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後日談2:友人の恋路

2、イブリナ

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(お、怒っていらっしゃいますよね?)

 淡々とした口調だったが、何となくその辺りは察せられた。
 恐らくだが、彼女は怒っている。
 ヘルミナの何かしらに対して、強い怒りを覚えている。

(な、何かしましたでしょうか?)

 イブリナは非常に気の強い女性ではあった。
 その辺りで周辺との衝突は多く、ギネス、カシューなどともよく火花を散らしていた。

 ただ、気は強くとも、彼女は理知的な女性だった。
 意味も無く癇癪かんしゃくを爆発させるような人間では無い。
 
 彼女の怒りには、いつも何かしら納得出来る理由があった。
 であれば、今回もそのはずだった。
 だが、ヘルミナは首をかしげることしか出来ない。
 何分、理由がさっぱり思いつかない。
 没交渉であれば、そもそも怒らせるようなことはなかなか出来るものでは無いはずなのだ。

 戸惑っていると、イブリナは動きを見せてきた。
 ヘルミナに対して、すっと指を3本立ててくる。
 その意味は十分に察せられた。

「み、3つもご理由があると?」

 イブリナは押し殺した怒りの表情のままで頷きを見せた。

「そう。3つもあるの。話をさせてもらっても良いかしら?」

「ど、どうぞ」

「1つ。学院を出てから、何で一度も手紙をくれなかったの? まずこれ。答えてちょうだい」

 イブリナの表情は、いよいよ分かりやすく怒りの表情になっていた。
 額には深々とした谷がいくつも穿たれている。

(こ、怖いですね)

 ともあれ、釈明の時間だった。
 しっかりとした理由があるのであれば、ヘルミナは気圧けおされながらもなんとか口を開く。

「そ、それは、イブリナ様は公爵家のお方ですから。私などが手紙を差し上げてもご迷惑かと……」

「ふーん、なるほど。貴女らしいと言えば貴女らしい物言いね。じゃあ、次。ハルムに離縁されたのよね? なんで、その時に真っ先に私を頼ろうとしなかったの?」

「そ、それはあの、やはりご迷惑かと思いまして……」

「そう。だったら、ルクロイとの婚約を婚礼の前に私に知らせなかったのは?」

「そ、それもまた、わざわざご迷惑かと……」

 結局、同じ弁明を3度繰り返すことになった。
 果たして、これがイブリナの怒気を収めることになるのかどうか。
 不安に思っていると、彼女はスタスタとヘルミナに近づいてきた。
 間近になる。
 相変わらず綺麗な人だなどと、場違いに考えているとだった。
 彼女はガシリとヘルミナの両肩をつかんできた。
 へ? などと間抜けな声を上げることになるが、それとほぼ同時だ。

「ヘルミナっ!!」

 目の前で怒声を浴びれば、ヘルミナは背筋を震わすこととなった。

「は、はいっ!!」

「貴女ね、私がどれだけ心配したと思ってるのよっ!! 実際、悪い噂しか聞こえてこなかったし、困っているなら連絡ぐらい寄越しなさいっ!!」

「も、申し訳ありませんでしたっ!!」

 思わず頭を下げれば、聞こえてきたのは深々としたため息だった。

「はぁ。まったく……頭を上げなさい。別に怒ってないから」

 あまりそうは思えなかったが、恐る恐る頭を上げる。
 実際にだ。
 今のイブリナには怒りの表情は無かった。
 代わりに、呆れの表情が色濃くある。

「本当、何かあったら怒ってたけどね。でも、幸いだけど、救いの手はあったみたいだから」
 
 彼女の視線は自身の背後にあった。

 思わず振り返れば、ルクロイが苦笑で歩み寄っているところだった。
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