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夏祭り01
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打ち上げの翌日。
朝食を取って宿を出る。
アイカとユナはいったんメイの町に戻って次の依頼を探すと言っていた。
私たちは、サイス村の入り口で、
「また一緒に冒険しようね!」
「楽しみに待っているわ」
「ええ。必ず」
という言葉と握手を交わし、お互いに背を向ける。
私はほんの少しの寂しさと次への期待を胸にチト村への帰路に就いた。
まずは表街道を進み、宿場町でユリカちゃんとアンナさんへのお土産を買う。
お土産は加工肉と何種類かのチーズ、それにワインを小さい樽で2つ。
アンナさんはあまりお酒を飲まないが料理にも使えるし喜んでもらえるはずだ。
余ったら私が飲めばいい。
そんなことを考えながら、その宿場町を出ると、私とエリーはいつものように裏街道へと入って行った。
順調に進むこと7日。
明日の午後にはチト村に着くという所まで来ると、私はいつものように街道脇の空き地を見つけて野営の準備に取り掛かる。
献立は、お土産とは別に買ったちょっと辛めのドライソーセージとトマトで簡単なパスタにした。
適度な辛味に、
(あちゃー。これはお酒が欲しくなるやつだ…)
と、ちょっと失敗したと思いつつもお土産のワインには何とか手を出すことなく食事を終える。
食後、ゆっくりとその辛味を流すようにお茶を飲みながら、ふと次の冒険のことを考えた。
(教会への報告は出してきたから、きっとまた近いうちに指示書が来るわね)
と考えて気持ちを引き締める。
(もしかしたら、今度も少し遠くかもしれない)
そう考えると、ユリカちゃんの顔を思い出して少し胸が痛んだ。
そんな重たい気分を変えようと背嚢を枕にしてその場に寝そべる。
「ふぅ…」
と息を吐き、星空を見上げた。
ぼんやりと星を眺める。
(確か学院の授業で天文学者は星に名前をつけて観測してるって聞いたけど、あの星はなんていう名前なのかしら)
と、一番明るく輝く星を眺めながら、どうでもいいことを思い出した。
(あの一番明るい星はたしか、真南から動かないって話だったわよね…。普段、夜は行動しないし、方角は太陽と魔道具で測っているけど、いざという時は使える知識だからしっかり覚えておかなくちゃ)
と、なんとなく思いながら、しばらくぼーっとする。
そして、ふとあの強化魔法のことを思い出した。
(自分の体内の魔素の流れの操作…。それって、どうやれば身に着くかな?聖女の訓練でやった瞑想みたいな感じで出来るかしら?あれなら得意分野だったから何かのきっかけでコツが掴めそうだけど…)
と思いつき体を起こす。
私は携帯型の浄化の魔導石を取り出し、両手で目の前に掲げた。
まずはゆっくりと魔力を流す。
聖女のやる瞑想の訓練はこの携帯型の浄化の魔導石に似た訓練用の魔道具を使い、集中してそれに魔力を流し続けるというものだ。
その訓練を思い出しながら集中して魔力を流してみた。
(ここから何か応用できるような気がするけど…)
と考え、今度は自分から流れる魔力に意識を向けてみる。
しかし、体の中から湧き上がって手を伝い魔導石に流れていくことは感じられても自分の体の中で魔素がどう流れているかまでは感じ取る事が出来なかった。
(うーん…。やっぱり思い付きでどうこうなるものじゃないわね…)
と少ししょんぼりした気持ちになる。
しかし、
(大丈夫。これからよ)
と、また自分に言い聞かせて、ほんの少し残っていたお茶で喉を潤すとさっさと寝袋を取り出してそれに包まった。
翌朝。
なぜか夜明け前に目を覚ます。
(ちょっと気が逸ってるのかな?)
とチト村への帰還を急いでいる自分に少し苦笑いをしつつ、ランタンの灯りを頼りにまずはお茶を淹れ、行動食をかじった。
夜明けと同時にその場を発つ。
どうやらエリーもチト村が近いことはわかっているらしく、それまでに比べてやや速い足取りで進んでくれた。
「あんまり無理はしないでね」
と声を掛けながらも、エリーの頑張りを嬉しく思ってその背に揺られる。
そして、予想よりも少し早く、昼を少し過ぎたくらいに私たちはチト村へと帰り着いた。
「ただいま。異常は無かった?」
と、いつものように村の入り口の門でジミーに声を掛ける。
すると詰所の奥からジミーが顔を出し、
「ああ。炭焼きの爺さんが熱を出した以外は何も無かったな。お前の薬のおかげでずいぶん早く良くなったみたいだぜ」
と、いつもの呑気な口調でそう言ってきた。
私はそんな言葉に安心し、
「ありがとう。後で念のために診察に行ってみるわ」
と言ってエリーに合図を出すと、後ろ手に手を振りながらさっさと村の中に入っていく。
そんな私の後から、
「明日は夏祭りがあるぞ」
という少し大きなジミーの声が聞こえてきた。
(ああ、そう言えばそんなものがあるって聞いたことがあるわね…)
と思いながらあぜ道を歩くことしばし。
ようやくアンナさんの家が見えてくる。
私は逸る気持ちをなんとか抑えて、いつものように裏庭に回った。
まず、荷物を降ろす前に勝手口を開け、中に向かって、
「ただいま!」
と声を掛ける。
すると、すぐに、
「ジルお姉ちゃん!」
と弾けるような声が聞こえた。
いつものように飛びついてくるユリカちゃんを抱き留めて抱え上げる。
久しぶりに感じる温もりと重みに胸が熱くなった。
「やった!間に合った!」
と嬉しそうな声を上げるユリカちゃんの言葉を聞いて、
(ああ。そう言えば、明日お祭りだって言ってたわね)
と先ほどのジミーの言葉を思い出だし、
「もしかして、明日のお祭りのこと?」
と聞いてみる。
すると、ユリカちゃんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ満面の笑みを浮かべて、
「うん!」
と元気よく返事をしてくれた。
よほど楽しみにしていたんだろう。
ユリカちゃんの笑顔はいつも以上に輝いているように見える。
そんなユリカちゃんを見て、私も嬉しくなると、
「そうなんだ。私、初めてだからどんなのかわからないけど、一緒に行こうね」
と満面の笑みでユリカちゃんをお祭りに誘った。
「やったー!」
とユリカちゃんが私の腕の中ではしゃぐ。
その声の後から、
「うふふ。よかったわねぇ」
と言いながらアンナさんがユリカちゃんの頭を撫でた。
「ただいま。アンナさん」
「おかえりなさい。ジルちゃん」
と笑顔で挨拶をかわす。
「お土産にお肉とチーズをたくさん買ってきたよ。あとワインも」
私の言葉にアンナさんが少し困ったような顔で、
「いつもごめんなさいね」
と遠慮がちな言葉を投げかけてきた。
そんなアンナさんに向かって私は、軽く首を横に振りながら、
「ううん。いつもお世話になっているもの。今回も美味しいご飯にしてね」
と冗談めかして伝える。
すると、アンナさんも微笑んで、
「うふふ。じゃぁ今日はうんと腕を振るわなくっちゃ」
と答えてくれた。
「私、クリームシチューがいいな!」
とユリカちゃんからリクエストが出る。
「あらあら。でもそれじゃぁいつもの食べてるご飯になっちゃうから、違うのでもいいのよ?」
とアンナさんが聞くと、
「ううん。今日はジルお姉ちゃんが帰ってきた日だからクリームシチューにしないと!」
とユリカちゃんは嬉しそうにそう言った。
ユリカちゃんの言葉に胸が熱くなる。
ユリカちゃんとアンナさんと出会った時に出てきたクリームシチューは言ってみれば私たちの思い出の味。
そのことをユリカちゃんがしっかり覚えていてくれて、今日は特別な日だからそれにしようと言ってくれた。
アンナさんのクリームシチューはどこにでもあるただの田舎の家庭料理。
でも、ほっとする味。
温かい家庭と優しい味。
その両方を求めて私はこの家に半分居候のような状態で居ついてしまっている。
私は、
「そうだね。こういう日はクリームシチューだよね!」
と言ってユリカちゃんの見つめ合い、くすくすと笑い合った。
足元から、
「きゅきゅっ!」
と声がして、ココが私の体を器用に肩まで登って来る。
「あははっ。ココも『おかえり』だって」
とユリカちゃんが楽しそうに笑い、私も、笑顔で、
「ただいま」の挨拶替わりにその頭をこちょこちょと撫でてあげた。
「よし、じゃぁさっそく荷物を降ろしておうちに入ろうか」
と言ってユリカちゃんを地面に降ろしてあげる。
「はーい」
「きゅきゅっ!」
と元気な返事が聞こえて、私たちはさっそく荷を下ろし、笑顔で勝手口をくぐった。
朝食を取って宿を出る。
アイカとユナはいったんメイの町に戻って次の依頼を探すと言っていた。
私たちは、サイス村の入り口で、
「また一緒に冒険しようね!」
「楽しみに待っているわ」
「ええ。必ず」
という言葉と握手を交わし、お互いに背を向ける。
私はほんの少しの寂しさと次への期待を胸にチト村への帰路に就いた。
まずは表街道を進み、宿場町でユリカちゃんとアンナさんへのお土産を買う。
お土産は加工肉と何種類かのチーズ、それにワインを小さい樽で2つ。
アンナさんはあまりお酒を飲まないが料理にも使えるし喜んでもらえるはずだ。
余ったら私が飲めばいい。
そんなことを考えながら、その宿場町を出ると、私とエリーはいつものように裏街道へと入って行った。
順調に進むこと7日。
明日の午後にはチト村に着くという所まで来ると、私はいつものように街道脇の空き地を見つけて野営の準備に取り掛かる。
献立は、お土産とは別に買ったちょっと辛めのドライソーセージとトマトで簡単なパスタにした。
適度な辛味に、
(あちゃー。これはお酒が欲しくなるやつだ…)
と、ちょっと失敗したと思いつつもお土産のワインには何とか手を出すことなく食事を終える。
食後、ゆっくりとその辛味を流すようにお茶を飲みながら、ふと次の冒険のことを考えた。
(教会への報告は出してきたから、きっとまた近いうちに指示書が来るわね)
と考えて気持ちを引き締める。
(もしかしたら、今度も少し遠くかもしれない)
そう考えると、ユリカちゃんの顔を思い出して少し胸が痛んだ。
そんな重たい気分を変えようと背嚢を枕にしてその場に寝そべる。
「ふぅ…」
と息を吐き、星空を見上げた。
ぼんやりと星を眺める。
(確か学院の授業で天文学者は星に名前をつけて観測してるって聞いたけど、あの星はなんていう名前なのかしら)
と、一番明るく輝く星を眺めながら、どうでもいいことを思い出した。
(あの一番明るい星はたしか、真南から動かないって話だったわよね…。普段、夜は行動しないし、方角は太陽と魔道具で測っているけど、いざという時は使える知識だからしっかり覚えておかなくちゃ)
と、なんとなく思いながら、しばらくぼーっとする。
そして、ふとあの強化魔法のことを思い出した。
(自分の体内の魔素の流れの操作…。それって、どうやれば身に着くかな?聖女の訓練でやった瞑想みたいな感じで出来るかしら?あれなら得意分野だったから何かのきっかけでコツが掴めそうだけど…)
と思いつき体を起こす。
私は携帯型の浄化の魔導石を取り出し、両手で目の前に掲げた。
まずはゆっくりと魔力を流す。
聖女のやる瞑想の訓練はこの携帯型の浄化の魔導石に似た訓練用の魔道具を使い、集中してそれに魔力を流し続けるというものだ。
その訓練を思い出しながら集中して魔力を流してみた。
(ここから何か応用できるような気がするけど…)
と考え、今度は自分から流れる魔力に意識を向けてみる。
しかし、体の中から湧き上がって手を伝い魔導石に流れていくことは感じられても自分の体の中で魔素がどう流れているかまでは感じ取る事が出来なかった。
(うーん…。やっぱり思い付きでどうこうなるものじゃないわね…)
と少ししょんぼりした気持ちになる。
しかし、
(大丈夫。これからよ)
と、また自分に言い聞かせて、ほんの少し残っていたお茶で喉を潤すとさっさと寝袋を取り出してそれに包まった。
翌朝。
なぜか夜明け前に目を覚ます。
(ちょっと気が逸ってるのかな?)
とチト村への帰還を急いでいる自分に少し苦笑いをしつつ、ランタンの灯りを頼りにまずはお茶を淹れ、行動食をかじった。
夜明けと同時にその場を発つ。
どうやらエリーもチト村が近いことはわかっているらしく、それまでに比べてやや速い足取りで進んでくれた。
「あんまり無理はしないでね」
と声を掛けながらも、エリーの頑張りを嬉しく思ってその背に揺られる。
そして、予想よりも少し早く、昼を少し過ぎたくらいに私たちはチト村へと帰り着いた。
「ただいま。異常は無かった?」
と、いつものように村の入り口の門でジミーに声を掛ける。
すると詰所の奥からジミーが顔を出し、
「ああ。炭焼きの爺さんが熱を出した以外は何も無かったな。お前の薬のおかげでずいぶん早く良くなったみたいだぜ」
と、いつもの呑気な口調でそう言ってきた。
私はそんな言葉に安心し、
「ありがとう。後で念のために診察に行ってみるわ」
と言ってエリーに合図を出すと、後ろ手に手を振りながらさっさと村の中に入っていく。
そんな私の後から、
「明日は夏祭りがあるぞ」
という少し大きなジミーの声が聞こえてきた。
(ああ、そう言えばそんなものがあるって聞いたことがあるわね…)
と思いながらあぜ道を歩くことしばし。
ようやくアンナさんの家が見えてくる。
私は逸る気持ちをなんとか抑えて、いつものように裏庭に回った。
まず、荷物を降ろす前に勝手口を開け、中に向かって、
「ただいま!」
と声を掛ける。
すると、すぐに、
「ジルお姉ちゃん!」
と弾けるような声が聞こえた。
いつものように飛びついてくるユリカちゃんを抱き留めて抱え上げる。
久しぶりに感じる温もりと重みに胸が熱くなった。
「やった!間に合った!」
と嬉しそうな声を上げるユリカちゃんの言葉を聞いて、
(ああ。そう言えば、明日お祭りだって言ってたわね)
と先ほどのジミーの言葉を思い出だし、
「もしかして、明日のお祭りのこと?」
と聞いてみる。
すると、ユリカちゃんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ満面の笑みを浮かべて、
「うん!」
と元気よく返事をしてくれた。
よほど楽しみにしていたんだろう。
ユリカちゃんの笑顔はいつも以上に輝いているように見える。
そんなユリカちゃんを見て、私も嬉しくなると、
「そうなんだ。私、初めてだからどんなのかわからないけど、一緒に行こうね」
と満面の笑みでユリカちゃんをお祭りに誘った。
「やったー!」
とユリカちゃんが私の腕の中ではしゃぐ。
その声の後から、
「うふふ。よかったわねぇ」
と言いながらアンナさんがユリカちゃんの頭を撫でた。
「ただいま。アンナさん」
「おかえりなさい。ジルちゃん」
と笑顔で挨拶をかわす。
「お土産にお肉とチーズをたくさん買ってきたよ。あとワインも」
私の言葉にアンナさんが少し困ったような顔で、
「いつもごめんなさいね」
と遠慮がちな言葉を投げかけてきた。
そんなアンナさんに向かって私は、軽く首を横に振りながら、
「ううん。いつもお世話になっているもの。今回も美味しいご飯にしてね」
と冗談めかして伝える。
すると、アンナさんも微笑んで、
「うふふ。じゃぁ今日はうんと腕を振るわなくっちゃ」
と答えてくれた。
「私、クリームシチューがいいな!」
とユリカちゃんからリクエストが出る。
「あらあら。でもそれじゃぁいつもの食べてるご飯になっちゃうから、違うのでもいいのよ?」
とアンナさんが聞くと、
「ううん。今日はジルお姉ちゃんが帰ってきた日だからクリームシチューにしないと!」
とユリカちゃんは嬉しそうにそう言った。
ユリカちゃんの言葉に胸が熱くなる。
ユリカちゃんとアンナさんと出会った時に出てきたクリームシチューは言ってみれば私たちの思い出の味。
そのことをユリカちゃんがしっかり覚えていてくれて、今日は特別な日だからそれにしようと言ってくれた。
アンナさんのクリームシチューはどこにでもあるただの田舎の家庭料理。
でも、ほっとする味。
温かい家庭と優しい味。
その両方を求めて私はこの家に半分居候のような状態で居ついてしまっている。
私は、
「そうだね。こういう日はクリームシチューだよね!」
と言ってユリカちゃんの見つめ合い、くすくすと笑い合った。
足元から、
「きゅきゅっ!」
と声がして、ココが私の体を器用に肩まで登って来る。
「あははっ。ココも『おかえり』だって」
とユリカちゃんが楽しそうに笑い、私も、笑顔で、
「ただいま」の挨拶替わりにその頭をこちょこちょと撫でてあげた。
「よし、じゃぁさっそく荷物を降ろしておうちに入ろうか」
と言ってユリカちゃんを地面に降ろしてあげる。
「はーい」
「きゅきゅっ!」
と元気な返事が聞こえて、私たちはさっそく荷を下ろし、笑顔で勝手口をくぐった。
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