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第十章~魔法使いと幸せの群島~
27.神の殺し方
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辺りは静まり返り、天使王の次の言葉を待つ。
「……ディーテ、ここに集まる天使に事情を説明する事を依頼する。あまり聞かせたい話ではない。」
「だろうな。私もそこは別に気になる事じゃない。頼まれてやろう。」
ディーテは天使王に言われたままに、神殿の外へと歩いていった。神殿内に残るのはヘルメスとお嬢様、天使王だ。
お嬢様は神の殺し方を聞いた。
ツクモでさえも封印が限界だったのだから、殺すなんて俺は考えた事もなかった。というか神って殺せるのだろうか。
「この世界において死亡した神は破壊神ただ一柱であり、殺した者も当然、ただ一人のみである。」
破壊神は創世の神から直接力を分けられた、万能の存在だ。ツクモと同じ神であっても次元が違う。正直言って倒せる気もしない。
しかし歴史上にはいたわけだ。神を殺した英雄が。
「神の力、神力によって神は依代と接続をしている。そうでなくては存在できないからだ。」
「つまり、依代との接続を解けば神は死ぬと?」
「肯定する。依代から剥がれた神は力の供給を得る事ができずに、存在が崩壊して死亡する。」
ヘルメスの言葉に天使王はそう答えた。
「依代は物体である必要はない。概念でも良い。神の力は依代の、概念的な強度に比例する。依代が持つ歴史や内包する情報量が高い程、その神の力は増加する。」
その点で考えるのなら、破壊神は相当に強かったのだろうと推測ができた。
破壊なんていう概念は遥か昔から存在するし、それに関わる出来事など多過ぎて数え切れない。情報量で考えても圧倒的だ。
「神は常に依代から神力の補給を受け続け、その内の一部分を用いて接続を果たしている。この補給量を上回る速度で神力を消費させる事により、接続を維持できなくなり神は依代から剥離される。」
お嬢様は何も言わずに話を聞く。何を考えているのかは、やはり俺にはサッパリ分からない。頭の出来が違う、と言う他ない気もする。
「これで問題はないか、フィルラーナ・フォン・リラーティナ。」
「……いえ、まだです。そもそも神は次元が違います。それを知った所で、神力を消費し尽くさせる事は不可能のはずです。『英雄王』ジン・アルカッセルは、どうやってそれを倒したというのですか?」
十大英雄の一人に数えられるジン・アルカッセルの偉業、神殺しは不可解な点が多過ぎる。それこそ真実かどうかを疑う研究者さえいる程だ。
そもそも、どうやって神の攻撃を喰らって生き延びたと言うのか。避けたとして、どうやって神を追い詰めたのか。そして何故神を逃す事なく仕留め切れたのか。
俺の中にいるツクモみたいな低級の神ならあり得るだろうが、創世の概念を軸とする破壊神じゃ不可能と言う他ない。
「……謝罪する。その質問に対する明確な回答を、当機は持ち合わせてはいない。」
期待していた回答は、天使王から返って来なかった。
「七十二柱の殆どが、破壊神と共に世界を侵攻した。戦力差は圧倒的であり、それはグレゼリオン王国以外の全ての国家が消滅した事からも証明されている。どう計算しても人類側の勝率はほぼゼロに近い。」
「神の手助けがあったのではないのですか?」
「支配神は傍観する神だ。力を貸す事はあっても、直接的な介入は絶対に行わない。」
その話を聞けば余計に、何故勝てたのかが分からない。
『英雄王』『騎士王』『覇王』。当時には十代英雄が三人もいた。それを計算に入れても尚、勝てないと天使王はそもそも考えていたのだ。
「こればかりは、奇跡が起きたとしか当機は表現できない。人は神の手助けなく、自らの力のみで世界を救い出したのだ。」
一体、どんな確率だと言うのだろう。そんな絶望の状況下でありながら、何故多くの英雄が立ち上がれたのだろう。
師匠や学園長に聞けば、分かるのだろうか。しかし聞いてはいけないような気もした。
「……ありがとうございました、天使王。それでは我々は帰ります。今回の一件を、国に報告しなければなりません。」
「承知した。それならば当機が送り出そう。」
天使王がそう言うと、俺たち三人の足元が光り始める。
きっと転移させてくれるのだろう。
「偉大なる勇士に祝福と敬意を。当機の実行範囲であれば。また力を貸そう。」
それが最後の言葉となって、視界は光に包まれた。
アルス達が帰った後の神殿は、静寂に満ちていた。さっきまでの闘争が嘘のようである。
その神殿の中には、天使王セラフィムとディーテのたった二人だけが残った。
「気付いていたのか?」
「何をだ、主語がなくては分からん。」
「フィルラーナ・フォン・リラーティナの事だ。」
ディーテは頷く。天使王は眉一つ動かす事はないが、ディーテから決して目線を逸らす事はない。
「運命神の寵愛を賜った子がいる事は、データとして所持していた。しかし、そんな事になっているとは想定していなかった。」
「……随分と、遠くまで見えたらしいな。」
「寵愛は呪いに等しい。太陽神の寵愛を賜った子は、その身を火に焦がれ続ける。だというのにフィルラーナは平然としていた。考えられる可能性は二つ、そして高確率でその内の一つだ。」
天使王は機械の体が故に表情を変えることはない。そんな無駄な機能は搭載されていない。
それでも――何かを恐れているような雰囲気だけはあった。
「ディーテ、フィルラーナを守護する事は可能か?」
「支配神の方針は人に関与しない、じゃなかったか?」
「それは支配神の方針であって、神々や天使の方針とは異なる。何より、頼むだけなら関与した事にはならない。」
そうか、とディーテは言った。天使王に背を向け、神殿の入り口の方へと足を進める。
「意識だけはしておこう。仮にも、元は上司だ。」
「感謝する。」
「気にするな。世界を守るのは、今の上司の考えと合致する。」
そうしてディーテも、天界を去った。
「……ディーテ、ここに集まる天使に事情を説明する事を依頼する。あまり聞かせたい話ではない。」
「だろうな。私もそこは別に気になる事じゃない。頼まれてやろう。」
ディーテは天使王に言われたままに、神殿の外へと歩いていった。神殿内に残るのはヘルメスとお嬢様、天使王だ。
お嬢様は神の殺し方を聞いた。
ツクモでさえも封印が限界だったのだから、殺すなんて俺は考えた事もなかった。というか神って殺せるのだろうか。
「この世界において死亡した神は破壊神ただ一柱であり、殺した者も当然、ただ一人のみである。」
破壊神は創世の神から直接力を分けられた、万能の存在だ。ツクモと同じ神であっても次元が違う。正直言って倒せる気もしない。
しかし歴史上にはいたわけだ。神を殺した英雄が。
「神の力、神力によって神は依代と接続をしている。そうでなくては存在できないからだ。」
「つまり、依代との接続を解けば神は死ぬと?」
「肯定する。依代から剥がれた神は力の供給を得る事ができずに、存在が崩壊して死亡する。」
ヘルメスの言葉に天使王はそう答えた。
「依代は物体である必要はない。概念でも良い。神の力は依代の、概念的な強度に比例する。依代が持つ歴史や内包する情報量が高い程、その神の力は増加する。」
その点で考えるのなら、破壊神は相当に強かったのだろうと推測ができた。
破壊なんていう概念は遥か昔から存在するし、それに関わる出来事など多過ぎて数え切れない。情報量で考えても圧倒的だ。
「神は常に依代から神力の補給を受け続け、その内の一部分を用いて接続を果たしている。この補給量を上回る速度で神力を消費させる事により、接続を維持できなくなり神は依代から剥離される。」
お嬢様は何も言わずに話を聞く。何を考えているのかは、やはり俺にはサッパリ分からない。頭の出来が違う、と言う他ない気もする。
「これで問題はないか、フィルラーナ・フォン・リラーティナ。」
「……いえ、まだです。そもそも神は次元が違います。それを知った所で、神力を消費し尽くさせる事は不可能のはずです。『英雄王』ジン・アルカッセルは、どうやってそれを倒したというのですか?」
十大英雄の一人に数えられるジン・アルカッセルの偉業、神殺しは不可解な点が多過ぎる。それこそ真実かどうかを疑う研究者さえいる程だ。
そもそも、どうやって神の攻撃を喰らって生き延びたと言うのか。避けたとして、どうやって神を追い詰めたのか。そして何故神を逃す事なく仕留め切れたのか。
俺の中にいるツクモみたいな低級の神ならあり得るだろうが、創世の概念を軸とする破壊神じゃ不可能と言う他ない。
「……謝罪する。その質問に対する明確な回答を、当機は持ち合わせてはいない。」
期待していた回答は、天使王から返って来なかった。
「七十二柱の殆どが、破壊神と共に世界を侵攻した。戦力差は圧倒的であり、それはグレゼリオン王国以外の全ての国家が消滅した事からも証明されている。どう計算しても人類側の勝率はほぼゼロに近い。」
「神の手助けがあったのではないのですか?」
「支配神は傍観する神だ。力を貸す事はあっても、直接的な介入は絶対に行わない。」
その話を聞けば余計に、何故勝てたのかが分からない。
『英雄王』『騎士王』『覇王』。当時には十代英雄が三人もいた。それを計算に入れても尚、勝てないと天使王はそもそも考えていたのだ。
「こればかりは、奇跡が起きたとしか当機は表現できない。人は神の手助けなく、自らの力のみで世界を救い出したのだ。」
一体、どんな確率だと言うのだろう。そんな絶望の状況下でありながら、何故多くの英雄が立ち上がれたのだろう。
師匠や学園長に聞けば、分かるのだろうか。しかし聞いてはいけないような気もした。
「……ありがとうございました、天使王。それでは我々は帰ります。今回の一件を、国に報告しなければなりません。」
「承知した。それならば当機が送り出そう。」
天使王がそう言うと、俺たち三人の足元が光り始める。
きっと転移させてくれるのだろう。
「偉大なる勇士に祝福と敬意を。当機の実行範囲であれば。また力を貸そう。」
それが最後の言葉となって、視界は光に包まれた。
アルス達が帰った後の神殿は、静寂に満ちていた。さっきまでの闘争が嘘のようである。
その神殿の中には、天使王セラフィムとディーテのたった二人だけが残った。
「気付いていたのか?」
「何をだ、主語がなくては分からん。」
「フィルラーナ・フォン・リラーティナの事だ。」
ディーテは頷く。天使王は眉一つ動かす事はないが、ディーテから決して目線を逸らす事はない。
「運命神の寵愛を賜った子がいる事は、データとして所持していた。しかし、そんな事になっているとは想定していなかった。」
「……随分と、遠くまで見えたらしいな。」
「寵愛は呪いに等しい。太陽神の寵愛を賜った子は、その身を火に焦がれ続ける。だというのにフィルラーナは平然としていた。考えられる可能性は二つ、そして高確率でその内の一つだ。」
天使王は機械の体が故に表情を変えることはない。そんな無駄な機能は搭載されていない。
それでも――何かを恐れているような雰囲気だけはあった。
「ディーテ、フィルラーナを守護する事は可能か?」
「支配神の方針は人に関与しない、じゃなかったか?」
「それは支配神の方針であって、神々や天使の方針とは異なる。何より、頼むだけなら関与した事にはならない。」
そうか、とディーテは言った。天使王に背を向け、神殿の入り口の方へと足を進める。
「意識だけはしておこう。仮にも、元は上司だ。」
「感謝する。」
「気にするな。世界を守るのは、今の上司の考えと合致する。」
そうしてディーテも、天界を去った。
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