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第1章 【side 敦貴】

37.友だちをやめる

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「コウちゃん……」

 やっと会えたことに、喜びをかみ締めていた。皇祐が、敦貴の目の前まで歩み寄る。

「店には来るなって言っただろ」

 途端に、厳しい言葉を投げかけてきた。

「……店に行ったら、コウちゃんの予約取れなかったよ」
「指名できないように僕が店に伝えた。会わないって決めたのに……」

 約束を守らない敦貴に腹が立ったのだろう。悔しそうに唇を噛んでいる。
 怒っている皇祐を何とか宥めようと声をかけようとしたら、すぐに言葉を続けた。

「いつから待ってたんだ? 今日は早く上がったけど、外に出てることもあるし、朝まで仕事してることもあるんだ」

 冷たい言い方だけど、敦貴を心配している様子が伝わってきた。

「ずっと待つよ。コウちゃんに会えるまで、何度も通うし」

 敦貴の声が大きいと感じたのか、皇祐は辺りを気にして小さく呟く。

「少し、歩こうか……」

 店の前で立ち話しするのは、良くないと思ったのだろう。
 歩き始めた皇祐の背中を追うように、敦貴もゆっくりとついていった。
 彼は黙ったままで、こちらの方を見向きもしない。小走りで駆け寄り、隣に並んで歩いた。

「これからもコウちゃんに会いたい!」

 顔を覗き込むようにして話しかけた。

「ダメだよ、今日で最後にしよう」

 皇祐は喋りながら、真っ直ぐ前を向いたまま歩き続ける。

「ねえ、こっち向いて。オレ、コウちゃんのことが大好きなんだよ」

 敦貴がありったけの思いを込めて言えば、歩みを止めて、やっと顔を見せてくれた。

「敦貴は、昔からそう言ってくれるよね。嬉しいよ。僕は友だちを作るのが苦手だから、他にそんな風に言ってくれる人はいない」
「コウちゃんはすごい人だから、みんな、仲良くなりたくても消極的になっちゃうんだよ」
「僕は、すごくないよ……」

 悲しそうな表情で、思いっきり首を横に振った。そして、まっすぐとした眼差しで、敦貴を見つめてくる。

「お願いだから、敦貴……もう会うのはやめよう」

 皇祐がここまで拒絶するのは、身体の関係がある以前に、やはり敦貴のことが嫌いだからなのだろうか。はっきり言葉にしないのは、傷つけまいと気遣っているだけなのか。
 敦貴の心に不安の波が押し寄せてくる。
 学生の頃ずっと傍にいて皇祐のことは何でもわかっているつもりでいた。
 今は皇祐が何を考えているか想像できなかった。

 それでも、後悔はしたくないから、自分の考えだけは伝えたいと改めて決意する。
 一呼吸置いて、はっきり言葉にした。

「オレ、コウちゃんと友だちでいるの、やめることにした」

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