怠惰の魔王

sasina

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5.怠惰の魔王やってます

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 あ、そうそう、さっきの討伐隊が言ったセリフで「俺達勇者が魔王を倒すんだ!」って戯言だけど。

 聞いた感じ飛んだ勘違い野郎だと思うが1つだけ正しい事があった。

 それは、俺達家族が魔王だって事だ。

 勿論、自分達から魔王だって名乗った訳じゃないよ?

 人類でいう英雄級といった称号のようなもので、大体の強さを表している。

 トリシアだったら公爵級魔族で、俺や兄弟は魔王、カラミタ母さんが大魔王って事になっている。

 まあ、大魔王って言うにはカラミタ母さんが勝手に言っているだけで、俺は本当はもっと違う称号があると思っているけどね。
 カラミタ母さんが、言いたくないのなら聞かないけど。

 ついでに、魔王って言っても個性がある。
 カラミタ母さんは罪を司る魔人で、その眷族たる俺たち兄弟はそれぞれの大罪を司っている。

 上から
 アラン兄さんが憤怒
 ルシア姉さんが傲慢
 グラド兄さんが暴食
 レヴィア姉さんが嫉妬
 ベルこと俺が怠惰
 クリーナが強欲
 ラリアが色欲
 をそれぞれ司っており、その罪に応じて魔力が変質して人格にまで影響を及ぼしている。

 怠惰の魔王になる前の俺は確かにスレた感じの子供だったが、それでも人並みに好奇心や成長欲があり普通に暮らしていた。

 そんな俺が怠惰の魔王になってから、基本的に怠く面倒くさがりになった気がする。動きたくない働きたくない。

 今日の戦闘にしたって、普通に戦った方が魔力効率が良いのに、怠惰の力であるオート系の能力を使って魔物を始末していた。

 まあ、怠惰の魔王になっていなかったら、どの道死んでいたので生きていたいのなら選択肢は無かったんだけどね。

 それに怠惰の魔王になって良かった事もある。怠惰の力の中には【転移】や【転送】と言った便利な能力もあるので、それは本当に良かったと思っている。

 この【転移】があるお陰で行ったことのある場所なら何処でも瞬時に行けるので、移動する上で物凄く便利。

 まあ、行った事があるって言っても、地球への転移は魔力が足りないのか。そもそも世界間の転移は不可能なのか、地球への転移は無理だった。

 例え地球に帰ったとしても居場所があるのかも分からないけど。行方不明、それも10年も行方不明ならもう死んだ事になっているかもしれないな。

 どうせなら、家族に戻れないとしても遠くから一目でも母さんと姉さんを見たかったが帰れないものはしょうがない。
 母さんはシングルマザーだったけど、良い人でも見つけて再婚出来ただろうか? 10年経っているって事は姉さんは25歳でとっくに成人しているね。

 俺の容姿はこのイデアでは美形らしいけど地球ではどうだろう? 

 俺が地球でも美形だったら姉さんも美人って事になる。彼氏とかも居るんだろうか? もしかして結婚とかもしちゃってたりするのかな?

 俺は魔力が魔王になるぐらいあるので寿命は最低でも数千年はあるだろうが、母さん達の寿命は俺に比べ短すぎる。

 これから、長い時を刻めば忘れてしまうのかもしれない。
 でも俺の心にある地球にいる家族を想う気持ちがあれば忘れる事は無いと思いたい。

 家族を想う心を抱え込むのは苦しい。もう会えないと分かっているのに考えるのは辛い。忘れてしまえば楽になるのかもしれない。

 でも、俺は辛く苦しい思いをする事になったとしても、今は唯忘れてしまうまでは家族を想っていたい。



ーーー



「ん、寝ていたのか」

 今日は大した事をやってないので、疲れてはいない筈なんだがな。

 しかし、異世界転移してから丁度10年経った今日だからか、めっちゃ恥ずかしい独り言を言ってしまったな。
 トリシアに聞かれたら屋敷の2階の窓から飛び降りていたかもしれない。傷一つ付かないが。

 確かにその通りで今でも家族の事はそう想っているけど! 別に涙を流したり決意を固めたりしなくても良くないか? いや、泣いてないよ!

 元々、異世界転移が出来ないと分かったその瞬間からそんな事はとっくに決まっていた筈だ。

「あー、やめだやめ。終わってしまった事はしょうがない。また10年後に同じ事をしなければ良いだけの話だ」

 俺はそう独り言を言って寝起きの身体を椅子に座りながら伸ばした。







 暫くボーッとしていようと思っていた時に、それは起きた。

 イデアの世界中に届いたと思えるような、ガラスの砕け散る様な甲高い音が響き渡る。

「っ!」

 上から聞こえたって事は、空か!

 何が起こっているんだ?

 昔、アラン兄さんとルシア姉さんの兄妹喧嘩が起こった時に、カラミタ母さんが止めに入って放った攻撃で空間が割れた時の音とよく似ているが、さっきの音をそんな比じゃなかった。

 ついでに、その時の兄妹喧嘩はカラミタ母さんが喧嘩両成敗して、両方ともボロ雑巾のようになっていた。

 ん?周囲の魔力濃度が急激に低くなっている!

「音の次は、大気魔力かよ」

 魔力濃度はそのままドンドン下がっていっていく。

収納ストレージ

 このままだと危険だと思い。空中に現れた黒い空間の手を入れ、装飾されたゴルフボール大の宝石の様な眼球を取り出す。

「[グルーンの瞳]発動」

 この魔導具の効果は周囲一帯の大気中の魔力を吸収して、魔力の無い状態の魔真空を作り出すと言うもの、勿論吸収した魔力は魔道具の使用者が使う事が出来る。

 そして、今回は周囲一帯なんて言わずに、[グルーンの瞳]の限界まで魔力を吸収する。

 もしかしたら、俺の領域全域の大気中の魔力を吸収してしまうかもしれないが。

「まあ、これで一先ず大丈夫かな?」

 
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