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第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜
15.封印の魔道具
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カラディラが仲介に入ったことによって、取り敢えずは開放されて宮殿の外に移動した。
しかし見張りがついた上で行動に少し制限がつくことになったのは、間違いなくこれからの行動に対して不便な点だ。
「ふーん、人の街ってこんなに狭苦しい感じなのね。」
ただ、カラディラが同行する事になったのは嬉しいことではある。
翼とか尻尾だとかは仕舞えるらしいので、そうすれば肌の色が少し青っぽい以外に目立つ要素はなかった。
「……そこの竜族の方、お分かりだとは思いますが、勝手な行動を控えるように。」
「あっそ、善処するわ。」
門前で小言を挟む門番の言葉を軽く流して、カラディラは王宮を背に歩き始めた。門番は青筋を立てるけども、流石にカラディラの発言に責任を取っていたらキリがないので無視をした。
それよりも今、重要なのは情報と準備である。カリティに関する情報が少しでも欲しいし、何より勝つ為の策を練らなければならない。
「カラディラを含めれば、全員で七人か。流石にちょっと人数を分けよう。」
ヘルメスがそう提案する。確かに七人固まって行動するのは効率が悪いし、動きづらいし反対する理由もなかった。
そうして、一つ目のグループがフラン、カラディラ、ティルーナ、デメテル。もう一つが俺、ヘルメス、ヒカリという風になった。
カラディラの制御にフランが必要で、そのフランの制御にデメテルさんが必要で、デメテルさんにはティルーナが同行するからという風にトントン拍子で決まった。
その後は泊まる宿屋を決めて、俺達は二手に分かれて行動を始めた。
「ぶっちゃけ、相手がどんな見た目をしてるかすら分からないし、取り敢えずは戦力を充実させていこう。良い魔道具を探したりとかね。」
「わかったッス。」
「俺も異論はない。」
ヘルメスの提案に従い、俺達は準備の方に注力する事を決めた。
カリティの絶対防御、アレは魔法的な物では決してない。結界ではないから結界特攻とか、結界内に転移して攻撃とかも意味はない。
感覚としては全身に滅茶苦茶軽くて薄っぺらいけど絶対に壊れない鎧を着ている、という感じだ。
しかし活路があるとするなら、衝撃は伝わるという点だ。いくら硬度の高い物であっても質量を持ってこの世界にいるのだから、基本原則である物理法則から逃れるのは容易ではない。
一番現実的な手段としては生き埋めだ。地中の奥深くに生きたまま沈めれば、いくら死なないと言っても動く事が出来なくなるだろう。
次点で毒ガスだが、周辺への影響が強過ぎる。風魔法で多少の制御はできるが、危険性が高いしまずない。
どちらにせよ封印系が効力が高そうではあるので、そこら辺を探している。だけど実用性低いというか、普通使わない魔道具だから売ってないんだよなあ。
「せんぱーい、この店にはなさそうッスよ。」
「……マジかぁ。ここまで来れば自作した方が早そうな気がしてきたな。」
鬼人の国では魔道具店そのものが少ないから、更にその中から希少な封印系の魔道具を探していると本当に骨が折れる。
だけど封印なんて構造もよく分からないものを自作するのはちょっと、という感じではある。更に言うなれば魔道具の作成は元々専門じゃないから、カリティを相手に有効な自信があまりない。
「そう言えば、ヘルメスはどこにいったんだ?」
「魔石を買いに行くって言ってったッス。」
「買い足しに行ったのか。確か持ってる道具は自作が多いんだっけ。」
封印の魔道具の作成をヘルメスに頼むのはアリだ。少なくとも俺が作るよりかはマシだろう。
それに折角デメテルさんもいるのだから、共同で作ってもいいはずだ。
「……外でヘルメスを探すか。もうこれ以上、魔道具屋を探しても仕方ない。」
「本当に先輩って魔道具が好きッスね。行く先々で漁ってる気がするッス。」
「そこそこだよ。基本的には生活に役立つものしか買わないしな。」
戦闘用の魔道具なんて俺のスタイルには不要だから、余計に生活に使うものだけが増えていく。
「例えばどんな物があるんスか?」
「半自動爪切り、金属探知指輪、しつこい油汚れを落とせるキューブ、ペンより軽い物を運んでくれるゴーレム……まあ、そんな感じ?」
「微妙な物ばっかりッスね。」
「俺もそう思う。」
だけど、どれも使い時がある。魔法とはそもそもこういうものであるべきだ。人の生活を豊かにして、より楽に暮らせるようにする事にこそ価値がある。
俺が使うような攻撃魔法が今は花形とされているが、愛されるべきはそういう魔術である。
「そう言えば、先輩の持ってる本も魔道具なんスか?」
「本……ああ、無題の魔法書のことか。」
俺は宙から掴むようにして一冊の本を手元に呼び出す。十年前からずっと見た目は変わらない。
「これも、一応は魔道具だよ。だけど神の武器に対抗するべく作られた、人の魔道具の極地だ。ただの魔道具とは次元が異なる。」
これが作られたのは数百年前、しかし今でも千魔人器という最上の魔道具の一つとして扱われ続けている。それは人器を超える武具が全くと言っていいほど生まれていないからに他ならない。
「『神匠』クラウスター・グリルが作り出した人器の一つ、その効果は条件さえ揃えば容易に街なんて滅ぼせる。」
「そんなに凄いものなんスね。」
「これはまだ弱い人器だけどな。あくまで無題の魔法書の強みは魔法の補助、俺が強くなきゃ最大のパフォーマンスを発揮しない。」
実際、バハムートは個として完成された人器だった。単騎で国を、街を滅ぼせる程の破壊能力とそれを動かす炉心、自動術式、どれを取っても完成された物であるという事に違いはない。
それに比べれば、無題の魔法書は大した事はない。何せ直接攻撃なんかはできないし、これ単体では効力を発揮しないのだから。
「効果は四つ。一つ目は俺の魂に接続する事によって、俺の意志一つで全ての動きを可能にするという事。二つ目は空間魔法で収納から取り出しまでを行える事。三つ目に俺の魔法制御の補助。最後に魔法の保存だ。」
この四つを全て持っているというのが、無題の魔法書が強い理由であろう。メインの能力としては魔法の保存であるが、他の能力も使い勝手が良い。
「魔法は保存さえすれば、イメージをせずとも魔力を注ぎ込んで制御するだけで良い。これの強い所は希少属性であろうが複雑な魔法であろうが即座に発動ができるって所だ。だから何人もの魔法使いの手に渡る度に強くなっていく人器でもある。」
まあ、ちょっと保存に手間がかかるから俺はまだ保存はしていないけど。
便利であるとは分かっているのだが、どうしても魔法の鍛錬をする方を優先してしまって後回しになってしまう。
「封印の魔法は保存されてないんスか?」
「ちょっと専門的過ぎて、流石に乗ってないな。戦闘系の魔法使いは封印魔法なんて習得しないし。」
結局、今回は無題の魔法書が役に立つ事はないだろう。強力な力であっても、全てができるわけではない、というのが世界の難しい所だ。
世の中の力にも種類がある。魔法だってそうだ。破壊に長けた力と、守るのに長けた力、縛り付けるのに長けた力、移動するのに長けた力。それぞれのスペシャリストがいて、一つを極めれば他に手は回らなくなってしまう。
この世に万能の魔法使いは存在しない。それは悠久の魔女オーディンも、精霊王である師匠でさえも例外ではない。
「そういう意味では、ヘルメスは例外中の例外だよ。」
あいつは何でも広く浅くできる。何かのスペシャリストには決してなれないが、何でもできるという意味での専門家だ。
何であんな戦い方を選んだのか、正直言って俺には理解できない。
しかし見張りがついた上で行動に少し制限がつくことになったのは、間違いなくこれからの行動に対して不便な点だ。
「ふーん、人の街ってこんなに狭苦しい感じなのね。」
ただ、カラディラが同行する事になったのは嬉しいことではある。
翼とか尻尾だとかは仕舞えるらしいので、そうすれば肌の色が少し青っぽい以外に目立つ要素はなかった。
「……そこの竜族の方、お分かりだとは思いますが、勝手な行動を控えるように。」
「あっそ、善処するわ。」
門前で小言を挟む門番の言葉を軽く流して、カラディラは王宮を背に歩き始めた。門番は青筋を立てるけども、流石にカラディラの発言に責任を取っていたらキリがないので無視をした。
それよりも今、重要なのは情報と準備である。カリティに関する情報が少しでも欲しいし、何より勝つ為の策を練らなければならない。
「カラディラを含めれば、全員で七人か。流石にちょっと人数を分けよう。」
ヘルメスがそう提案する。確かに七人固まって行動するのは効率が悪いし、動きづらいし反対する理由もなかった。
そうして、一つ目のグループがフラン、カラディラ、ティルーナ、デメテル。もう一つが俺、ヘルメス、ヒカリという風になった。
カラディラの制御にフランが必要で、そのフランの制御にデメテルさんが必要で、デメテルさんにはティルーナが同行するからという風にトントン拍子で決まった。
その後は泊まる宿屋を決めて、俺達は二手に分かれて行動を始めた。
「ぶっちゃけ、相手がどんな見た目をしてるかすら分からないし、取り敢えずは戦力を充実させていこう。良い魔道具を探したりとかね。」
「わかったッス。」
「俺も異論はない。」
ヘルメスの提案に従い、俺達は準備の方に注力する事を決めた。
カリティの絶対防御、アレは魔法的な物では決してない。結界ではないから結界特攻とか、結界内に転移して攻撃とかも意味はない。
感覚としては全身に滅茶苦茶軽くて薄っぺらいけど絶対に壊れない鎧を着ている、という感じだ。
しかし活路があるとするなら、衝撃は伝わるという点だ。いくら硬度の高い物であっても質量を持ってこの世界にいるのだから、基本原則である物理法則から逃れるのは容易ではない。
一番現実的な手段としては生き埋めだ。地中の奥深くに生きたまま沈めれば、いくら死なないと言っても動く事が出来なくなるだろう。
次点で毒ガスだが、周辺への影響が強過ぎる。風魔法で多少の制御はできるが、危険性が高いしまずない。
どちらにせよ封印系が効力が高そうではあるので、そこら辺を探している。だけど実用性低いというか、普通使わない魔道具だから売ってないんだよなあ。
「せんぱーい、この店にはなさそうッスよ。」
「……マジかぁ。ここまで来れば自作した方が早そうな気がしてきたな。」
鬼人の国では魔道具店そのものが少ないから、更にその中から希少な封印系の魔道具を探していると本当に骨が折れる。
だけど封印なんて構造もよく分からないものを自作するのはちょっと、という感じではある。更に言うなれば魔道具の作成は元々専門じゃないから、カリティを相手に有効な自信があまりない。
「そう言えば、ヘルメスはどこにいったんだ?」
「魔石を買いに行くって言ってったッス。」
「買い足しに行ったのか。確か持ってる道具は自作が多いんだっけ。」
封印の魔道具の作成をヘルメスに頼むのはアリだ。少なくとも俺が作るよりかはマシだろう。
それに折角デメテルさんもいるのだから、共同で作ってもいいはずだ。
「……外でヘルメスを探すか。もうこれ以上、魔道具屋を探しても仕方ない。」
「本当に先輩って魔道具が好きッスね。行く先々で漁ってる気がするッス。」
「そこそこだよ。基本的には生活に役立つものしか買わないしな。」
戦闘用の魔道具なんて俺のスタイルには不要だから、余計に生活に使うものだけが増えていく。
「例えばどんな物があるんスか?」
「半自動爪切り、金属探知指輪、しつこい油汚れを落とせるキューブ、ペンより軽い物を運んでくれるゴーレム……まあ、そんな感じ?」
「微妙な物ばっかりッスね。」
「俺もそう思う。」
だけど、どれも使い時がある。魔法とはそもそもこういうものであるべきだ。人の生活を豊かにして、より楽に暮らせるようにする事にこそ価値がある。
俺が使うような攻撃魔法が今は花形とされているが、愛されるべきはそういう魔術である。
「そう言えば、先輩の持ってる本も魔道具なんスか?」
「本……ああ、無題の魔法書のことか。」
俺は宙から掴むようにして一冊の本を手元に呼び出す。十年前からずっと見た目は変わらない。
「これも、一応は魔道具だよ。だけど神の武器に対抗するべく作られた、人の魔道具の極地だ。ただの魔道具とは次元が異なる。」
これが作られたのは数百年前、しかし今でも千魔人器という最上の魔道具の一つとして扱われ続けている。それは人器を超える武具が全くと言っていいほど生まれていないからに他ならない。
「『神匠』クラウスター・グリルが作り出した人器の一つ、その効果は条件さえ揃えば容易に街なんて滅ぼせる。」
「そんなに凄いものなんスね。」
「これはまだ弱い人器だけどな。あくまで無題の魔法書の強みは魔法の補助、俺が強くなきゃ最大のパフォーマンスを発揮しない。」
実際、バハムートは個として完成された人器だった。単騎で国を、街を滅ぼせる程の破壊能力とそれを動かす炉心、自動術式、どれを取っても完成された物であるという事に違いはない。
それに比べれば、無題の魔法書は大した事はない。何せ直接攻撃なんかはできないし、これ単体では効力を発揮しないのだから。
「効果は四つ。一つ目は俺の魂に接続する事によって、俺の意志一つで全ての動きを可能にするという事。二つ目は空間魔法で収納から取り出しまでを行える事。三つ目に俺の魔法制御の補助。最後に魔法の保存だ。」
この四つを全て持っているというのが、無題の魔法書が強い理由であろう。メインの能力としては魔法の保存であるが、他の能力も使い勝手が良い。
「魔法は保存さえすれば、イメージをせずとも魔力を注ぎ込んで制御するだけで良い。これの強い所は希少属性であろうが複雑な魔法であろうが即座に発動ができるって所だ。だから何人もの魔法使いの手に渡る度に強くなっていく人器でもある。」
まあ、ちょっと保存に手間がかかるから俺はまだ保存はしていないけど。
便利であるとは分かっているのだが、どうしても魔法の鍛錬をする方を優先してしまって後回しになってしまう。
「封印の魔法は保存されてないんスか?」
「ちょっと専門的過ぎて、流石に乗ってないな。戦闘系の魔法使いは封印魔法なんて習得しないし。」
結局、今回は無題の魔法書が役に立つ事はないだろう。強力な力であっても、全てができるわけではない、というのが世界の難しい所だ。
世の中の力にも種類がある。魔法だってそうだ。破壊に長けた力と、守るのに長けた力、縛り付けるのに長けた力、移動するのに長けた力。それぞれのスペシャリストがいて、一つを極めれば他に手は回らなくなってしまう。
この世に万能の魔法使いは存在しない。それは悠久の魔女オーディンも、精霊王である師匠でさえも例外ではない。
「そういう意味では、ヘルメスは例外中の例外だよ。」
あいつは何でも広く浅くできる。何かのスペシャリストには決してなれないが、何でもできるという意味での専門家だ。
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