上 下
11 / 25
ハーク国

国王夫妻の葬儀

しおりを挟む
 バイオレットとキエトは葬儀屋へ向かっていた。
「こんな事になるなんて、まだ信じられないわ。デューン叔父さんは幼稚な人だったけれど、自分の思い通りにならないからってあそこまでするなんて。こんな小さな国で王族なんて何の意味もないわよ。少し大きい集団のリーダーっていうだけじゃない。
 お父さんの事も心配だわ。自分の両親にあんな事が出来る人間よ。もう島から出て行きたいわ。」
「バイオレット、外では何も言わない方が良い。誰がどこで聞いているか分からない、小さな島なんだから。
 この件では他の人を捲き込まない方が良い。」

 キエトがそういった時、ハンセナ夫妻が現れた。
「内密の話だったんだね、私達には聞こえてしまったけれど。デューンは一体何をやらかしたんですか。」
 キエトは困ったような申し訳なさそうな顔になる。
「申し訳ない、バイオレットが余計な事を行ってしまって。明日発表があるまで何も知らない方が良いと思う。
 この後、私達は妖精を助けるのに時間がかかると思う。ハンセナ夫妻には、デューンさんの側になって妖精の事を守ってあげて欲しい。」
「分かりました。キエト様、私達は妖精の側で守れるようにデューンの味方のふりをします。
 バイオレット様、ご存じのようにこの小さい島では気を付けないと、何でも筒抜けになってしまう。内密な話をする時は家に着くまで我慢する事をお勧めしますよ。」
「分かったわ。気を付けます。ありがとう、ハンセナ夫妻。」
 お辞儀をして去っていくハンセナ夫妻。バイオレット達は葬儀の準備と国王達の棺の用意を依頼すると国王達の家に戻る。

 バイオレット達が戻ってくると、俯いていたトークが顔を上げた。トークの表情は暗く目と鼻が真っ赤になっていた。トークの側に行き黙って抱きしめるバイオレット。
「お父さん、葬儀屋が棺や道具をもって後から来るわ。2人を綺麗にしてあげないくちゃ、お湯とタオルの準備をするわね。」
「じゃあ俺は掃除用具を持ってきます。」
「ありがとう、2人とも。この事は外には漏らさないようにな。突然の発作で急死した事にするから。」

 トークの言葉を聞いて申し訳なさそうな顔になったバイオレットは、先程のハンセナ夫妻とのやり取りを話した。
「そうか、キエト上手く対処してくれてありがとう。バイオレットだけではなく、俺達も今後は気を付けよう。俺達の不用意な言動で誰かが殺されるかもしれない。
 キエトとバイオレットは出来る限り早く逃げた方が良いと思う。あいつはバイオレットを未だに愛しているから、何をするか分からない。キエトに離婚するように迫るだけならいいが、最悪キエトを殺すかもしれない。
 自分の両親を殺したんだ、恋敵の命なんて気にも留めないだろう。葬儀が終わったらすぐに逃げる準備をしよう。」

 3人で話していると、葬儀屋が立派な棺を運んできた。国王夫妻のご遺体を見た葬儀屋は涙を流し黙禱する。涙をぬぐうと低い声でトーク達の方を見た。
「この度はご愁傷様です。お2人ともとても素晴らしい方達でした。本当に残念です。」
「ありがとう、ジャンさん。ジャンさんは両親の幼馴染でしたよね。この小さな国では皆が家族のように過ごしていたから、皆も知ったら悲しがるだろうな。両親は突然の発作で倒れてそのまま亡くなってしまったようです。見つけた時にはもう・・・・・・。 」
「分かっています。キエト様から棺の依頼を受けた時に嫌な予感がしたのですが、持ってきて良かった。」

 ジャンが棺を開けるといくつかの袋が入っていた。
「これは鑢がけの終わった木板です。こっちは船を作るための材料と道具。これは1人乗りの船の設計図。
 トーク様の家の中庭に、秘密の隠れ家があるのはご存知ですか。昔は国王と一緒にあの隠れ家で内緒で遊んでいたものです。2人とも勉強が嫌いでこっそり抜け出してさぼってましてね。」
 寂しそうに笑うジャン。
「案内します。誰にも見つからないうちに運びこみましょう。」
「ありがとう、なんてお礼を言ったらいいのか。」
「お礼なんていいんです、急ぎましょう。量が多いのでキエト様とバイオレット様3人で一緒に運ぶほうが良いでしょう。トーク様はここで王達と一緒にいてください。」

 皆頷くと、作業に取り掛かった。ジャン達3人で荷物を分担するとジャンが隠れ家にキエト達を案内する。その間にトークは両親達の葬儀の為に身形を整えていった。
 両親へ最後のお別れの言葉と今まで育ててくれた感謝の気持ちを伝え、必ず妖精は助けると誓ったトーク。

 ジャン達は荷物を隠れ家に運び終わると、湯や掃除道具を持ち戻ってきた。トークはジャンと一緒に王達を棺に納めると、2人で両親の棺を王族の葬儀場所へと運んでいく。キエト達が葬儀場所へくるまでジャンはトークに付き添ってくれていた。
「時間が無い、すぐに船を作ろう。2人は先に逃げてくれ。ドロン国に着いたら、移住手続きの事を理由にしてバイオレットが代理として手続きに来たと言えば良い。国の加入手続きだから代表のオウコ殿に会えるはずだ。オウコ殿は妖精国の王と友人だと言われているからね、彼に全てを話して力になって貰って欲しい。
 デューンは逃げる時は3人一緒だと思っているだろうから、私は残る。
 隙があったら妖精を助け出したいしね。」

 トークの言葉を聞いてトークが危険だと大反対した2人。
「心配しなくて大丈夫だ。唯一の肉親になった俺を殺すとさすがに国民が不安になって逃げだそうとするものが出る。それをさせないためにもデューンは俺を生かすだろう。バイオレットを連れ戻す為の人質にもなるしな。
 とにかく今急いで逃げなきゃいけないのはキエト達なんだよ。キエトは命の危険があるし、バイオレットは脅されて結婚させられる可能性がある。」
 反対していたがバイオレット達だったが、トークの最後の言葉を聞いて2人とも先に逃げる事を決意した。

 翌日、デューンは国民達を広場に集めた。王と王妃が突然の発作により昨夜亡くなった事、これから葬儀場に移動して葬儀を始めると伝えると国民が悲痛な表情になる。国民の泣き声や悲しみの言葉が聞こえる中、泣きはらした顔のトーク達と喜びが隠しきれていない顔のデューンを先頭に皆で葬儀場へと歩いて行く。
 皆、大好きだった王と王妃の死を嘆き悲しんでいる。愛されていた国王夫妻の葬儀を終え、周囲の空気は悲しみに包まれ国王夫妻の急逝を痛む声が聞こえていた。

 デューンは苛立っていた。この後は自分の即位式になるというのに誰も国王夫妻の棺の前から動こうとしないし国民の雰囲気も暗く重い。デューンは苛々した声で葬儀場を閉めるので外に出るように言う。国民達が外に出ると、次は新しい王の即位式をやるので広場に集まるようにと言って場所を移動させた。
「全く、これから俺の即位式だっていうのに雰囲気が暗いな。まあ、妖精の事を話して魔法を見せたら歓喜の声を上げるだろう、それまで我慢しなきゃな。」
 その言葉を聞いていたトーク達は、何も言わずに出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸
ファンタジー
強さが求められる一族に産まれた主人公は、その源となる魔力が無いがゆえに過酷な扱いを受けてきた。 12才になる直前、主人公は実の父によってある人間に身柄を受け渡される。 その者は、主人公の魔力無しという特殊なところに興味を持った、ある施設の人間だった。 連れて行かれた先は、人を人として扱うことのないマッドサイエンティストが集まる研究施設で、あらゆる生物を使った実験を行っていた。 主人公も度重なる人体実験によって、人としての原型がなくなるまで使い潰された。 実験によって、とうとう肉体に限界が来た主人公は、使い物にならなくなったと理由でゴミを捨てるように処理場へと放られる。 醜い姿で動くこともままならない主人公は、このような姿にされたことに憤怒し、何としても生き残ることを誓う。 全ては研究所や、一族への復讐を行うために……。 ※カクヨム、ノベルバ、小説家になろうにも投稿しています。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

処理中です...