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たまにはいいよね
しおりを挟むカーン。
私の頭の奥で、なぜかゴングが鳴った。
「リョウの奥さんですよね」
ニッコリと微笑むその女性は明らかに上から私を見ている。
多分、今、私たちの間には火花が散ってるだろう。
「そうです。ブーケをとった方ですよね。
先日は結婚式に来ていただいてありがとうございました」
「かわいらしい結婚式でとても楽しかったですわ」
かわいらしい?そんな年じゃないってわかってて言ってるのよね、この人。
「そんな、ありがとうございます。リョウと二人ですべて考えたので
皆さんが楽しんでいただけたのか心配でしたの。
楽しんでいただいてよかったですわ」
負けずにニッコリとはにかむ様に微笑んでやった。
「今日は、お一人?」
一人じゃ悪いの?
「そうです。結婚して初めて一緒に晩御飯が別になってしまって。
だからのんびりとカットでもしようかなって思って。
いつもリョウが一緒だから・・・・・。二人の時間をつぶすと勿体ないでしょ?」
ふん。うちはラブラブなんだから。
すると、その女性はいやみったらしくびっくりする様な口調で言った。
「あら、もしかして今日のことリョウは奥様に言ってなかったんですか?
今日は、私とご飯に行くことになってますのよ」
む、なに?聞いてないわよ。
「そうなんですか?本人はたいした用事じゃないからすぐに帰ってくるって
言ってたんですよ。たいした用事じゃないってあなたと食事をすることだったんですね」
たいした用事じゃないとはいってないけど。
ちょっととしか言ってないけど。
にこやかにたいした用事じゃないを強調しながら笑顔で返す私。
すごい、いやみったらしい・・・。
我ながらびっくり。
女性はむっとした表情に一瞬なるも、すぐに微笑みかけた。
でもこめかみがピクピクしてた。
ふ、ちょっとは打撃になったかしら。
「あら、そろそろ待ち合わせに時間ですわ。
今日はリョウをお借りしますね。
それではごきげんよう」
まるで逃げるかのように退散するのね。
勝ったわ。
うれしさをこらえきれず、満面の笑みで答える。
「ごきげんよう」
グルグルのたて巻きロールをブワッと広げながら彼女は去っていった。
私は、お辞儀をしながらも心の中では舌を出していた。
やっぱり、彼女は「敵」だわ。
ほんと、むかつく。
リョウとどんな関係か、知らないけど。
まあ、リョウのことだから、あの手のタイプは多分一番嫌いなタイプだから
心配いらないだろうけど。
わかってるけどむかつく。
ムキーっと腹立つ感情をどうにか抑えて
おびえてる美容院のお姉さんに謝った。
「ごめんなさい、ちょっと驚かせてしまったわね。
さ、行きましょう」
お姉さんはびくびくしながらシャンプー台に案内してくれた。
お姉さんには申しわけないことしちゃったな。
その後は、ただ黙っていいお客でいることに徹底した。
2時間ほどで終了。
予定通りの髪型になって大満足。
パーマをかけようか悩んだところだけど、
もともと天然パーマだからカット次第でパーマみたいになる。
ワックスでふわふわ感をうまく出してくれて
かわいらしくなった。
「ありがとう、すっきりしたわ」
お礼を言って店を出た。
時計を見ると、8時をまわっている。
うーん、ご飯どうしようか。
あ、自分で作ってみようかな。
たまにはいいかな。
髪を切ったせいか、さっきの出来事をすっかり忘れて
鼻歌なんか歌いながら帰り道にスーパーに寄る。
簡単なパスタでいっか。
生クリームとベーコンを籠に入れてアイス売り場に向う。
クリスピーサンドの練乳いちご味を見つけた。
これ、リョウが好きなんだよね。
買っていってあげようと思って手にしたら後ろから大きな手に塞がれた。
「それ、もう買ったわよ。あれ、もえ髪切ったの?かわいらしいんじゃない?」
「リョ、リョウ?」
リョウのことを思って買おうとした瞬間本人が後ろにいるなんて思っても見なかった。
び、びっくりした。
あまりにもびっくりした私は髪型を褒められたことすらぶっ飛んでいた。
「ふふ~。びっくりした?」
「びっくりしたわよ~。こんな時間に帰ってくるって思わなかったし」
そう、あの人ならきっとリョウを引き止めると思った。
「だって、早く帰るって言ったでしょう?たいした用事でもないし」
リョウのなかでもたいした用事じゃなかったのね。
思わず、大爆笑をする私に変なものを見るかのように横目で私を見る。
「ちょっと、お嬢様ならそんなに大声でわらっちゃだめよ。
まったく、これだからもえは・・・・」
ぶつぶつ言い出したリョウは私がもっていた籠を取り上げると中身を覗いた。
「なに?自分で作るつもりだったの?もしかして、カルボナーラ?」
材料をひとつひとつ取り上げてチェックしていた。
そう、私はカルボナーラなら作れる。というか、この前リョウに教わったばっかりだから。
意外と簡単なことを知ってちょっとチャレンジしてみたかったのだ。
「うん、この前教わったからね。リョウも食べる?」
「そうねぇ、さっきまで食欲なくってあんまり食べなかったけど、私も食べたくなってきた。
一緒に食べるわ。なに?もえが作ってくれるの?」
「しょうがないわね、このお嬢様が作って差し上げますわよ。心してお食べなさい」
ふふ~んと威張って見せた。
リョウはニッコリ笑っていた。
「ありがたく頂戴いたしますわ」
そういって私の手をとってレジに向った。
初めてリョウと手をつないだ。
リョウの大きくて綺麗な指につつまれて
しばしつないだ手を見つめてしまった。
きっと、リョウにとって子供の手を引くのと同じなんだろうけど、
私にとっては久々のドキドキ。
ああ~、手をつなぐだけでドキドキするとは。
女、30歳前にしてこんなときめきがあるとは。
しかも、リョウ相手にここまでくるとは。
一生の不覚・・・・。
くうっと手を胸に当ててふらふらする私に、
リョウは、
「どうしたの?おなかすいた?我慢できない?」
なんて、トンチンカンなことを言ってくる。
はぁ。
ため息は出たものの、リョウと手をつないでるなんてめったに無い事だから、
今の状況を壊したくない。
「ねえ、リョウ。私、腕組みたい」
お店から出た私たちはリョウの車が置いてある駐車場に向っていた。
「腕?どうしたの?」
「ん?たまにいはいいよね」
そういって了解を得ないまま私は腕を組んだ。
「しょうがないわね」
そんな私を見て、頭をポンポンとたたいて微笑んだ。
う~、やっぱり子供扱いかぁ。
確かに、私はリョウからすれば手のかかる子供みたいなものかもしれない。
我がままで、自分の事は何もできなくて、
甘えることしか出来ない。
でも、今はこれでいいんだ。
リョウと腕を組んで歩けるだけでも幸せなんだ。
きっとリョウと腕を組んで歩ける女の子はこの世で私だけだから。
だから今はこの幸せを噛みしめていたい。
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