怠惰の魔王

sasina

文字の大きさ
上 下
2 / 33

2.ボランティアしてます

しおりを挟む


 これから向かうのは俺の自宅兼仕事場だ。

 今居る屋敷はカラミタ母さんの屋敷で言わば実家みたいなものかな。

 俺はこの世界イデアで学校に通っていない、だからと言って家でニートしている訳でもない。

 家族になったとは言え、今の俺は側から見れば唯の居候と言えなくもないからな。いや数年前までは実際に居候だと強く思っていた。
 そんな俺が一方的に世話になり続けるのを苦痛に思い、俺もカラミタ母さんがやっている仕事を手伝う事にした訳だ。

 まあ、内容は仕事と言うよりは無償のボランティアと言った方が正しいのかもしれない。

「さて、俺もボランティアをしに行くか」

転移テレポート



ーーー



「よっと」

 転移魔法を使って、俺の担当している領域に到着した。

 わざわざ外に出てから転移魔法を使ったのは、カラミタ母さんの屋敷内では強力な魔力結界が施されていて生半可な魔力量では魔法を使う事が出来ないからだ。

 まあ、それでもやろうと思えば屋敷の中からでも転移は出来るけど、魔力消費が増大して怠くなるのでわざわざ一旦外に出てからここに【転移テレポート】した訳だ。

 そう言えば、今更だがこの世界イデアにはステータスこそ無いが俗に言う剣と魔法の世界で、地球とは違い数こそが力では無く、圧倒的な個こそが戦いの命運を分ける様な世界だ。

 まあ、それでも地球と似た様なものもある。
 イデアでは魔法兵器と呼ばれ、英雄の力に匹敵する破壊力を持っている兵器がある。
 地球の様な数はあまり無いが威力だけなら真似出来ない核以上の物もあるらしい。俺は見た事ないけど。

 それでも、7歳児がテレビニュースなどで見聞きした記憶をネットで検索するかの様に魔力で脳にアクセスして引き出した情報を元に考えているだけなので、実はそこまで正確な事は言えないんだけどね。

 話はこのくらいにして仕事を始めようか。

 と言っても、俺の仕事は消防士の様に何かが起こるまでは待機しているしかする事無いんだけど。
 訓練もする必要も俺にはないしね

 そんな訳で、今日も休憩所と言う名の俺の自宅(怠惰の館)の書斎で本を読んで暇な時間を過ごす。



ーーー



 暫くの間、書斎で寛ぎながら本を読んでいると扉がノックされた。

「どうぞ」

「失礼します、ベル様」

 そう言って扉から入ってきたのは、執事姿を着た白く長い髪を後ろで一房にまとめている女性だった。

 こういうのを男装の麗人って言うんだっけ?
 あ、一応言っておくと、この格好は俺の趣味じゃなくて本人の意思だからね。

「シア、仕事か?」

「いえ、一応来ているか確認しに来ただけです、ベル様は遅れて来る事が結構ありますからね」

 彼女はトリシアと言う名前で、五年前に魔力溜まりから生まれた魔族だ。

 その時、森に一人で居たトリシアを見つけた俺は10年前の異世界転移したばかりの頃の自分と重なって見えたので拾って帰り養っていたら、5年で逆に俺が養われそうなぐらいに立派に成長して今は俺の部下って事になっている。

「今日は俺の誕生日で早起きをさせられたからね、カラミタ母さんに」

 なんで祝われている筈の俺が、怠いのに無理矢理起こされなければいかないんだろうか?
 まあ、カラミタ母さんだししょうがないか。

「そう言えばそうでしたね、お誕生日おめでとうございます」

「はいはい、ありがとう、シア」

 トリシアは相変わらず無表情だな。
 折角の美人なのに勿体無い、そんな事では彼氏の1人も作れないぞ。まあ、まだ5歳児なんだけどね。
 彼氏はまだ早いか。主人である俺もまだなのにな。

「それでは、失礼します」

 トリシアはそう言って書斎から出ていった。

ーーー

 さて、トリシアも出ていった事だし、魔族について説明しておこうか

 魔族には、3種類ある。

 1つ目は魔物が長い年月をかけ、知識と理性を手に入れた魔族。

 2つ目は魔力溜まりと呼ばれている文字通り魔力が多く溜まっている場所から自然発生する魔族。
 まあ、この自然発生で魔族が生まれる確率はかなり低く、魔力溜まりから生まれるその殆どが魔物だ。

 トリシアもこの自然発生の魔族だね。

 そして、3つ目は人から魔族になる例だ。
 人種でも、ごく稀に生まれながら莫大な魔力を持って生まれてくる者がいる。基本的にそう言った子は10歳になるまでにその莫大な魔力に耐えきれなくなり死ぬ。
 まあ、偶に魔力に適応して死なない奴も居るらしいけど普通はほぼ助からない。

 そして魔力に適応すると言う奇跡以外に、その死の運命を回避する方法の一つがの眷属となりその莫大な魔力を変質させ安定させる事だ。

 実は俺もその口で、現在は魔族の上位存在である魔人になっている。

 10年前の異世界転移でカラミタ母さんに出逢ったのは偶然ではなかったらしい。
 自分では分からなかったが、あの時俺は莫大な魔力を放っており、ついでにその所為で死にそうだった処をカラミタ母さんの眷属になる事で助けられたらしい。

 まあ、魔人になったとしても見た目が変わる訳では無い。魔力の性質が変わるのと、少し身体が丈夫になるだけだ。
 それと性格も少し変わるかもしれない。

 俺は人間を人族をやめたかもしれないけど、後悔はしていない。どの道、異世界人の俺がイデアの人族と同じとはとても思えなかったしね。

 俺は魔人になった時の事を思い出しながらも、読書を続けて仕事が来るまでゆっくりと寛いでいる事した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...