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第十一章〜王子は誇りを胸へ〜

49.愛の果て

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 ニレアが死んでしまってからは、後はもう楽だった。
 洗脳はちゃんと全員解けたし、街への被害やら負傷者の数はかなりだが死者がほとんどいなかったのも良かった。恐らくこれなら、街も直ぐに日常へ戻れるだろう。
 エルディナ、フラン、スカイ、サティアの四人は教会で治療を受けている。そこまで深い傷ではなく、治るのも早そうだ。それでも放っておく事はできないから、俺も教会で待機している。

 一方で、アースは今、この領地を飛び回っている。アグラードル領の騎士を護衛に連れてだ。
 何が起きたのかを説明して、それについて謝罪しているらしい。アースが悪いわけじゃないと思うが、こういうのは国の責任であるそうだ。

 それと、やっぱりニレアの力は万能ではなかった。条件は分からないが、直接触られたけど無事な人もいたらしい。
 何より逃げに徹した強者をニレアは捕まえられなかった。アグラードルの有名な武人は異変を察知して洗脳から逃れて、他の無事な住民を保護していたそうだ。
 きっと彼らが敵に回っていたら、俺たちは負けていただろう。

「――こんな遅くまで起きていては、傷に響きますよ。」

 今日の出来事をぼーっと振り返っていると、そんな声が耳に入ってきた。
 ここは礼拝堂だ。病棟の隣には大体似たような礼拝堂があって、傷が早く治ることを神に祈るというのが慣習である。最近はやらない人も増えてきたけど。
 こんな夜遅くに礼拝堂にわざわざ来る奴は少ない。特に今は怪我人が大勢いて、人が病棟に集まっている。わざわざこっちに来る余裕のある人がいないだろう。

「グラデリメロス神父か。」
「ええ。私の仕事は一段落して、寝る前に神に祈りをと思いまして。」

 教会の司祭にして、冠位魔導医療科ロード・オブ・メディスンの座に就く男。グラデリメロスその人だった。
 この見た目と声でありながら回復魔法に長けるらしく、怪我人の治療をずっと手伝っていたはずだ。以前戦った事のある俺からすると、こんなににこやかに話しかけてくるだけで鳥肌が立つ。
 ヒカリはそういうのを知らないから普通に話してたけどな。

「……ヒカリさんは働き疲れて眠りました。あの子は良いですね。勤勉であり、純粋な心を持っている。それを大切にするように、是非お伝えください。」

 ヒカリは雑用を自ら買って出て、怪我人の治療を手伝っていた。グラデリメロスの言う通り、本当に良い子だ。だからこそ、絶対に元の世界に返さなくちゃならない。
 名も無き組織がその鍵を握っているとは思うのだが、情報を聞き出す機会がない。幹部連中はどいつも強過ぎて、生きて捕まえる程の余裕なんてない。

「分かった、伝えとくよ。」
「感謝します。貴方達は明日の早朝には街を発つようですからね。」

 ……それは、アースの判断である。明日は王選の最終演説の日だ。それに間に合わせるためにも、スカイを連れて王都に向かうらしい。
 延期にするべきと、俺は言った。スカイは重症だし、一度ここに安静させるべきだ。それにこんな一件があった翌日に演説なんかされても頭に入りづらいだろう。一旦、アグラードル領で数日は大人しくしたほうがいいはずだ。
 だけど、それでもあいつは予定通り進めることを選んだ。あいつが選んだんなら、それは止められない。デメリットとメリット、全てを理解した上での判断のはずだからだ。

「そう言えば、グラデリメロス神父は何故この街に?」
「クソったれの大罪者を殺しに来たに決まっています。ただ、今回はハズレでしたが。」

 そうか。そりゃそうか。凄く丁寧な口調だから忘れていたが、この人はそういう人だった。

「……言われた通り、俺はもう寝ることにするよ。」
「そうですか。それでは、貴方の行く先に神のご加護あらんことを願っています。」

 俺は立ち上がり、グラデリメロスの横を通り過ぎて礼拝堂を後にした。
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