シンデレラになりたくて

アオ

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とても難しくて簡単なこと

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 ずっとずっと一人だった。

 ないて親を求めても誰も私を見てくれなかった。

 それなら誰も見なければいい。

 一人で生きていくために利用すればいい。

 そうすれば、私は傷付かなくてすむ。

 もう泣かなくてすむんだ。





 それなのに――――――――。






 どうしてこの人は私を一人にさせてくれないのだろうか。

 




 他の人のものだというのに―――――――――。







 150cm程度の私は180cmは軽くあるものに包まれて目が覚めた。




 今まで誰かと夜をともにしてもくっついて目が覚めたことがない。

 自然とシーツで自分を包み込むようにして眠っていた。

 犬・・・・いや人間ってこんなに暖かいんだ。

 初めて感じた人のぬくもりは心地よかった。

 そっと胸に耳を当てるとトクントクンと音がする。


 


 やさしい音だなぁ。


 

 もう少し・・・・・だけ、くっついてもいいよね。

 


 すりすりと頬を胸にくっつけ、大きな体に腕をまわした。

 すると、頭をなでなでしておでこにチュウされた。

 「おはよう」

 相変わらず表情の変わらない武ちゃんは私に普通に挨拶した。

 「・・・・・ぉはよう」

 こんなに普通の恋人同士みたいでいいのか。

 いや、だめだよねぇ。

 昨日のキスでなんとなく武ちゃんの部屋へ一緒に来てしまって流れでこんなふうになってしまったけど、
 
 恋人がいる人とこんなことするのはさすがの私もいやだ。

 そう思うといてもたってもいられずベッドから出て急いで身支度をした。

 それをだまって見ている視線が痛い。

 何だか怒っているような・・・・。

 気づかぬふりをして化粧を仕上げた。

 「じゃあ、私帰るから」

 なるべく目を合わせないように足元を見ながら言う。
 
 「こ、このことは一夜の遊びということで、お互い忘れましょう。

 大人なんだし」

 言うだけ言って足早に玄関へ向かう。

 


 我ながら後腐れない言葉でしめたぞと褒めながらドアノブに手を掛けた。




 バンッ。




 私の手の上から大きな手が出てきて開きかけたドアが大きな音をたてて閉まった。

 「なんで帰る」

 低い低い声が頭上から響く。

 しかも、真っ黒いオーラ付き。

 「え、なんでって武ちゃんの彼女が来たらまずいでしょ?さすがに」
 
 怖くて怖くて顔が見れない私は、

 ただ大きな手を見つめて言った。

 「それにさっきも言ったでしょ?

 一夜だけなんだから忘れましょって。

 大丈夫、ほら私知ってのとおり演技うまいから、

 ちゃんと友達できるって」

 今までだって上手に演じてたんだから、

 これからだって・・・・。

 「友達なんかじゃない」

 「そ、そんな言い方しなくたっていいじゃない。

 少なくとも私は初めて自分の素を出せる友達だと・・・・」

 そこまで言いかけるとぐるりと武ちゃんの方を無理やり向かせられた。

 そして、あごに大きな手がかかり上を向かせられキスされた。

 


 強引に奪うようなキス。



 苦しくて武ちゃんの胸をドンドン叩いても、

 唇は離してくれなかった。
 
 そして強く強く私を抱きしめると、首元で






 「友達なんかじゃない。

 一度もそんなふうに思ったことない」





 と、苦しそうに武ちゃんは言った。







 なによ。





 苦しいのは、私の方だよ。







 ずるいよ、武ちゃん。






 「お願い。離して」






 もがいてももがいてもでっかい武ちゃんの胸の中から出ることはできず。

 


 「私はね。恋人がいる人とは絶対にこんな関係はいやなの。

 自分の親と同じことはしたくないの。

 だから離して」

 「恋人?」

 ふっと武ちゃんの力が緩んだ。

 「そうよ。美人な彼女がいるじゃない。
 
 私、見たんだから」

 おかげで胸がムカムカしたわよ。

 「見たって・・・・。何を?」

 「何をって仲良さそうに昨日買い物してたじゃない。

 だから私・・・・・」

 「私・・・?」

 その続きが求められた。何を言うつもりだったの?
 
 じっと見つめていた武ちゃんは一言。





 「ヤキモチ焼いたのか?」

 


 ヤキモチ?



 この私が?



 「な、な、なんで私がヤキモチ焼かなくちゃいけないのよ。

 あれは恋愛感情があるから焼くんでしょうが」

 「恋愛感情・・・・・・・」

 「そ、そうよ。私はね、恋愛感情がこの世で一番信用ならないって

 思ってるのだから。

 誰のことも好きにはならない。」

 そうよ、今まで20数年そうやって一人で生きてきたんだから。

 「お前が言ってることは無茶苦茶だ。

 なんで事をそんなにややこしくする」

 「ややこしく・・・・て」

 「自分の気持ちに素直になることをなんでそんなに恐れる?」

 素直になる?

 「私は、いつも素直よ」

 威張って言うとため息を吐かれた。

 失礼ね。

 なんでため息を吐くのさ。

 「まあいい。それから誤解をしてるようだが、

 お前が見たのは恋人でもなんでもない。

 ただの人使いのあらい友人だ。

 俺は、今は誰とも付き合っておらん」

 「え?違うの?」

 あんなに仲良さそうだったのに?

 友人?

 「違う」

 きっぱりと武ちゃんが言うもんだからほっとした。

 「ほっとした?」

 まるで私の心の中をのぞいたかのように突っ込まれる。

 「してないもん」

 「してた」

 「してないもーーーーーーん」

 ばーんと武ちゃんを両手で押しやって、

 私は部屋を飛び出した。


 




 してない。

 してない。

 

 一瞬ほっとしたかもしれないけど、してない。

 大体ほっとする理由なんかないもん。

 あーもー、わけわかんない。

 



 「武ちゃんのバカーーーーーーーー!!!」




 マンションから出てきた私は、最上階の武ちゃんの部屋に向かって叫んだ。

 「愛ちゃん?」

 振り向くと順子さんが立っていた。

 「順子さん」

 「何?武ちゃんと喧嘩でもした?」

 ニヤニヤした笑いは止めてほしいんだけど。

 「喧嘩というか、いろいろありすぎて訳わかんなくなって・・・・・・・。

 八つ当たり?ですかね」

 ほんと、頭ん中、ぐちゃぐちゃだよ。

 「あはは。愛ちゃんはすごく考えすぎなんだよ。

 難しいって思ってることは、

 たいてい簡単に答えは出てるんだよ」

 「答え?」

 「そう、自分の中では最初から答えを出してるのに、

 理由つけて難しくしてるの」


 私が難しくしてる?

 順子さんは武ちゃんみたいに私の頭をぽんぽんとなでてにっこりと笑った。

 「たまには本能で動くことも必要よ。
 
 それで失敗したら私がいくらでも慰めてあげる」

 そういって順子さんは手をひらひらふって去っていった。





 本能で動くこと―――――――――。

 



 私の本能って




 いったい何だろう?




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