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エピローグ

5、キシオン・シュラネスのその後

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 場が凍る。
 
 王家の彼らの頭には疑問しか無かった。
 誰かいるが、それは誰なのか?
 答えを求めて、彼らは唯一の入り口に目を向ける。
 
 そこには青年がいた。
 貴族の男性たちを率いて腕組みをする青年。
 その剣呑な眼差しを知っている者が王家には1人だけいた。
 デグが唖然と驚きを呟く。

「……キシオン?」

「はい。キシオン・シュラネスでございます。お会いするのは、処刑の当日以来でしょうかな?」

 その挨拶に応える余裕などは無かった。

 デグにしてもロイにしろエミルにしてもそうだ。
 聞かれてはマズイことを聞かれたのではないか?
 それを懸念する程度の知性が彼らにはあったのだ。

 一方で、彼女はと言えば違った。
 家族たちと比べて一段と血のめぐりの悪い母は、キシオンに対し困惑を叫ぶ。

「な、なんですか!? 挨拶も無しに失礼ではありませんか!?」

 その間抜けな反応は、キシオンに呆れさせるには十分だった。

「よくもまぁ、そのような呑気なことを。この状況を理解しておられないのですかな?」

 母が「へ?」と一層間抜けに反応する一方だ。
 家族の中では一番彼女が鋭敏ではあった。
 エミルは愛想笑いを浮べ、慌てて首を左右にする。

「ち、違うの! 何か誤解があるみたいだけど、ね? そんな変な話をしてたわけじゃないから」

 キシオンが何者かは分からずとも、数多の貴族たちがいれば思わず否定を口にした。
 しかし、もちろんそれは猿知恵に類する。
 キシオンはすっと目を細めた。

「左様でしょうか? 残念ながら、貴方がたが口論に熱中している間、我々はそれなりの時間をここで過ごしていましてな」

 これで母以外の全員に理解が生まれたのだった。
 どうやら言い訳は難しいらしい。

「な、なんだ!? これは一体どういうことだ!?」

 腰を浮かせれば、デグは動揺を叫ぶことになった。

 まったく分からなかったのだ。
 この状況は何なのか?
 キシオンが貴族たちを……それも国内有数の有力者たちを率いて現れた。
 そして、彼らに自分たちの秘事を聞かれることになった。

 それらは事実として分かった。
 しかし、それ以上のことが分からない。
 この場で一体何が起ころうとしているのか?
 それが理解出来ない。

 オロオロと視線を左右させるしかないデグに対し、キシオンは冷笑を見せつけてきた。

「分かりませんか? まぁ、貴方らしいと言えば貴方らしいが。端的に言えば、貴方がたはもう終わりということです」

 デグとその家族たちは「は?」と唖然を声にする。
 まだ理解は生まれてはいないらしい。
 そう理解して、キシオンはやれやれと苦笑を浮かべた。

「本当に分かりませんか? そもそもですが、後ろの彼らをここに招いたのは貴方がた自身なのですよ?」

 もはや混乱で言葉も出ないデグに代わってだ。
 ロイが悲鳴に似た叫びを上げる。

「ど、どういうことだ!? 説明しろ!!」

「もちろん。やはり悪女は処刑すべきではありませんでしたな。ロイ殿下につきましても案の定と申しますか。悪女の悪名があってこそ黙り込むしかなかった王都の貴婦人たちが一斉に声を上げ出しているようで」

 ロイは「うっ」と黙り込む。
 事実、それがロイを苦しめていることだった。
 今まで押し込められていた悪評が、悪女の処刑をもって王都中に広まっているのだ。

 キシオンは今度はエミルとその母に侮蔑の視線を向ける。

「貴女がたについてはもはや何も言いますまい。悪女はおらずとも、やはり節制など出来ませんでしたか。そして……陛下」

 ビクリと肩を震わしたデグに、キシオンは再びの苦笑を浮かべた。

「てっきり、政務への怠慢ぶりをさらされる程度かと思ったのですがね。いやはや、それ以上でした。いきなり退位を叫べば部屋に閉じこもるなど、これ以上にない醜態をさらしていただきました」

 キシオンは背後の貴族たちを笑みと共に振り返った。

「これで、彼らも疑問に思ったのです。本当に今までの悪行は悪女によるものだったのだろうか? そして、その真偽を確かめるべく、ここを訪れさせていただくことになったのですが……さて」

 キシオンはデグたちに視線を戻した。
 そこにはもはや笑みも苦笑も無い。
 ただただ冷たい憎悪の眼差しばかりがある。
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