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レオンの街案内

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  家に着くと早速、オリに報告する2人。
「良い家が見つかって良かったな。それに不動産屋のレオンさんも親切で頼りになりそうだし。」
「そうなのよ、両隣のお店も美味しいし、見る所もいっぱいありそうね。
ランがいるんだから、私達も泊まりに行けるわよ。久しぶりじゃない、2人きりで泊りがけって。」
 それを聞いてオリはランの家に泊まるんだと思った。
「泊りになんて言ったら、ランの負担になるだろう。宿があるんだから2人で宿に泊まればいいじゃないか。」
「何言ってるの、2人きりって言ったじゃないの。ランの所じゃないわよ、2人きりになれる場所よ。
これからは家でも2人だけど、旅先だと普段と違うからロマンティックな気分になるでしょ。」
 2人を連呼するアイと顔が赤くなるオリ。ランはからかうような目でオリを見た。
「街になれたら呼ぶから、2人で、遊びに来てね。ロマンティックなレストランとか探しておくわ。」

 笑って荷物の片付けを始めたアイとラン。オリは赤い顔のまま夕食を並べていく。片付けも終わり皆で夕食の席に着いた。
「ランとこうやって食べるのも当分出来ないとなると寂しくなるわね。
あっ失敗したわ。可愛い食器を見るのを忘れたちゃった。アップルパイで頭の中から食器が吹っ飛んだのよ。1個覚えたから1個忘れちゃったんだわ。」
 悔しそうなアイを見てランが励ます。
「大丈夫よ、私も忘れたからがっかりしないで。次来た時にゆっくりお父さんと選べばいいじゃない。その方が楽しいわよ。お母さん。」
「それもそうね。でもラン、ランも忘れちゃったなんて若いのに可哀想ね。
それで、ランは明日は何時に出発するんだっけ。」
 ランは笑顔だが唇の端がピクピク動いている。声も若干低くなった。
「7時半頃かな、その時間の馬車に乗っていくから。今夜荷造りしなきゃいけないわ。」
「まあ、忘れ物があったらまた直ぐ取りにくればいいさ。」
「最初すぐに食べ物買えるか分からないから、ナッツ系とか食べ物を持っていった方が良いわよ。」
「うん。簡単に食べられるドライフルーツと飲み物を用意してある。ナッツでも良かったわね。
お父さんご飯美味しかったよ。ご馳走さまでした。」
「ああ、疲れたろうから後でココアを持っていくよ。」
「ありがとう。お父さん。」

 夕飯の後は荷造りだ。2つの鞄ぱんぱんに詰め込むと、貴重品等をバックに入れる。
支度を終えるとランは、両親へのプレゼント小物入れをもって居間に行く。
「あら、もう終わったの。早かったのね。」
「うん、持っていくものは決まっていたから入れるだけだったの。」
「ココア、ちょうどできたよ。」

 オリがランのココアを机の上に置く。ランは2人に座るように言うと、小物入れを渡した。
「この前【ロッキ】に行った時に買ってきたの。家を出るし就職も決まったし、今迄の感謝の気持ちとして何か2人に贈りたかったの。」
「ありがとう。ラン。とても素敵な小物入れね。嬉しいわ、大切に使わせてもらうわ。」
「アイと色違いなんだな。素敵な物をありがとう、ラン。私達からもランにプレゼントがあるんだ。」
 オリが箱を渡す。ランが開けると素敵なパールのネックレスがあった。
「とても綺麗。上品で可愛らしいネックレスね、大切に使うわ。ありがとう。お父さん、お母さん。」
 皆嬉しそうに笑っている。3人は暫く一緒に過ごすした後、部屋へ戻っていった。

 アイとオリが感慨深げに話している。
「ランも大きくなったわね。もう就職して家を出るなんて。少し寂しくなるわね。」
「そうだなあ。寂しいけれど嬉しくもあるな。ここまで無事に育ってくれて。」
「ええ。明日も早いからそろそろ寝ましょう。おやすみ、オリ。」
「おやすみ、アイ。」

 翌朝早く起きると、皆で朝食を食べて馬車乗り場まに向かう。カナとイオリも見送りに来ていた。
「皆来てくれてありがとう。何かあったら知らせてよ、近いんだからすぐ帰ってくるわ。」
「ランも気を付けるのよ。頑張りすぎないで楽しんで。お父さんと遊びに行くわ。」
「そうだぞ、ちゃんとご飯を食べるんだよ。外食ばかりだと体に良くないし、たまには家に帰っておいで。」
「これ、私とイオリから。馬車の中で開けてみてね。元気で、ラン。また会いましょう。」
「気に入ってくれたら嬉しいな。頑張れよ、ラン。またな。」
「皆元気でね、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
 笑顔で手を振るラン。ランの乗った馬車は【カンメ】へと向かった。

 【カンメ】から乗り換えて【ロッキ】に到着したラン。昨日は興奮してほとんど眠れなかった為、馬車の中はカナ達から貰ったプレゼントを開けることも忘れぐっすり眠っていた。
 まだ少し寝ぼけているが、昨日レオンから貰った鍵を持ち家へ向かおうとした時、レオンがこちらに向かってくるのが見えた。その瞬間目が覚めたラン。今更だがレオンがイケメンな事に気が付いた。
「おはようございます。引っ越し初日は荷物が多いでしょうから、手伝いに来ました。」
「おはようございます。助かります、ありがとうございます。」
 サッとランの荷物をもってくれるレオン。
「じゃあ、行きましょうか。」
 2人とも家に向かいながら、今日行きたい所や買う物等の予定を相談しながら決めていく。家へ着くと、荷物を置いてすぐに出かけた。

「じゃあ最初は、軽いものから行きましょうか。」
「はい、今日買いたいのは食器を1セットとお布団にカーテン、後は簡単な料理道具と食料ですね。」
「まずは布団を見に行きましょう。買うと近隣なら無料で配達してくれるんですよ。
その店の隣に、料理道具の基本セットが買えるところがあるので、次はそこに行ってみましょうか。」
「はい、よろしくお願いします。」

 レオンはこの道は夜は人通りが減るから危険とか、ここの食堂は安くて美味しいとか、町の事を色々教えてくれる。店主が顔を出している時には、ランを紹介しながら歩いて行く。
 布団のお店に着くと、声をかけながらランを連れて中へと入った。
「ここが布団とかが置いてあるお店です。店主のカールはこの辺りの商店の組合の理事会員でもあるんですよ。商店とトラブルがあった時には相談にのってくれますよ。
 カール、お客様を案内してきたよ。新しく住むことになったホムラさんだよ。」
「おはようございます。レオンさん、ホムラさん。カール・ゼブラです。よろしくお願いします。
この辺りの商店の組合の理事もしています。何かございましたらいつでも仰ってください。」
「おはようございます、ゼブラさん。これからよろしくお願いします。」
「今日は布団を探しに来たんだよ。配達もお願いできたよね。」
「勿論、ホムラさんこちらへどうぞ。」
 カールに案内してもらい布団を決める。欲しい色は決めていたのでサイズを確認すると即購入した。
「配達は15時頃で大丈夫だと思うけど、午後という事で細かい時間は後で連絡しても良いかな。13時過ぎに連絡するのはどう。」
「それで大丈夫だよ。隣でも買うんならそれも一緒に運ぶから、アレクに話しておいてくれ。」
「重くてかさばるから助かるよ。カールありがとう。」
「助かります、ありがとうございました。」
 お礼を言うと隣に行って料理セットを買う。アレクに先程の件を伝えると、商品をカールに持って行ってくれることになった。
 その後は、ニーナお勧めの食器店や日用雑貨で必要な物を買っていく。今日は買う物は決まっているので、ランはパッと見て即決で買っていく。
 その様子を見ていたレオンがランに話しかける。
「ランさんは結構即決でなんですね。キークはよくニーナの買い物は長すぎるってこぼしてます。」
「今日は買うものは決まっていますし悩む事はないので即決なんです。決まってない時なんて、迷いまくっちゃって2、3時間はかかると思います。」
「そうんなに・・・・・・。 それは大変そうです。」
「そうでもないんですよ。色々な物を見ているだけでとても楽しいんです。」
 表情が嬉しそうにキラキラとしているラン。いつの間にか横に来た店員も話に加わる。
「分かります。好きな物とか見ているだけでも楽しいですよね。」
「はい、私カフェとかでメニューを見て考えている時も楽しいんです。」
「私もです。ご存知ですか、大通りにあるカフェに、新作のチョコパフェが出たんです。
とろけるチョコクリームとアイスが最高なんですって。」
「良い事を聞きました。私今度行ってみます。ありがとうございます。」
 店員と2人で盛り上がり、レオンが商品を受け取ると手を振って別れた。
「思ったよりも早く買い物が終わりそうですね。最後は食料品店ですね。カールに電話して15時頃に運んで貰うという事で良いですか。」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
「いえいえ。買い物が終わったら、カフェに昼食を食べに行きましょうか。カフェならデザートで先程話していたパフェも食べられますよ。」
「良いんですか、ありがとうございます。楽しみです。」
 満面の笑顔になって急いで食料品店に向かうランを見て、優しく微笑みながらレオンはランの後を追った。
 食料品店での買い物を終えて一度自宅に荷物を置くとお昼を過ぎた頃だった。
「ちょうどお昼の時間ですね。レオンさん、カフェ混んでませんか。」
「大丈夫だと思いますよ。カフェ以外にも食べる所はありますし、15時頃の方が混んでいると思います。
どのみち食事をするところは、殆んど1ヶ所に集まっているので混んでいたら他の店でも良いし、その時考えましょうか。」

 2人ともカフェに向かって歩き出した。
「そういえば、当店の隣にも喫茶店があるんですよ。」
「知ってます。昨日母と一緒に軽食を食べて帰りました。とても美味しいしお手頃価格なお店ですね。」
「そうなんです。お店の店主も優しい人なんですよ。可愛い妖精って看板につられて来るような奴らには怖いんですけどね。」
「ああ、そうだったんですね。私達てっきり、おじ様が可愛い妖精なんだという意味で書いた看板だと思ってました。目が合ったらウインクして下さったし。」
 吹き出して大笑いするレオン。 レオンがなんとか笑いを抑えた時には、笑いすぎて息切れしていた。2人の周りを歩いていた人は、笑うのを我慢しているのか顔を赤くして足早に去っていった。
 つまり店主自ら可愛い妖精と言っている変わった店だと思ったが、偏見など持たずに接したという事だ。
笑い終わったレオンは、感心したような表情になっていた。
 一方笑われたランは、自分達の勘違いに赤面していた。
「すみません。笑いすぎました。なるほど、お2人が良い人達だという事が分かりました。
大丈夫ですよ。この話が広がってもあの人は怒ったりせずに笑うと思います。彼も良い人なんですから。」
「それは良かったです。」
 少しむくれた顔のランを見て、焦ったレオンは昼食はご馳走する事を約束した。
カフェについてメニューを見た途端、あっさりと笑顔に戻ったラン。その顔を眺めながらレオンも楽しそうに見つめている。
 2人とも注文を終えると、レオンが他の買出しはいつにするのか聞いてくる。
「今度のお休みの日に行くつもりです。後はテーブルクロスとか可愛い食器とかを増やそうと思っています。
今日連れて行ってもらったお店も素敵でした。ニーナさんにお礼を伝えておいてくださいね。」
「分かりました。ニーナ喜びますよ。」

 料理がきて2人で食事をしながら話していると、店内の何人かの女性客がレオンに挨拶をして去っていく。レオンが説明してくれた。
「皆母の知り合いなんですよ。私の母は元治安維持部隊隊長なんですけど、引退した今は無料で護身術の教室をやっているんです。
 週に4回ほどですが、各々に合った簡単な護身術を教えています。
ランさんもやってみますか。1人暮らしになりますし、習っていると安心かもしれません。」
「素敵なお母様ですね。せっかくなので私も習いたいです。」
「母に伝えてランさんに連絡しますね。お昼はこちらで用意するので大丈夫ですよ。買出しはどうしますか。」
「買出しは翌日にします。護身術の件、よろしくお願いします。」

 そこにデザートの”チョコパフェ”が登場する。
「お、チョコパフェが来ましたね。結構大きいですね。」
「美味しそうですねえ。レオンさんはパフェ注文しなくて良かったんですか。」
「はい、大丈夫です。どうぞ気にせず食べてください。」
 そう言われると嬉しそうに頷いてパクパクとパフェを食べていく。
時々、”このトッロッとした感じが”とか”ムフフ”とか小声で呟いているラン。周囲は最初チラッとランを見たものの、デレっとしたランの表情を見て目をそらす。そしてランにつられたのかチョコパフェを注文していた。
 そんなランを見ていたレオンが小声でつぶやいていた。
「本当に嬉しそうに食べるんだな。一緒に食事をすると私まで何だか嬉しい気持ちになるな。
自分の作ったものを、こんなふうに嬉しそうに食べてくれる人は良いよな。」
 レオンの呟き等、パフェに夢中のランには聞こえていなかった。

 満足した表情のランと一緒に、店を出る2人。財務大臣のケイ・タッカーが馬車乗り場の方へ向かっていくのを見る。
「あ、今タッカーさんが通っていきましたよね。馬車乗り場に向かってますけどお出かけかしら。」
「そうですね、休日ですし国に帰るのかもしれませんね。」
「いやいや、違うんですよ。レオンさん。ケイさんには事情があるんです。」
 振り返ると、綺麗な女性が立っていた。
「これは、珍しいですね。彼女は吸血族代表者の1人ドナ・ブレッドさんです。
吸血族と幽霊族の方はあまり国からは出ないんですよ。月に1度の定例会議しか【ロッキ】の首都には来ません。
 彼女はこちらに来たばかりの人間のラン・ホムラさんです。」
 互いに挨拶をすると、ドナが2人に説明する。
「今日は臨時会議で、悪魔国への支援について話し合いだったんです。」
 事情が分からなそうなランにレオンが簡単に説明する。
「悪魔国は今年、農作物の収穫量が減少していてその支援を【ロッキ】に申請しているんです。
各国からどの位の量を送るか、金額はどうするか、悪魔国が払うのかそれとも【ロッキ】のお金で払うのかでもめているんですよ。
 ところで、タッカーさんの事情とは、何かあったんですか。」
 ドナが、少し長くなると断ったうえで事情を話す。
「吸血鬼はごく稀に免疫の弱い子が生まれるんです。免疫が弱くて寿命も人間の半分位しか生きれない原因不明で特効薬もない病なんです。
 今5人この病にかかっているんですけれど、ケイさんの恋人がその1人なんです。彼は休日になると必ず彼女に会いに行っているんです。
 彼は多額の私費を治療薬の研究に寄付してくれていて、でもまだ薬の開発は全然進んでいないんです。」
 レオンがとても驚いた顔をしている。
「そうだったんですか、それはタッカーさんも辛いですね。我々が知らないという事は、ご本人は周囲に知られたくないのでしょう。私達は聞かなかった事にするのが良いと思います。」
「それもそうですね、私ったら。この話は聞かなかった事にして下さい。」
 ドナの言葉に頷いた2人は、挨拶をして別れるとランの家に向かっていった。

 家に着くと、レオンがタッカーの事をランに話し出す。
「仕事が始まると同じ部署の職員から聞くと思うからその前に話しておくよ。
 タッカーさんの事だけど、今財務部長のアロイさんと付き合っているんだ。城の中での会話って筒抜けでね、結構あちこちに話がもれるんだよ。彼らの場合裏庭や人気のない廊下で愛を囁くものだから皆に広まっちゃっているんだ。
 アロイさんはなんて言うか優秀なんだけど恋愛には純真な感じで、タッカーさんの事情は知らないと思う。浮気や不倫は毛嫌いしているから、知っていたら別れると思うんだ。
 城の人達もタッカーさんの事情は知らないと思うから、彼らからタッカーさんとアロイさんの関係について聞いたら、今初めて聞いたようなふりをして欲しいんだ。」
「個人的な事ですし、部外者が口を出していい事ではないと思うので、この話を誰かに伝えるつもりはありません。ただ、タッカーさんはどういうつもりなのかとは思いますけれど。」
「何かありそうですね。トラブルにならないと良いですけれど。」

 レオンと話しながら待っていると、カールが布団と料理セットを配達に来てくれた。カールとレオンにお礼を言って2人が帰るのを見送ったラン。1人でぶつぶつ言いながら部屋を整えていく。
「働く前から職場での複雑な状態を知るなんて。何も起こらないと良いんだけど。
職場の人間関係は複雑そうだし、職場以外で新しい友達ができるように頑張ろう。
 さっきの話はいったん忘れちゃうのが良いわね。どこでも色々あるものなのね。」 
ランは、納得すると明日の準備を進めていった。


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