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4、解かれたリボンと水色の結ぼれ

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その日の朝は2月にしては珍しく晴天で、ステンドグラスから差し込む多彩な光を受けたウィリアムの髪が後光を指したように輝いているのが綺麗で、クリスティーナはミサの間中こっそり何度も眺めた。


「このリボン、君のかな?」
ミサを終えて席を離れる時に、少し緊張したような声が後ろから聞こえた。
振り向くと、男の子が右手にビロードの幅広い水色のリボンを手にしている。
「私のお気に入りのリボン……ありがとうございます、あの私……」
驚きながらも礼を言い、名前を名乗ってもいいのか迷っていると、
「僕はウィリアム、君の名前は?」
とウィリアムの方から名乗ってくれて、クリスティーナにリボンを渡してくれた。
「クリスティーナです。どうもありがとうございます、ウィリアム様」
「どういたしまして。また来週」
そう言うと、ウィリアムはあっという間に去っていった。
10秒にも満たない時間だったかもしれない。
クリスティーナはいつ失くしたんだろう?と不思議に思いながら受け取ったリボンを眺める。
不意に手の中に少しの違和感を感じて確かめるとリボンの裏側に小さな紙が縫い付けられていた。
何故か後ろめたい事のような気がして、その場では広げずに、自室に戻るまで待った。


帰宅して着替えてからいつもリボンをしまっているジュエリーボックスを開くと、ウィリアムが渡してくれたのと同じ色のリボンがあった。

(ウィリアム様は私に手紙を渡すためにわざわざ……)

クリスティーナは逸る気持ちを押さえてリボンに手紙を縫い付けている糸を丁寧に切った。

"初めまして、僕の名前はウィリアムです。ウィルと呼んで下さい。ミサではなかなか話せないから、こうして手紙を書きました。もし出来たら、返事を下さい。君の事や、好きな物を教えて欲しいです。"

縫い付けられていた5センチ四方の紙にウィリアムの綺麗な字で書かれたメッセージにクリスティーナは嬉しくて今にも踊り出したい気分だった。
それは両親の仲違いが始まって以来、久しぶりに感じる心からの幸福感だった。

クリスティーナは早速返事を書いた。
"ウィリアム様、お手紙どうもありがとうございます。とても嬉しかったです。私の事はティナと呼んでください。私の好きなものは……"

クリスティーナはなるべく簡潔にと思いながら、メイド達の目を盗んで何度もウィリアムへの手紙を書き直した。

それから毎日曜日、大人達の目を盗んで手紙を交換するようになった。
初めは受け取った方が手紙の返事を翌週に渡していたが、次第にお互いが毎週、手紙を書いて来て交換するようになった。

母も自分も他の貴族達から歓迎されていない空気は感じていたし、ウィリアムの母親のコーンウェル侯爵夫人は自分達に挨拶をしないから、ウィリアムの手紙の事は知られたらいけないのだと幼いながらに理解していた。

それでもウィリアムとの秘密の交流はウィリアム達が王都に戻ってしまうまでの4ヶ月程続いた。




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