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第2章 【side 皇祐】
10.意外な感情の衝突
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皇祐が初めてStrahlの店にやって来た時、リオとテルはすでに店で働いていた。
わからないことをいろいろ教えてくれたのは、彼らだった。
テルは、母親の借金を返すために、この仕事を始めるようになったらしい。
皇祐と同じ年齢だけじゃなく、父親の借金を抱えているという似た境遇のせいか、働き始めてすぐに話をするようになった。
リオはというと、当時付き合っていた恋人に騙されて借金を作ってしまい、それでこの店で働くようになったという。
最初のうちは、皇祐がリオに挨拶をしてもずっと無視され続けていた。
独特な雰囲気で、美しいけど笑わないから、誰もが近寄りがたいと感じてしまう。
一人でもいい。そんな風に見えてしまうけど本当は違うような気がしていた。
それからも皇祐は、懲りずにリオに会えば何かと話しかけていた。返答がなくても良かった。
皇祐がリオの傍にいるから、自然とテルもそこにやってくる。
かなりうるさくつきまとわれて諦めたのか、次第にリオは、皇祐に心を開いていく。
いつの間にかロッカーには、よく飲んでいるペットボトルのお茶が置かれていたり、好んで食べると話したお菓子をくれたり。そして、店や仕事について、いろいろ親身になって話を聞いてくれるようになった。
リオとテルは性格が合わないのか、その頃からよく言い合いをしていた。だが、なんだかんだいって一緒にいるから、『喧嘩するほど仲がいい』ということなのかもしれない。
「お待たせしました」
敦貴と店主が、注文した皇祐たちのラーメンを持ってきてくれる。
「おいしそうね」
「ですね」
リオとテルも運ばれてきたラーメンを目の前にして、幸せそうな笑顔を浮かべたので皇祐も嬉しくなった。
「申し遅れました、店主の葉室潤一です。君が、アツキの恋人のコウスケくん?」
「……はい」
店主が、敦貴の恋人が皇祐だと知っていることに驚いた。
敦貴は彼を信頼して、何でも話しているのだろう。いろんな相談事も全て。
そんな相手がいることに、少なからず心がざわざわと騒ぎ始める。
「へー、あまりアツキを惑わさないでね」
店主の顔は笑っているのに、目が笑っていない。頭の先からつま先までじぃっと見られ、居心地が悪かった。
皇祐のことを歓迎していない様子が、ひしひしと伝わってくる。胸に切り裂くような痛みが走った。ずきずきと心を蝕んでいく。
店主と皇祐の間に、嫌な雰囲気が流れていた。この場から今すぐ逃げ出したい。そんな皇祐の様子を一番に感じ取ったのがリオだった。
「あら、お兄さん、いい男ね」
場を和ませるために言った言葉だ。しかし、それが原因で、自分の方へと刃が向くとは思わなかっただろう。
店主は、ふっと笑って言った。
「ありがとう、女性に言われるのは嬉しいよ。だけど、オネエに言われても虫唾が走る」
一瞬でリオの顔から、笑顔が消えた。
「何言ってんの? 潤ちゃん」
敦貴は状況がわかっていないようで、戸惑いの様子を見せていた。
リオの座っていた椅子が、ガタンと倒れる。その場で勢いよく立ち上がったからだ。
「リオ……」
落ち着かせるように、皇祐はリオの腕を引いた。だが、それは無意味な行為だった。
「ごめん、コウ。この、顔だけの男と同じ空気吸いたくないわ」
テーブルに五千円札を叩くように置き、リオはものすごい剣幕で店から立ち去った。
「ありがとうございました」
店主はリオの目の前に出していたラーメンの器を下げ、何事もなかったように持ち場に戻る。
「え、何で? どうしたの? コウちゃん?」
敦貴は不安そうな顔をして、皇祐に助けを求めてきた。
「大丈夫、ラーメン食べたら帰るよ、これでお会計しておいて」
リオが置いていった五千円札はしまい、皇祐は自分の財布からお金を出して敦貴に渡した。
お金を受け取った敦貴は、店主の方を気にしながら小声で話しかけてくる。
「オレも、すぐ上がるから、家で待っててね」
「ああ」
そのあと、テルと皇祐は、無言でラーメンをすすっていた。美味しいラーメンのはずなのに、リオのことが気になって、あまり味が感じられない。
リオが怒ったところは、今まで何度か見たことはあった。だが、あそこまでひどく感情を露わにしたのは初めてかもしれない。逆鱗に触れたのだろう。
普段リオとは言い争いばかりしているテルでさえ、帰り際に「リオさん、大丈夫ですかね」と心配していたくらいだ。
あの店主の言い方は、リオを怒らせるためにわざと言ったようにしか思えなかった。
というより、皇祐を含めた三人を歓迎していないということなのかもしれない。
わからないことをいろいろ教えてくれたのは、彼らだった。
テルは、母親の借金を返すために、この仕事を始めるようになったらしい。
皇祐と同じ年齢だけじゃなく、父親の借金を抱えているという似た境遇のせいか、働き始めてすぐに話をするようになった。
リオはというと、当時付き合っていた恋人に騙されて借金を作ってしまい、それでこの店で働くようになったという。
最初のうちは、皇祐がリオに挨拶をしてもずっと無視され続けていた。
独特な雰囲気で、美しいけど笑わないから、誰もが近寄りがたいと感じてしまう。
一人でもいい。そんな風に見えてしまうけど本当は違うような気がしていた。
それからも皇祐は、懲りずにリオに会えば何かと話しかけていた。返答がなくても良かった。
皇祐がリオの傍にいるから、自然とテルもそこにやってくる。
かなりうるさくつきまとわれて諦めたのか、次第にリオは、皇祐に心を開いていく。
いつの間にかロッカーには、よく飲んでいるペットボトルのお茶が置かれていたり、好んで食べると話したお菓子をくれたり。そして、店や仕事について、いろいろ親身になって話を聞いてくれるようになった。
リオとテルは性格が合わないのか、その頃からよく言い合いをしていた。だが、なんだかんだいって一緒にいるから、『喧嘩するほど仲がいい』ということなのかもしれない。
「お待たせしました」
敦貴と店主が、注文した皇祐たちのラーメンを持ってきてくれる。
「おいしそうね」
「ですね」
リオとテルも運ばれてきたラーメンを目の前にして、幸せそうな笑顔を浮かべたので皇祐も嬉しくなった。
「申し遅れました、店主の葉室潤一です。君が、アツキの恋人のコウスケくん?」
「……はい」
店主が、敦貴の恋人が皇祐だと知っていることに驚いた。
敦貴は彼を信頼して、何でも話しているのだろう。いろんな相談事も全て。
そんな相手がいることに、少なからず心がざわざわと騒ぎ始める。
「へー、あまりアツキを惑わさないでね」
店主の顔は笑っているのに、目が笑っていない。頭の先からつま先までじぃっと見られ、居心地が悪かった。
皇祐のことを歓迎していない様子が、ひしひしと伝わってくる。胸に切り裂くような痛みが走った。ずきずきと心を蝕んでいく。
店主と皇祐の間に、嫌な雰囲気が流れていた。この場から今すぐ逃げ出したい。そんな皇祐の様子を一番に感じ取ったのがリオだった。
「あら、お兄さん、いい男ね」
場を和ませるために言った言葉だ。しかし、それが原因で、自分の方へと刃が向くとは思わなかっただろう。
店主は、ふっと笑って言った。
「ありがとう、女性に言われるのは嬉しいよ。だけど、オネエに言われても虫唾が走る」
一瞬でリオの顔から、笑顔が消えた。
「何言ってんの? 潤ちゃん」
敦貴は状況がわかっていないようで、戸惑いの様子を見せていた。
リオの座っていた椅子が、ガタンと倒れる。その場で勢いよく立ち上がったからだ。
「リオ……」
落ち着かせるように、皇祐はリオの腕を引いた。だが、それは無意味な行為だった。
「ごめん、コウ。この、顔だけの男と同じ空気吸いたくないわ」
テーブルに五千円札を叩くように置き、リオはものすごい剣幕で店から立ち去った。
「ありがとうございました」
店主はリオの目の前に出していたラーメンの器を下げ、何事もなかったように持ち場に戻る。
「え、何で? どうしたの? コウちゃん?」
敦貴は不安そうな顔をして、皇祐に助けを求めてきた。
「大丈夫、ラーメン食べたら帰るよ、これでお会計しておいて」
リオが置いていった五千円札はしまい、皇祐は自分の財布からお金を出して敦貴に渡した。
お金を受け取った敦貴は、店主の方を気にしながら小声で話しかけてくる。
「オレも、すぐ上がるから、家で待っててね」
「ああ」
そのあと、テルと皇祐は、無言でラーメンをすすっていた。美味しいラーメンのはずなのに、リオのことが気になって、あまり味が感じられない。
リオが怒ったところは、今まで何度か見たことはあった。だが、あそこまでひどく感情を露わにしたのは初めてかもしれない。逆鱗に触れたのだろう。
普段リオとは言い争いばかりしているテルでさえ、帰り際に「リオさん、大丈夫ですかね」と心配していたくらいだ。
あの店主の言い方は、リオを怒らせるためにわざと言ったようにしか思えなかった。
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