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幕間〜王選の幕は落ちる〜

女子会(前編)

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 王国中を舞台とした王選は、アースの勝利によって幕を閉じた。
 しかし王選自体は終わってもアースはしばらく忙しいままだ。次代の王と関係を持とうとする商人や、元々アースと関わりがあった貴族がそれを祝福する為に王城へ来るのだ。新聞社による取材の申請だってある。
 小さな相手なら無視しても良いが、大きいものであれば無碍にはできない。これから先、共に国を盛り上げる相手を乱雑に扱えば、いつかこの国を出て行く可能性だってある。

 アルスはアルスで忙しい。今回の一件でまた活躍したという事で、アルスにも会いたいという人が少なくない数いるのだ。その為、アースの護衛も兼ねて様々な場所に引っ張り出されている。
 フランは罪滅ぼしも兼ねて、無償でスカイの護衛を名乗り出た。スカイも王選に負けはしたが、王族である以上は暇ではいられない。

 そんなわけで、この状況下で手の空いている人物は割と限られていた。
 ちなみに、どうでも良い事かもしれないが、四大公爵も一つの家を除いて既に領地へ戻っている。それは色々と用事が多いのもあるが、何より――

「……ねえ、ヒカリ。本当に私にして欲しい事ってないの?」

 ――その娘が帰ろうとしないからである。
 最終演説が終わった翌日に目覚めたエルディナは、その日からずっとヒカリの部屋に来てこんな風にしていた。

「だから、ないッスよ。こうやって話し相手になってくれるだけで十分ッス。」
「ええ~……なんかスッキリしない。」

 洗脳された状態とはいえ、エルディナはアースとヒカリを殺す一歩手前までいった。気に病むのは当然のことである。
 むしろ、一週間経ってやっと落ち着いたのだ。起きたばかりの時は泣きじゃくって謝るだけで会話すら成り立たなかった。アルスやアース、父親であるオーロラと何度も話して平常心を取り戻したのである。
 それでも、罪悪感だけは拭えなかったが。

「空飛んでみたくない?」
「あれは一回きりでいいッスね。」
「それじゃあ魔法を教えてあげようか?」
「今は剣で手一杯ですし……」
「じゃあじゃあ、私と模擬戦してみる?」
「いや、絶対に勝てないッスよ。」

 エルディナは良い案を考え出そうとするが思いつかず、ただうんうん唸るだけだった。

「……前も言いましたけど、別に気にすることじゃないッスよ。あの時は洗脳されていて、仕方がなかったんスから。」
「そうなんだけど……それで、ヒカリとアースは死ぬかもしれなかったわけでしょ。えーと、何て言えばいいんだろう……」

 再びエルディナは言い悩み始めた。自分の思っていることを上手く表現できない様子で、とてもむず痒そうな表情を浮かべている。

「あ、そう! 私だったら許さないから、妙に気持ち悪いの!」

 合点がいってエルディナは肩から力を抜く。
 それはフランが納得できない理由とはまた別だった。フランは命に対する責任を取らなくてはならないと考えていて、その為に謝っていた。
 しかしそんな小難しい事を考えないエルディナにとっては、自分なら文句を言うだろうに、言われないという事に落ち着かなかったのだ。

「皆、人が良すぎるのよ。もしアルスが私みたいになったら、絶対にこき使うわ。だから私もそうされて然るべきじゃない。」
「えーと、だけど、別に何もされないならそれでいいんじゃ……?」
「良くないわ! それだと私が嫌な奴みたいでしょ!」

 別にそんなこと誰も思わないとは思うが、こればかりは本人が納得するかどうかの話である。

「だからヒカリ、私を少し貶してみてよ。そうしたら満足するかもしれない。」

 そうは言われてもいきなり罵倒の言葉なんて出てくるはずもない。そもそも言いたいとすら思わない。そもそもヒカリは小学生以来、他人に悪口を言った記憶すらない。
 加えてそんな言葉をヒカリはわざわざ勉強していない。だから思いつくのは幼稚な悪口ばかりである。

「――あら、そうだったのね。それなら私が言ってあげてもいいわよ。」

 音もなく、気付いたらそこにもう一人いた。その赤い髪を見れば誰であるかは一目瞭然である。フィルラーナ・フォン・リラーティナだった。
 エルディナはお化けでも見たみたいに椅子から転げ落ちて、そのまま後ずさる。

「い、いつからそこに?」
「ついさっきよ……ああ、これをつけていたから気付かなかったのね。」

 そう言ってフィルラーナは指輪を外して適当なテーブルの上に置く。つい最近にそれを見ていたヒカリは直ぐわかった。認識阻害の指輪である。
 そのままエルディナが座っていた倒れた椅子を直して、そこにフィルラーナが座る。エルディナは急いで立ち上がって二人のいるところに戻った。

「どうしてラーナが王城にいるの!? 帰ったんじゃないの!?」
「用事があって戻って来たのよ。むしろ、ディナがまだ帰ってない事の方に驚いたわ。」

 エルディナは驚いてはいるが嬉しそうだ。
 ヒカリは二人の間の関係をよく知らないが、それでも互いに公爵家の令嬢である事から仲が良いのだろうと察した。タイプとしては真逆に位置するが、性格が似ていなくとも気が合うことはある。
 エルディナは部屋の中から魔法で椅子を引き寄せて座る。フィルラーナが自分の椅子を取った事に対しては気にする様子すら見せない。

「だけどまあ、好都合ね。あなたにもきっと会いたがるだろうし、手間が省けたわ。」

 ヒカリとエルディナ、二人揃って顔を見合わせる。わざわざフィルラーナが間に立ってまで合わせようとする人物、そんなものに予想がつかなかったからだ。
 加えて次期当主であるエルディナはまだ分かるが、ヒカリに会いたがる人物ともなれば余計に想像がつかない。

「二人ともついて来なさい、どうせ暇でしょう?」

 そう言ってフィルラーナは立ち上がる。実際、二人はやる事がなくて部屋にいたわけで、フィルラーナの言った事は間違いではなかった。
 二人は大人しくフィルラーナについて行った。
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