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5、はかない希望

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 もちろんのこと、メアリは拒絶した。
 
 今までのものとは明らかにその深刻度が違ったのだ。
 受け入れられるはずが無かった。

 だが、拒絶は受け入れられなかった。
 メアリは殴られた。
 その上で、馬乗りになってきた父親に脅された。

『拒絶するのであれば……なぁ?』

 殴られた直後のこれだった。
 メアリは怯えながらに頷くしか無かった。

 メアリは悪女となった。
 世間も、あの陰気な女であればとさして疑問は持たなかった。

 だが、彼は違ったのだ。
 であれば、指輪を受け取る日がやってくる。
 悪女としての噂が広まったある日だ。
 訪ねてきた彼はメアリに詰め寄ってきた。

『これはなんだ? 君のわけが無いのにどうなってる? 何か仕組まれているんじゃないか?』

 彼は国王の仕業だと確信している風もあったが、それはメアリが言わせなかった。

『お前がこのことを誰かに打ち明けてみろ。お前はもちろん、打ち明けた誰かもただではすまさんぞ』

 そう父親から脅されていた。
 すでに見張りもついていた。
 彼に泣きつくことなどは出来なかった。

『全部私がやったこと。貴方はもう二度と私に近づかないで』

 自分のためであり、何より彼に危害が及ばないためにだ。
 メアリはそう告げるしかなかったが、彼が指輪を渡してきたのはその時である。
 
 突然だ。
 キシオンは『見損なったぞ!』と胸ぐらを掴んできた。
 当然、見張りが制止に割って入ってきたが、その最中だ。
 彼は自身の指にあった指輪をメアリにひそかに握らせてきた。

 よって今、指輪はここにあった。
 メアリの人差し指にあり、大事に手のひらに包まれている。

 メアリは信じていた。

 これはきっと証なのだ。
 いつか必ずメアリを助ける。
 そう決意した彼が、その証として指輪を残してくれた。
 
 そうメアリは信じていた。
 だが……メアリは斜陽に目を細めつつに苦笑を浮かべることになる。

 信じてはいた。
 一方で、心の底から信じ切っているかと言えばそれは違った。

 なにせ自身に都合の良い妄想に過ぎないのだ。
 一体何故キシオンは自分に指輪を握らせてきたのか?
 あの日よりキシオンには一度として会ってはいない。
 尋ねる機会などは無く、真相はただただ闇の中だ。

 きっと真相は違う。
 
 そんな都合の良いことは無ければ、この指輪が自身の手にあるのはおそらくは偶然に違いなかった。
 キシオンは今は貴族学院で過ごしているとのことだった。
 きっと彼は自身のことを覚えてもいないだろう。
 自分の知らない誰かと、幸せな日々を過ごしているに違いない。

 ただ、それでもメアリは信じていた。

(それぐらいはいいでしょう……?)

 メアリは静かに目を閉じる。
 王家の悪女として、憎悪の感情にさらされながらに過ごす日々。

 そのぐらいは良いはずだった。
 他愛ない無邪気な希望を抱いたところで良いはずだった。
 先の見えない暗闇を進むような人生において……生きる理由を見出すことぐらいは許されるはずだった。
 
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