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豊穣祈念祭 04
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ネージュはアリスティードに連れられて、隣の部屋へと移動した。
彼は、ネージュを室内にあった椅子に座らせると、低い声で尋ねてくる。
「腕を見せて下さい」
「…………」
アリスティードはじっとネージュの顔を窺ってきた。
言い逃れは出来そうになかったので、ネージュは渋々と神子装束の袖をまくった。
「あの野郎……」
ナゼールに掴まれた左腕には、くっきりと指の型が残っていた。
それを目撃したアリスティードは、険しい表情で吐き捨てる。
「痣ができやすい体質なだけなんです。すぐ治りますから……」
と発言すると、彼の眉間の皺はますます深くなった。
「助けて下さってありがとうございます。アリス様が来て下さらなかったら、今頃どうなっていたか……」
「俺は当然の事をしただけです。ネージュは俺の妻……ですし、大切にすると誓いましたから」
その言葉を聞いたら、ホッとして、視界が滲んだ。
「大丈夫ですか? いや、そんな訳ないですよね……」
アリスティードはネージュの涙に狼狽えた様子を見せると、ためらいがちに指先をこちらに伸ばしてきた。
その時である。元いた控え室の方向から、女性の悲鳴が上がった。
「ネージュ様っ! どこですか!? ネージュ様!!」
続いてドタバタという音と一緒に、切羽詰まった様子のミシェルの声が聞こえてきた。
そう言えば、市街地の状況を確認するように頼んだのをすっかり忘れていた。
ネージュは立ち上がろうとしたが、アリスティードに制された。
「俺が行ってきます。ネージュはここで待っていて下さい」
そう告げると、彼は控え室へと向かった。
◆ ◆ ◆
ミシェルと合流したネージュは、アリスティードの勧めで一足先に屋敷に帰る事になった。
ただでさえ疲れている彼にナゼールの処理を丸投げするのは心苦しかったが、手伝いを申し出ても叱られるのが目に見えていたので、ネージュは素直に従う。
ミシェルは、自分が席を外している間にネージュの身に起こった出来事を聞くと、我が事のように激怒して謝罪してきた。
「申し訳ありません、私がお傍を離れなければ……」
「いなくて良かったのよ。ミシェルがいたら、もしかしたら撃たれていたかもしれないもの……」
ナゼールの熱に浮かされたような顔と、『どんな手を使ってでも』という発言を思い出し、ネージュは震えた。
屋敷に戻り、ミシェルに手伝ってもらって就寝の準備をしたら、ようやく人心地ついた。
しかし、ベッドに入ったものの、気持ちが昂って眠れそうにない。
体はひどく疲れているのに、目を閉じると、ナゼールの顔が頭の中をちらついた。
あの男に触られたところが気持ち悪い。
ネージュは指の型が残る腕に触れた。
腕も、首も、バスルームで念入りに擦ったのに、まだ汚れが残っている気がする。
(…………)
やっぱり駄目だ。どうしても耐えられない。
ネージュは我慢できなくてベッドから抜け出した。
もう一度体を洗いたい。
だけど、こんな精神状態になっているなんて誰にも知られたくない。
特に、心配をかけてしまったミシェルには。
ネージュはため息をつくと、外の井戸に移動しようと思い、こっそりと部屋を抜け出した。
しかし、廊下に出た途端、アリスティードと出くわしたのだから運が悪い。
「ネージュ……? こんな時間にどうして……?」
「眠れなくて……」
本当の理由は言いたくなくて、ネージュは咄嗟に誤魔化した。
「アリス様こそ……」
「俺はついさっき屋敷に戻ってきたばっかりで……あっ、ネージュのせいではないので気にしないで下さい!」
アリスティードは慌てて弁解してきた。
寝間着にガウンという姿だが、彼の髪がまだ半乾きだった。直前まで入浴していて、部屋に戻る途中だったのかもしれない。
「気にするなと言われても、無理です……」
「では、労って頂けませんか? 頑張ったご褒美が欲しいです」
「ご褒美、ですか……?」
「はい。ただ、お疲れ様と言って頂けたら、それが俺にとってご褒美になります」
「えっと……遅くまでお疲れ様でした」
どうしてこんな言葉がご褒美になるのか、ネージュには全く理解できなかったが、そう告げると、アリスティードは嬉しそうに微笑んだ。
「……実は俺も疲れが限界を超えて、かえって目が冴えてしまって眠れそうにないんです。もし良かったら、少しだけ付き合って頂けませんか?」
私室に誘われるなんて初めてで、ネージュは目を見張る。
「あ……、嫌なら全然断ってくれていいです。疲れてるのはあなたも同じだと思うので……」
「……嫌だなんて! アリス様がいいのなら……」
どうせベッドに戻っても眠れない。
気を紛らわせたかったので、ネージュは彼の誘いに乗る事にした。
彼は、ネージュを室内にあった椅子に座らせると、低い声で尋ねてくる。
「腕を見せて下さい」
「…………」
アリスティードはじっとネージュの顔を窺ってきた。
言い逃れは出来そうになかったので、ネージュは渋々と神子装束の袖をまくった。
「あの野郎……」
ナゼールに掴まれた左腕には、くっきりと指の型が残っていた。
それを目撃したアリスティードは、険しい表情で吐き捨てる。
「痣ができやすい体質なだけなんです。すぐ治りますから……」
と発言すると、彼の眉間の皺はますます深くなった。
「助けて下さってありがとうございます。アリス様が来て下さらなかったら、今頃どうなっていたか……」
「俺は当然の事をしただけです。ネージュは俺の妻……ですし、大切にすると誓いましたから」
その言葉を聞いたら、ホッとして、視界が滲んだ。
「大丈夫ですか? いや、そんな訳ないですよね……」
アリスティードはネージュの涙に狼狽えた様子を見せると、ためらいがちに指先をこちらに伸ばしてきた。
その時である。元いた控え室の方向から、女性の悲鳴が上がった。
「ネージュ様っ! どこですか!? ネージュ様!!」
続いてドタバタという音と一緒に、切羽詰まった様子のミシェルの声が聞こえてきた。
そう言えば、市街地の状況を確認するように頼んだのをすっかり忘れていた。
ネージュは立ち上がろうとしたが、アリスティードに制された。
「俺が行ってきます。ネージュはここで待っていて下さい」
そう告げると、彼は控え室へと向かった。
◆ ◆ ◆
ミシェルと合流したネージュは、アリスティードの勧めで一足先に屋敷に帰る事になった。
ただでさえ疲れている彼にナゼールの処理を丸投げするのは心苦しかったが、手伝いを申し出ても叱られるのが目に見えていたので、ネージュは素直に従う。
ミシェルは、自分が席を外している間にネージュの身に起こった出来事を聞くと、我が事のように激怒して謝罪してきた。
「申し訳ありません、私がお傍を離れなければ……」
「いなくて良かったのよ。ミシェルがいたら、もしかしたら撃たれていたかもしれないもの……」
ナゼールの熱に浮かされたような顔と、『どんな手を使ってでも』という発言を思い出し、ネージュは震えた。
屋敷に戻り、ミシェルに手伝ってもらって就寝の準備をしたら、ようやく人心地ついた。
しかし、ベッドに入ったものの、気持ちが昂って眠れそうにない。
体はひどく疲れているのに、目を閉じると、ナゼールの顔が頭の中をちらついた。
あの男に触られたところが気持ち悪い。
ネージュは指の型が残る腕に触れた。
腕も、首も、バスルームで念入りに擦ったのに、まだ汚れが残っている気がする。
(…………)
やっぱり駄目だ。どうしても耐えられない。
ネージュは我慢できなくてベッドから抜け出した。
もう一度体を洗いたい。
だけど、こんな精神状態になっているなんて誰にも知られたくない。
特に、心配をかけてしまったミシェルには。
ネージュはため息をつくと、外の井戸に移動しようと思い、こっそりと部屋を抜け出した。
しかし、廊下に出た途端、アリスティードと出くわしたのだから運が悪い。
「ネージュ……? こんな時間にどうして……?」
「眠れなくて……」
本当の理由は言いたくなくて、ネージュは咄嗟に誤魔化した。
「アリス様こそ……」
「俺はついさっき屋敷に戻ってきたばっかりで……あっ、ネージュのせいではないので気にしないで下さい!」
アリスティードは慌てて弁解してきた。
寝間着にガウンという姿だが、彼の髪がまだ半乾きだった。直前まで入浴していて、部屋に戻る途中だったのかもしれない。
「気にするなと言われても、無理です……」
「では、労って頂けませんか? 頑張ったご褒美が欲しいです」
「ご褒美、ですか……?」
「はい。ただ、お疲れ様と言って頂けたら、それが俺にとってご褒美になります」
「えっと……遅くまでお疲れ様でした」
どうしてこんな言葉がご褒美になるのか、ネージュには全く理解できなかったが、そう告げると、アリスティードは嬉しそうに微笑んだ。
「……実は俺も疲れが限界を超えて、かえって目が冴えてしまって眠れそうにないんです。もし良かったら、少しだけ付き合って頂けませんか?」
私室に誘われるなんて初めてで、ネージュは目を見張る。
「あ……、嫌なら全然断ってくれていいです。疲れてるのはあなたも同じだと思うので……」
「……嫌だなんて! アリス様がいいのなら……」
どうせベッドに戻っても眠れない。
気を紛らわせたかったので、ネージュは彼の誘いに乗る事にした。
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