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幽霊になったのでイケメンにセクハラしました。 4
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お話をして、打ち解けられたおかげか、つかさくんはもうちょっとくらいなら傍にいてもいいと言ってくれたが、私は一旦家に帰ることにした。
駅前からバスで三十分ほどかかる道のりも、幽霊の体なら早かった。
鳥のように空を飛ぶという感覚は、思った以上に爽快感があって楽しい。
しかし高揚した気持ちのままに付いた我が家は、どんよりと沈んでいた。
一人娘が亡くなったのだから、当然なのかもしれないが。
(暗っ……今日ってお母さんパートの日だったっけ? なんで誰も家にいないんだろ)
うちのお母さんは、お昼の二時くらいまで親戚の会社で働いている。普段は仕事が終わったら帰ってきて家事をするので、夜七時を回って留守にしているのは珍しい。
おかしいのはそれだけじゃなかった。家の中もなんだか荒れている。流しに汚れた食器が出しっぱなしだし、洗濯物はベランダに干しっぱなしだ。
郵便物も散らばってるし、几帳面なお母さんらしくない。
(なんか変。普通人が亡くなったら祭壇とか写真とか置かれるよねぇ)
部屋の中を見て回った私は首をかしげた。家中見て回ったがそれらしきものは一切なかった。
(もしかして私、大事にされてなかった……とか?)
いや、そんなまさか。
お父さんもお母さんも普通の人だ。入学式や誕生日など、節目節目のお祝いはちゃんとしてくれてたし、普通に愛されていた……と思う。だから私がいなくなって、二人ともきっと悲しんでいる、はず。
胸がどきどきした。この体は幽体で、血は通っていないはずなのに。
玄関の鍵を回す音が聞こえてきたのはその時だった。慌ててそちらに向かうと、帰ってきたのはお母さんだった。
「お母さん」
ダメ元で呼びかけてみるが、お母さんに私の姿は見えないようだ。
会ってないのはほんのわずかな期間のはずなのに、随分とやつれている。髪はぼさぼさだし顔はげっそりしているし、普段よりも十歳以上は老け込んで見えた。
お母さんは家の中に入ると、深いため息をつき、テレビの前のちゃぶ台に座り込んだ。
そして、いつも使っているカバンから手帳を取り出すと何か書き始めた。
それを後ろから覗き込んで、私は大きく目を見開いた。
10月7日(水)
今日も恵は起きない。意識不明になってから一週間、恵はこんこんと眠り続けている。
他に怪我はないはずなのにどうして起きないの? お願い、目を覚まして!
お母さんは手帳にそう書き込むと、悲痛な顔でうつむいた。
どういうこと? 私、生きてるの?
混乱しながらも私は考える。
幽体離脱、という言葉が頭の中に浮かんだ。
頭を打った拍子に体と魂が別れてしまったんだとしたら、私の体はいまどこにあるんだろう。
お母さんの様子を見た感じ、恐らくは病院。だけどどこに入院しているのかはわからない。
私はきょろきょろと辺りを見回した。何か、どこかにヒントになるものはないだろうか?
――あった。多分これだ。
ダイニングのテーブルの上。乱雑に散らばった郵便物と一緒に、病院のパンフレットが置かれている。
パンフレットの表紙には、『入院の手引き 明和会緑ヶ丘病院』と書かれていた。
明和会病院は、駅の近くにある大きな総合病院だ。でも病室なんて山ほどあるから、病院名がわかっただけじゃどこにいるのかわからない。
階段から落ちた私はおそらく頭を打っている。それで意識不明と言う事は、脳外科の病室を探せばいいんだろうか。
もう少し詳しい情報が必要だけど、それ以上の事は家中を見て回ってもわからなかった。
リビングに戻ってくると、ぐちゃぐちゃになった部屋の中、涙ぐむお母さんの姿があった。その姿にきゅうっと胸が締め付けられる。
「お母さん、私、ここにいるよ。ねえ、気付いてよ……」
背中に寄り添って話しかけてみるけれど、お母さんは私を見てくれない。
混乱と不安で頭の中がぐるぐるする。どうしよう。どうしたらいいんだろう。
駅前からバスで三十分ほどかかる道のりも、幽霊の体なら早かった。
鳥のように空を飛ぶという感覚は、思った以上に爽快感があって楽しい。
しかし高揚した気持ちのままに付いた我が家は、どんよりと沈んでいた。
一人娘が亡くなったのだから、当然なのかもしれないが。
(暗っ……今日ってお母さんパートの日だったっけ? なんで誰も家にいないんだろ)
うちのお母さんは、お昼の二時くらいまで親戚の会社で働いている。普段は仕事が終わったら帰ってきて家事をするので、夜七時を回って留守にしているのは珍しい。
おかしいのはそれだけじゃなかった。家の中もなんだか荒れている。流しに汚れた食器が出しっぱなしだし、洗濯物はベランダに干しっぱなしだ。
郵便物も散らばってるし、几帳面なお母さんらしくない。
(なんか変。普通人が亡くなったら祭壇とか写真とか置かれるよねぇ)
部屋の中を見て回った私は首をかしげた。家中見て回ったがそれらしきものは一切なかった。
(もしかして私、大事にされてなかった……とか?)
いや、そんなまさか。
お父さんもお母さんも普通の人だ。入学式や誕生日など、節目節目のお祝いはちゃんとしてくれてたし、普通に愛されていた……と思う。だから私がいなくなって、二人ともきっと悲しんでいる、はず。
胸がどきどきした。この体は幽体で、血は通っていないはずなのに。
玄関の鍵を回す音が聞こえてきたのはその時だった。慌ててそちらに向かうと、帰ってきたのはお母さんだった。
「お母さん」
ダメ元で呼びかけてみるが、お母さんに私の姿は見えないようだ。
会ってないのはほんのわずかな期間のはずなのに、随分とやつれている。髪はぼさぼさだし顔はげっそりしているし、普段よりも十歳以上は老け込んで見えた。
お母さんは家の中に入ると、深いため息をつき、テレビの前のちゃぶ台に座り込んだ。
そして、いつも使っているカバンから手帳を取り出すと何か書き始めた。
それを後ろから覗き込んで、私は大きく目を見開いた。
10月7日(水)
今日も恵は起きない。意識不明になってから一週間、恵はこんこんと眠り続けている。
他に怪我はないはずなのにどうして起きないの? お願い、目を覚まして!
お母さんは手帳にそう書き込むと、悲痛な顔でうつむいた。
どういうこと? 私、生きてるの?
混乱しながらも私は考える。
幽体離脱、という言葉が頭の中に浮かんだ。
頭を打った拍子に体と魂が別れてしまったんだとしたら、私の体はいまどこにあるんだろう。
お母さんの様子を見た感じ、恐らくは病院。だけどどこに入院しているのかはわからない。
私はきょろきょろと辺りを見回した。何か、どこかにヒントになるものはないだろうか?
――あった。多分これだ。
ダイニングのテーブルの上。乱雑に散らばった郵便物と一緒に、病院のパンフレットが置かれている。
パンフレットの表紙には、『入院の手引き 明和会緑ヶ丘病院』と書かれていた。
明和会病院は、駅の近くにある大きな総合病院だ。でも病室なんて山ほどあるから、病院名がわかっただけじゃどこにいるのかわからない。
階段から落ちた私はおそらく頭を打っている。それで意識不明と言う事は、脳外科の病室を探せばいいんだろうか。
もう少し詳しい情報が必要だけど、それ以上の事は家中を見て回ってもわからなかった。
リビングに戻ってくると、ぐちゃぐちゃになった部屋の中、涙ぐむお母さんの姿があった。その姿にきゅうっと胸が締め付けられる。
「お母さん、私、ここにいるよ。ねえ、気付いてよ……」
背中に寄り添って話しかけてみるけれど、お母さんは私を見てくれない。
混乱と不安で頭の中がぐるぐるする。どうしよう。どうしたらいいんだろう。
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