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恋に恋され愛に愛されない 〜理想の高い完璧イケメンの運命〜
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「いったい俺は幾つ恋をしてきただろうか?」
俺は小学生から中学生までにさまざまな恋愛を何度もしてきた。だがその恋愛が長続きすることはなかった。全ての恋愛は「相手を好きになれなず破局」、「時期が悪く自然消滅」のどちらかに当てはまる。運が悪いと言えばそれまでだが、それ以外のことであれば…。
目覚ましの音楽に起こされいつも通り身支度を始める。何一つ変わらない日常。学校に行けば何か変化があるのか。僅かな希望を胸に高校の入学式へと歩みを進める。
俺が通うことになったのは県内トップの進学校。進学先のほとんどは旧帝大、中には海外へ進学する者もいる。そんな高校に俺は若干の期待をしている。当然、教養を深め一ステップ上の暮らしをするための第一歩としての。だが他の期待も存在する。
それは過去の恋愛と決別できるかもしれないということだ。今までは環境が悪く自分に似たスケジューリング、自分に近い価値観の人がいなかった、そのために恋愛がうまくいかなかった、そう思っている。
校門を越え校舎に入り教室に足を踏み入れる。中学までのような視線は感じない。生徒のほとんどは机に広げた塾の教材などに目を通すか近くの席の人と友好関係を築いている。
俺の中ではまずまずの感触だ。注目される存在としての恋愛ではなく、どこにでもいる一高校生としての恋愛をしてみたかった。それによって何かが変わると思っているからだ。
その後入学式を終え教室に戻り軽く自己紹介をすることとなる。俺の番になったその時、クラスメイトの視線が初めて俺に集まる。俺は願う。ただひたすらに願う。ただの男子高校生として認識されることを。ここで浮いてしまえば今までと何一つ変わらない生活になってしまう。そう考えながらあっという間に自己紹介を終え教材の配布なども終わり帰路に着く。
そして願いが通じたのか翌日以降、俺に対する告白はない。そうあの日が来るまでは。
時は流れ二月十四日、バレンタインデーがやってくる。入学式以降普通の高校生として、クラスメイトとは男女関係なく仲良くしてきた。体育祭、文化祭は全員で協力して絆を深めた。その流れで訪れる恋愛イベント全男子が期待する一日。俺もこの日に限っては告白もウェルカムだ。逆に告白が一つもなければ高校生活で恋愛がなくなると言っても過言ではないと思う。これまでの恋愛のせいで異常なまでの自信がついてしまっていた。
普段なら俺は登校順は真ん中くらいだが今日は俺が最後であった。一応女子が渡しやすいようにいつもより二〇分ほど早く家を出たがそれでも遅かった。だが違和感はそんなことではなかった。いつもより男子からの俺への視線は感じるし女子は険悪なムードだし…。俺は登校順が遅かったことに気を取られていたが一瞬で理解した。それと同時に
(あっ、どうすべきだ?)
と悩んだ頭を無理矢理フル回転させる。
今まで告白などのタイミングはバラバラであったし、女子も対抗馬が多すぎて叶わぬ恋として認識していたためバレンタインに困ることはなかった。そのため初の体験に今までの経験値が意味を成さなくなる。
そして自席に座り机の中に手を入れる。中にはインフルエンザで休んだ生徒のプリント数と張り合えるくらいの封筒がある。まず枚数を確認する。クラスの女子は二〇人、封筒は…二十七枚。中には少し変わった封筒や紙だけのものもある。俺は対応に困る。二〇枚であればクラスメイト全員として考えられるが、他クラスからも送られたのが確定した。クラスメイトだけであれば一人一人話しかけることで放課後に告白の渋滞になることは避けられる。だが他クラスは違う。放課後までに会いに行けば誤解されてしまう可能性がある。とはいえ、放課後に他クラスの生徒を待たせるのも申し訳ない。色々考えながらもまず封筒を開ける作業から始める。全て目を通してわかったことは一つ。全員への対応が非常に困難であるということだ。クラスメイトに関しては休み時間に伝えるということにして実質解決した。問題は他クラスの対応だ。
「今日の放課後校舎裏に来てくれますか?」
という内容がだけなら校舎裏に行けばいい。だが運悪く校舎裏、体育館裏、渡り廊下とバリエーションが多い。結局結論は出せず朝礼が始まった。
その後険悪ムードが収まる気配はなく一限目が始まる。俺は授業の内容をすっぽかして放課後の行動について脳を回転させる。普段なら冷静な頭脳で最適解を出せるが今回は違う。正解のない問いを解かされているような絶望感。
その絶望感が消えないまま気付けば四限目が終わろうとしていた。未だ考えはまとまっていない。俺は眠気に体を預けて机に頭を伏せる。
俺が瞼を上げた時どこか分からなかった。だが周りを見回すと少しずつ理解した。今いるのは保健室、そして保健室にいたのは入りきらないくらいの女子。
(あぁ、体調不良で倒れたのか。)
俺は多少の違和感があったもののそう解釈した。いや、そう解釈せざるを得なかった。体調に影響を及ぼすほど疲れが溜まっていた、あるいは悩まされていたと気付き、改めてそのことについて考える。
その時俺は気付く。そう、ここには俺に告白する予定であろう女子が多くいる。なら答えは一つ。
「先生、体調が治るまでここで休んでも構いませんか?」
俺はあえて少し大きめの声で確認をとる。
「良いですよ、でも完全下校時間になるまでには親御さんを呼ぶなどして帰ったくださいね。」
俺にとって最善の回答が返ってくる。これで放課後指定された場所に行く必要がなくなる。むしろ保健室に集まってくれるだろう。まぁ、病人に大勢で見舞いには来てほしくないが。そんなことを考えながら眠りにつく。
目が覚めた。誰かに起こされたわけでも無く本能的に起きたのだろうか。いや、周りが騒がしいからだ。案の定、告白待ちの女子で保健室は溢れかえっている。もちろん他クラスの女子も。俺が起きてから静寂が走る。それも無理はない。誰が先人を切るのか目で牽制しているのが伝わってくる。俺としては告白されたいわけではないからこのまま下校時間まで耐える選択肢もある。
そう考えていると盤面が変わる。先人を切ったのはクラスのムードメーカー的な存在の女子。
「松村くん、私とお付き合いしませんか?」
シンプルかつ直接的な表現。それに対して俺は、
「気持ちは嬉しい、でもごめん。俺は俺を好きになった人は好きになれないと思うんだ。だから俺が好きになれるような人になってくれる?もし他に告白しようとしてる人がいたらその人にも言いたい。今回俺は誰とも付き合わない、でもこれからどうなるかわかんないからいつか来るかもしれないその日を待ってくれる?」
そう言い放つ。決してキツくない口調で優しく。それに対して何か声をあげる人はいなかった。他から見れば自意識過剰で年不相応な判断、でも俺はそれでよかった。
保健室から女子が一人また一人と去っていく。最後に残ったのは学年のマドンナで小中同じ学校だった藤田咲妃。俺と藤田の二人だけの空間がしばらく続く。すると藤田は俺に近づき耳元で、
「松村くん、今日何で保健室にいるか分かる?」
と意味深に聞く。俺は咄嗟に、
「体調不良で倒れたからだけど…。」
と萎縮しながらも素直に答える。
「本当にそう思ってる?うつ伏せになってたのに倒れたの?」
俺はあの時の違和感が蘇る。そう自分でも感じていた。寝ながら倒れたことに対するあの違和感が。
「そう…だよね。俺も変だと思ってたけど…。」
「あれ私がやったんだよ。」
俺は何をされたか分からないまま背筋が凍る。
「あれって、何が…」
俺は恐る恐る聞くと、
「松村くんが眠くなったのも体調不良になったのも私がやったんだよ。」
「ど、どういうことだよ。俺は何も飲まされてないしどうやって。」
「人って口以外からも有害物質は体内に入るよね。何か机に変なもの入ってなかった?」
藤田は楽しむようにからかうように俺に問い続ける。
俺は記憶を辿る。俺の机の中の違和感を。そして一つの違和感に辿り着く。
「まさかあの封筒…。」
「正解!封筒を開けてる時に気付かなかった?なんか色んな匂いがしたでしょ。あれにはリラックスさせる成分とか、睡眠を促す成分とかが入ってるんだよ。あっ、もちろん睡眠薬は使ってないから安心して♪」
俺は今まで仲のいい女子として認識していた遠藤に恐怖を抱く。
「何でこんなことを。」
震えた声で聞くと、
「私、松村くんのことが好きなの。でも今まで松村に告白してきた女の子とはすぐ別れてるでしょ。私もそうなるんじゃないかって思うといつしか恋心が復讐心になったの、おかしいでしょ。」
「何言ってんだよ藤田、大丈夫か。一回落ち着けって。」
俺は身の危険を察知して落ち着かせようとする。
「松村くんは私のこと異性じゃなくて友達って思ってるでしょ。それを知ってる恋なんて虚しいと思わない?」
藤田は続けて話す。
「今まで松村くんが好きになった女の子と上手くいかなかったのって何でだと思う?別に受験期でも付き合うだけなら出来たと思わない?相手も松村くんのこと好きではあったでしょ。」
よく考えれば藤田の言うとおりだ。受験期、デートとかに行かずたまに連絡を取るくらいなら勉強の弊害にはならない。むしろモチベーションの面でも付き合い続けてもよかった。そこで俺に一つの推論が浮かんでしまった。
「まさか……。」
「そう、そのまさかだよ。私が無理矢理別れてもらったの。だって不公平でしょ。私の恋は叶わないのに松村くんの恋が叶うなんて。」
藤田は俺が寝ているベッドに乗り俺に覆い被さろうとする。俺はすぐにベッドから離れる。
「何をする気だ、正気か。」
「私は正気だよ。松村くんが私を選んでくれないなら選択肢を私だけにするしかないでしょ。それに松村くんこそ大丈夫?病人がそんなに動いて。私、どんな成分を封筒に染み込ませたか全部は言ってないよ。」
嫌な予感がした。だがそれに気付くより先に体から力が抜ける。
保健室に重い音が鳴り響き俺の記憶は途絶える。
翌日俺は病室で目を覚ます。視界には両親が涙を流しながら座っているのが見えた。
「涼太!起きたの、よかった。」
「母さん…俺…」
俺は起きあがろうとしたが父に止められる。
「安静にしてろ、丸一日寝ていたんだぞ。」
泣きながら止める父に俺は身を任せる。
「起きましたか。よかったです。今回松村さんは玉ねぎに含まれる硫化アリルという睡眠を促す成分を大量に摂取されていました。またアナフィラキシーを発症されていました。触るだけでは発症しにくいはずですが口にしましたか?」
「口には入れてないで…、あっ、玉ねぎのせいで涙が出て来て手で擦ったかもしれません。」
「それですね、恐らく目の粘膜にアレルギー成分が触れたのが原因だと思われます。」
など症状の発生原因やその後の治療について話が続けられた。
今俺は高校を無事卒業して旧帝大に進学することが決まった。藤田はあの後警察に連れて行かれてから気付いた頃には学校から席が消えていた。あの時あったことを俺は一生背負って生きていく。そしてまた新し生活が始まろうとしている。今度は恋愛の期待は一切捨てて。
俺は小学生から中学生までにさまざまな恋愛を何度もしてきた。だがその恋愛が長続きすることはなかった。全ての恋愛は「相手を好きになれなず破局」、「時期が悪く自然消滅」のどちらかに当てはまる。運が悪いと言えばそれまでだが、それ以外のことであれば…。
目覚ましの音楽に起こされいつも通り身支度を始める。何一つ変わらない日常。学校に行けば何か変化があるのか。僅かな希望を胸に高校の入学式へと歩みを進める。
俺が通うことになったのは県内トップの進学校。進学先のほとんどは旧帝大、中には海外へ進学する者もいる。そんな高校に俺は若干の期待をしている。当然、教養を深め一ステップ上の暮らしをするための第一歩としての。だが他の期待も存在する。
それは過去の恋愛と決別できるかもしれないということだ。今までは環境が悪く自分に似たスケジューリング、自分に近い価値観の人がいなかった、そのために恋愛がうまくいかなかった、そう思っている。
校門を越え校舎に入り教室に足を踏み入れる。中学までのような視線は感じない。生徒のほとんどは机に広げた塾の教材などに目を通すか近くの席の人と友好関係を築いている。
俺の中ではまずまずの感触だ。注目される存在としての恋愛ではなく、どこにでもいる一高校生としての恋愛をしてみたかった。それによって何かが変わると思っているからだ。
その後入学式を終え教室に戻り軽く自己紹介をすることとなる。俺の番になったその時、クラスメイトの視線が初めて俺に集まる。俺は願う。ただひたすらに願う。ただの男子高校生として認識されることを。ここで浮いてしまえば今までと何一つ変わらない生活になってしまう。そう考えながらあっという間に自己紹介を終え教材の配布なども終わり帰路に着く。
そして願いが通じたのか翌日以降、俺に対する告白はない。そうあの日が来るまでは。
時は流れ二月十四日、バレンタインデーがやってくる。入学式以降普通の高校生として、クラスメイトとは男女関係なく仲良くしてきた。体育祭、文化祭は全員で協力して絆を深めた。その流れで訪れる恋愛イベント全男子が期待する一日。俺もこの日に限っては告白もウェルカムだ。逆に告白が一つもなければ高校生活で恋愛がなくなると言っても過言ではないと思う。これまでの恋愛のせいで異常なまでの自信がついてしまっていた。
普段なら俺は登校順は真ん中くらいだが今日は俺が最後であった。一応女子が渡しやすいようにいつもより二〇分ほど早く家を出たがそれでも遅かった。だが違和感はそんなことではなかった。いつもより男子からの俺への視線は感じるし女子は険悪なムードだし…。俺は登校順が遅かったことに気を取られていたが一瞬で理解した。それと同時に
(あっ、どうすべきだ?)
と悩んだ頭を無理矢理フル回転させる。
今まで告白などのタイミングはバラバラであったし、女子も対抗馬が多すぎて叶わぬ恋として認識していたためバレンタインに困ることはなかった。そのため初の体験に今までの経験値が意味を成さなくなる。
そして自席に座り机の中に手を入れる。中にはインフルエンザで休んだ生徒のプリント数と張り合えるくらいの封筒がある。まず枚数を確認する。クラスの女子は二〇人、封筒は…二十七枚。中には少し変わった封筒や紙だけのものもある。俺は対応に困る。二〇枚であればクラスメイト全員として考えられるが、他クラスからも送られたのが確定した。クラスメイトだけであれば一人一人話しかけることで放課後に告白の渋滞になることは避けられる。だが他クラスは違う。放課後までに会いに行けば誤解されてしまう可能性がある。とはいえ、放課後に他クラスの生徒を待たせるのも申し訳ない。色々考えながらもまず封筒を開ける作業から始める。全て目を通してわかったことは一つ。全員への対応が非常に困難であるということだ。クラスメイトに関しては休み時間に伝えるということにして実質解決した。問題は他クラスの対応だ。
「今日の放課後校舎裏に来てくれますか?」
という内容がだけなら校舎裏に行けばいい。だが運悪く校舎裏、体育館裏、渡り廊下とバリエーションが多い。結局結論は出せず朝礼が始まった。
その後険悪ムードが収まる気配はなく一限目が始まる。俺は授業の内容をすっぽかして放課後の行動について脳を回転させる。普段なら冷静な頭脳で最適解を出せるが今回は違う。正解のない問いを解かされているような絶望感。
その絶望感が消えないまま気付けば四限目が終わろうとしていた。未だ考えはまとまっていない。俺は眠気に体を預けて机に頭を伏せる。
俺が瞼を上げた時どこか分からなかった。だが周りを見回すと少しずつ理解した。今いるのは保健室、そして保健室にいたのは入りきらないくらいの女子。
(あぁ、体調不良で倒れたのか。)
俺は多少の違和感があったもののそう解釈した。いや、そう解釈せざるを得なかった。体調に影響を及ぼすほど疲れが溜まっていた、あるいは悩まされていたと気付き、改めてそのことについて考える。
その時俺は気付く。そう、ここには俺に告白する予定であろう女子が多くいる。なら答えは一つ。
「先生、体調が治るまでここで休んでも構いませんか?」
俺はあえて少し大きめの声で確認をとる。
「良いですよ、でも完全下校時間になるまでには親御さんを呼ぶなどして帰ったくださいね。」
俺にとって最善の回答が返ってくる。これで放課後指定された場所に行く必要がなくなる。むしろ保健室に集まってくれるだろう。まぁ、病人に大勢で見舞いには来てほしくないが。そんなことを考えながら眠りにつく。
目が覚めた。誰かに起こされたわけでも無く本能的に起きたのだろうか。いや、周りが騒がしいからだ。案の定、告白待ちの女子で保健室は溢れかえっている。もちろん他クラスの女子も。俺が起きてから静寂が走る。それも無理はない。誰が先人を切るのか目で牽制しているのが伝わってくる。俺としては告白されたいわけではないからこのまま下校時間まで耐える選択肢もある。
そう考えていると盤面が変わる。先人を切ったのはクラスのムードメーカー的な存在の女子。
「松村くん、私とお付き合いしませんか?」
シンプルかつ直接的な表現。それに対して俺は、
「気持ちは嬉しい、でもごめん。俺は俺を好きになった人は好きになれないと思うんだ。だから俺が好きになれるような人になってくれる?もし他に告白しようとしてる人がいたらその人にも言いたい。今回俺は誰とも付き合わない、でもこれからどうなるかわかんないからいつか来るかもしれないその日を待ってくれる?」
そう言い放つ。決してキツくない口調で優しく。それに対して何か声をあげる人はいなかった。他から見れば自意識過剰で年不相応な判断、でも俺はそれでよかった。
保健室から女子が一人また一人と去っていく。最後に残ったのは学年のマドンナで小中同じ学校だった藤田咲妃。俺と藤田の二人だけの空間がしばらく続く。すると藤田は俺に近づき耳元で、
「松村くん、今日何で保健室にいるか分かる?」
と意味深に聞く。俺は咄嗟に、
「体調不良で倒れたからだけど…。」
と萎縮しながらも素直に答える。
「本当にそう思ってる?うつ伏せになってたのに倒れたの?」
俺はあの時の違和感が蘇る。そう自分でも感じていた。寝ながら倒れたことに対するあの違和感が。
「そう…だよね。俺も変だと思ってたけど…。」
「あれ私がやったんだよ。」
俺は何をされたか分からないまま背筋が凍る。
「あれって、何が…」
俺は恐る恐る聞くと、
「松村くんが眠くなったのも体調不良になったのも私がやったんだよ。」
「ど、どういうことだよ。俺は何も飲まされてないしどうやって。」
「人って口以外からも有害物質は体内に入るよね。何か机に変なもの入ってなかった?」
藤田は楽しむようにからかうように俺に問い続ける。
俺は記憶を辿る。俺の机の中の違和感を。そして一つの違和感に辿り着く。
「まさかあの封筒…。」
「正解!封筒を開けてる時に気付かなかった?なんか色んな匂いがしたでしょ。あれにはリラックスさせる成分とか、睡眠を促す成分とかが入ってるんだよ。あっ、もちろん睡眠薬は使ってないから安心して♪」
俺は今まで仲のいい女子として認識していた遠藤に恐怖を抱く。
「何でこんなことを。」
震えた声で聞くと、
「私、松村くんのことが好きなの。でも今まで松村に告白してきた女の子とはすぐ別れてるでしょ。私もそうなるんじゃないかって思うといつしか恋心が復讐心になったの、おかしいでしょ。」
「何言ってんだよ藤田、大丈夫か。一回落ち着けって。」
俺は身の危険を察知して落ち着かせようとする。
「松村くんは私のこと異性じゃなくて友達って思ってるでしょ。それを知ってる恋なんて虚しいと思わない?」
藤田は続けて話す。
「今まで松村くんが好きになった女の子と上手くいかなかったのって何でだと思う?別に受験期でも付き合うだけなら出来たと思わない?相手も松村くんのこと好きではあったでしょ。」
よく考えれば藤田の言うとおりだ。受験期、デートとかに行かずたまに連絡を取るくらいなら勉強の弊害にはならない。むしろモチベーションの面でも付き合い続けてもよかった。そこで俺に一つの推論が浮かんでしまった。
「まさか……。」
「そう、そのまさかだよ。私が無理矢理別れてもらったの。だって不公平でしょ。私の恋は叶わないのに松村くんの恋が叶うなんて。」
藤田は俺が寝ているベッドに乗り俺に覆い被さろうとする。俺はすぐにベッドから離れる。
「何をする気だ、正気か。」
「私は正気だよ。松村くんが私を選んでくれないなら選択肢を私だけにするしかないでしょ。それに松村くんこそ大丈夫?病人がそんなに動いて。私、どんな成分を封筒に染み込ませたか全部は言ってないよ。」
嫌な予感がした。だがそれに気付くより先に体から力が抜ける。
保健室に重い音が鳴り響き俺の記憶は途絶える。
翌日俺は病室で目を覚ます。視界には両親が涙を流しながら座っているのが見えた。
「涼太!起きたの、よかった。」
「母さん…俺…」
俺は起きあがろうとしたが父に止められる。
「安静にしてろ、丸一日寝ていたんだぞ。」
泣きながら止める父に俺は身を任せる。
「起きましたか。よかったです。今回松村さんは玉ねぎに含まれる硫化アリルという睡眠を促す成分を大量に摂取されていました。またアナフィラキシーを発症されていました。触るだけでは発症しにくいはずですが口にしましたか?」
「口には入れてないで…、あっ、玉ねぎのせいで涙が出て来て手で擦ったかもしれません。」
「それですね、恐らく目の粘膜にアレルギー成分が触れたのが原因だと思われます。」
など症状の発生原因やその後の治療について話が続けられた。
今俺は高校を無事卒業して旧帝大に進学することが決まった。藤田はあの後警察に連れて行かれてから気付いた頃には学校から席が消えていた。あの時あったことを俺は一生背負って生きていく。そしてまた新し生活が始まろうとしている。今度は恋愛の期待は一切捨てて。
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※他小説投稿サイトにも同内容を投稿しています。
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