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9、頭の中の一部がお花畑になってしまった宰相様は、いつもとは別の意味で皆の注目の的になっています
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「いや、確かに聞いたんだよ、昨日」
「だからお前の言う事は信用出来ねぇんだよ、あの宰相様が鼻歌なんか歌うわけないだろ? 冗談にも程があるぜ」
「でも聞いたんだよ!」
「勤務中に無駄話ですか?」
「宰相様──!」
「しっかり任務を全うして下さい」
「「はい!」」
二人の若人は背後からヴィンセントの声が聞こえて凍りついたが、特に何のお咎めもなくそのまま歩いて行ったので、心を撫で下ろす。
「な、あり得ないほど機嫌が良いだろ? いつもだったら絶対もっと色々言われてたぜ。こう、思い出す度に一ヶ月は心が折れ続けるような、すっげー的確な指摘とかさ」
宰相が廊下を曲がったのを見届けた衛兵が小声で同僚に言う。
「そうだな……明日は槍でも降るかもしれない」
一昨日初めてシェリルが自分を愛していると言ってくれて、翌日には絶対一度では首を縦に振ってくれないと思っていた、『妹思いの兄』と言う一言では片付けられない何かを感じる最難関のアーノルドの了承ももらえた。
若者の戯れ言のネタになってしまうなんて、自分はどれ程浮かれていたのだろうか。
にやけそうになる自分を律して一日を過ごすなんて、一生縁が無いと思っていたのに。
「失礼します」
「あぁ」
国王が待つ部屋に入る。
「お前がそれ程しまりの無い顔でここに来る日がやって来ようとは、人生、生き長らえてみるものだな」
「陛下におかれましては、そろそろ眼鏡が必要になられたようで」
そう言いつつも、アーサーに隠すのは無理だと表情管理を放棄する。
「リューシャに巡り会わせてくれたお前には感謝している。今回の事で、少しは役に立てたようで何よりだ」
「陛下に感謝して頂くことは何もしておりませんが、シェリルとの縁を繋いで下さった事は、一生忘れません。どうもありがとうございます」
ヴィンセントは最上級の礼儀を持って主君に膝を折った。
「おい、何もそこまでしなくても。俺はお前が可愛らしいシェリル殿におろおろしたり、心を掻き乱されたり、嫉妬丸出しで目が据わってるのを見れただけで、十分だ」
急に真面目になったヴィンセントに照れ隠しで口数が多くなってしまうアーサー。
「そのお言葉、そっくりそのまま陛下にお返ししますよ」
誰よりも長く一緒にいながら、こちらがどれ程心を許していても、身分のせいなのか、彼の在り方なのか、こちらを信頼してくれているのに、どこか一線を引いていたヴィンセントが今、目の前で幸せそうに微笑んでいる。それが自分に向けられたものではなく、愛しい人を想ってのものでも、アーサーはどうしようもなく嬉しくて、とても尊い事だと思った。
「さて、仕事するか」
「御意」
「だからお前の言う事は信用出来ねぇんだよ、あの宰相様が鼻歌なんか歌うわけないだろ? 冗談にも程があるぜ」
「でも聞いたんだよ!」
「勤務中に無駄話ですか?」
「宰相様──!」
「しっかり任務を全うして下さい」
「「はい!」」
二人の若人は背後からヴィンセントの声が聞こえて凍りついたが、特に何のお咎めもなくそのまま歩いて行ったので、心を撫で下ろす。
「な、あり得ないほど機嫌が良いだろ? いつもだったら絶対もっと色々言われてたぜ。こう、思い出す度に一ヶ月は心が折れ続けるような、すっげー的確な指摘とかさ」
宰相が廊下を曲がったのを見届けた衛兵が小声で同僚に言う。
「そうだな……明日は槍でも降るかもしれない」
一昨日初めてシェリルが自分を愛していると言ってくれて、翌日には絶対一度では首を縦に振ってくれないと思っていた、『妹思いの兄』と言う一言では片付けられない何かを感じる最難関のアーノルドの了承ももらえた。
若者の戯れ言のネタになってしまうなんて、自分はどれ程浮かれていたのだろうか。
にやけそうになる自分を律して一日を過ごすなんて、一生縁が無いと思っていたのに。
「失礼します」
「あぁ」
国王が待つ部屋に入る。
「お前がそれ程しまりの無い顔でここに来る日がやって来ようとは、人生、生き長らえてみるものだな」
「陛下におかれましては、そろそろ眼鏡が必要になられたようで」
そう言いつつも、アーサーに隠すのは無理だと表情管理を放棄する。
「リューシャに巡り会わせてくれたお前には感謝している。今回の事で、少しは役に立てたようで何よりだ」
「陛下に感謝して頂くことは何もしておりませんが、シェリルとの縁を繋いで下さった事は、一生忘れません。どうもありがとうございます」
ヴィンセントは最上級の礼儀を持って主君に膝を折った。
「おい、何もそこまでしなくても。俺はお前が可愛らしいシェリル殿におろおろしたり、心を掻き乱されたり、嫉妬丸出しで目が据わってるのを見れただけで、十分だ」
急に真面目になったヴィンセントに照れ隠しで口数が多くなってしまうアーサー。
「そのお言葉、そっくりそのまま陛下にお返ししますよ」
誰よりも長く一緒にいながら、こちらがどれ程心を許していても、身分のせいなのか、彼の在り方なのか、こちらを信頼してくれているのに、どこか一線を引いていたヴィンセントが今、目の前で幸せそうに微笑んでいる。それが自分に向けられたものではなく、愛しい人を想ってのものでも、アーサーはどうしようもなく嬉しくて、とても尊い事だと思った。
「さて、仕事するか」
「御意」
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