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 出てきた涙が引っ込んで冷めきるくらいの記憶だった。
 まあこの国を出られるということはあの肉だるまとの結婚が回避できるということでもある。こんなに素晴らしいことはない。

「よしっ! もう切り替えていくしかない!」

 幸い『聖女』というのは決してお飾りの称号ではない。
 魔法を使えば他の追随を許さぬ圧倒的な魔力と技術を誇る。そして何より、『聖女』は奇跡の力、『スキル』を持つ。

「私は『精霊の加護』ね」

 このベルムート王国は北側半分を魔の森に食い込ませるように作られた王国。
 モンスターたちの侵攻を受ければ壊滅は必至だ。
 それを防いできたのが、歴代の聖女。私はこの『精霊の加護』と膨大な魔力を駆使して、本来人間に行使できないとされる『精霊魔法』で国に結界を幾重にも張り巡らせ、森の魔獣達をコントロールしてきた。

「だけど、あの馬鹿王子は私のことを本気で飾りだと思ってたわね……」

 何回説明しても「祈りなどおふざけはやめてさっさと貴族たちに声をかけ続けろ」の一点張りだった。
 そもそも聖女を我が物顔で私物化した王子など、歴代でもあの馬鹿だけだろう。

「ただあの国、国王は息子可愛さでいっぱいだし、他の王子もろくなもんじゃなかったからなあ……」

 第一王子はプライドが高すぎるお坊ちゃま。食事のマナーを指摘した従者を滅多打ちにしている。
 第二王子は遊び人気質が過ぎる。部屋には常に女性の声が溢れ、私も何度か身体を狙われた。
 第三王子は戦争好きの脳筋。
 まだ手を出されにくく、命の危険も少ない第四王子がマシだったと言える最悪のラインナップだった。

「まあ結局国王まで私を不要と切り捨てたし、新しい聖女はつくらないとか言ってたから……」

 この国は滅びる。
 間違いないと断言できた。
 私が『精霊魔法』を解いた途端、北の森に隣接した国の半分から多方面侵攻を受ける。
 戦争好きの第三王子は喜んで戦いに出るだろうが、この国の戦力では森に潜む魔物たちには勝てない。

「ま、私の知ったことではないわ」

 親も死んだ。誰にも連絡は取らせてもらえなかったんだ、友達もいない。
 唯一関わりのあったのがバカ王子とそれに付き従う間抜けな貴族だけ。

「滅んだほうがいいわいっそ……」

 聖女らしからぬ言葉に自分で驚くがもういいのだ。
 まあいい。もう聖女ではないのだから。

「私は自由!」

 行き先に当てはある。
 森の魔物たちを探るときに私は発見をしているんだ。

「エルフ! 精霊魔法の本来の使い手達。あそこなら私にも……居場所があるかもしれない!」

 意気揚々と森に踏み込んでいった。
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