な娘さんを僕が責任を持ってお守りいたします」
「ちょ、ちょっと、二人とも大袈裟よ、いくら陛下が催されるパーティーだからって。私だって子供じゃないんだし」
セレスタとウィリアムはクリスティーナを見返す。
「そういう事を言う人が一番危ないんです」
「そうだよ、僕以外の男は全員、野蛮な狼位に思っておいてもらわないと」
クリスティーナが返事に困っているとベックマン侯爵夫人が軽く手を叩いた。
「さぁ、二人ともそろそろ出発の時間よ」
「ティナ、甘いお酒を飲み過ぎないでね!」
「はい、甘いお酒と甘い言葉には気を付けます。行って参ります!」
クリスティーナは見送ってくれたベックマン侯爵夫人と母親にお辞儀をするとウィリアムにエスコートされて馬車に乗った。
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