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第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜
4.四大覇者
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フランの案内によって、俺達は選手の控室に場所を移した。
「試合が終わった直ぐ後なのに、随分と元気だな。」
「いや、そうでもない。闘気は使い切ってしまったから、今の俺は殆ど一般人と同じだ。」
「嘘つけ。それでも十分強いだろうが。」
フラン自身は色々言うが外傷はないし、疲れた感じの表情でさえ表に出ない。
「事実、あれで決着が着かず、仕切り直されたら俺の負けだった。鍛錬が足りない。」
「相変わらず向上心の塊だな。勝ちは勝ちでいいだろうに。」
勝ったんだから素直に喜べばいいし、誇ればいい。反省なんてものはその後でいくらでもできる。
その姿勢がフランらしさと言えばそこまでではあるが、もう少し羽目を外した方が良い息抜きになると俺は思っている。
「見覚えがあると思えば、アルスの同世代の、あの化け物剣士か。部門が違うのに仲が良かったんだね。」
「何だこの胡散臭い男は。」
「僕の顔ってそんなに胡散臭いかい!?」
そう言ってヘルメスは手鏡を取り出して、自分の顔とにらめっこを始めた。
顔も確かにあると思うが、やはり話し方とか態度にそんな風に感じてしまうのだろう。特にフランは勘が鋭いから余計にだ。
「……アルス、お前は相変わらずだな。」
「相変わらずって?」
「信頼に足る仲間を連れている。人を引き付ける才と言ってもいい。」
信頼に足る、確かにそれは間違いではなかった。何だかんだ言って俺はヘルメスを信用している。だからこうやって、わざわざヒカリを連れてついてきたわけだ。
それに俺が仲間に恵まれているのもまた、確かである。仲間がいなければ、既に何度も死んでいたことだろう。
「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ。」
「俺はこの国で一番強い剣闘士になった。それでもまだ足りない。再び修練を重ねるつもりだ。」
「皇国最強の剣闘士を倒した程度では不服か?」
「いや、確かに嬉しい事ではあるが、ジフェニルは皇国最強と言うわけではない。何よりこの国には――」
フランは天井を、いや、その先に広がる空を見た。
「竜がいる。」
この国の守護の要、攻撃の要。この世で最も優れた種族と謳われる竜。
あれほどの腕前の剣士だ。ジフェニルとて竜に遅れは取らないだろう。しかしそれは、戦闘に特化していない個体に限る。
人の中でも強弱があるように、当然竜の中でも強弱が存在する。その個体にはジフェニルは、いや俺でもフランでさえも勝てはしない。
竜と渡り合うには、まだ一つ格が足りない。
「更にその上に、四大覇者が存在する。それを超えるのが、今の俺の目標だ。」
「四大覇者……先輩、知ってるんスか?」
「俺は知らんが、多分ヘルメスが知ってるだろ。おい、いつまでもしょぼくれてないで会話に混ざれ。」
俺がそう言うと、ヘルメスは不満な顔をしながら話し始める。
「……四大覇者っていうのは、世界最強クラスの力を持つ四人のことだよ。厳密には五人、かな。一人はもう生きてるか死んでるかもわからないから数に含まれてないだけで。」
「俺は聞いたことがないんだが、それって有名な呼び方なのか?」
「アルスが興味がないだけさ。冒険者だとか、武人の間ではそこそこ有名だよ。」
世界最強。何人か名前は上がるが、それを四人に絞る事はできない。どっちが戦えば強い、なんてものを理解するには俺は未だ弱すぎるのもある。
「一人がうちのクランマスター、『放浪の王』ゼウス。もう一人が精霊王。そして王国総騎士団長、『神域』のオルグラー。最後は最強の剣士、『無剣』のエーテル。さっき言った生死不明のやつは、魔法使いらしいんだけど禁術に触れたとかで、今は全く姿を見せてない。」
最後を除いて全員、聞いたことがある名前だ。そして同時に納得もする。どれもが評判通りなら、名も無き組織の幹部にも劣ることは決してないだろう。
「本命は、エーテルか。」
「ああ。究極の剣を得るためには、避けては通れない道だ。」
世界最強の剣士を越える。全ての剣士の目標であり、その大半が届けない至高の領域だ。それを夢ではなく目標として語れるのが、フランの意志の強さを如実に表していた。
そうこう話している内に、突然とドアが開いた。ノックの音も聞こえない。
ただ、選手の控室に入って来れる人なんてのは数が限られているものであり、大して驚きもしない人物であった。
「友人と話しとる途中やったか。邪魔するわ。」
それはさっきまでフランと戦っていた男、ジフェニルであった。体には包帯を巻いており、見るからにまだ安静にしていなくてはならない状態である。
「オイラが言いたい事は少しだけや。ちょっと時間もらってええか?」
ジフェニルの言葉に、フランは俺たちの方への視線を向ける。俺は構わないという風に首を縦に振った。
「構わない。」
「おおきに。」
フランにそう言われて、ジフェニルはフランの方へ向き直る。
「今日はほんとに良い試合やった。負けたのは悔しいけど、それはオイラが弱かったってことや。今度はオイラが勝つ。その為に鍛え直すつもりや。」
「……そうか。」
「だから一年後にまた、この闘技場で戦ってくれへんか。」
ジフェニルの目は、負けて尚滾り続けていた。どうやって次は勝とうか、何が足りなかったかを必死に考えている目をしていた。
これ程に剣を使いこなせるのだ。フランに負けず劣らず剣を振ってきたのだろう。それでも負けてしまった。リベンジマッチを要求するのは自然な事である。
「分かった、受けよう。」
「恩に切る。それじゃ、邪魔したで。」
ジフェニルはそう言って直ぐに部屋を去っていった。
本当にこれを言う為だけに来たらしい。やはり武人というのは気難しいというか、どこまでも真っ直ぐな人が多い。
「ジフェニルとは、仲がいいのか?」
「そこそこに話す事はある。情に熱く良い男だ。俺が困っていた時にも相談に乗ってくれた。」
確かに見ててそんな感じはする。威圧感のある見た目の割には、物腰も柔らかく、負けた相手にも明るく接する。きっとチャンピオンでなかったとしても、人気のある剣闘士になっていたはずだ。
「……俺としては、この状況で一区切りついた。当分は暇だ。折角だからお前らの依頼を案内してやろうか?」
「本当かい。僕も下調べはしているけど、あまり詳しくはないから、土地勘がある人がいるのは助かるよ。」
「……そうか。なら、良かった。ついでに聞いて良いか?」
神妙そうな顔でフランは尋ねる。
「お前の名前は何だ。」
自己紹介をしていない事を、俺達は今更ながら思い出した。
「試合が終わった直ぐ後なのに、随分と元気だな。」
「いや、そうでもない。闘気は使い切ってしまったから、今の俺は殆ど一般人と同じだ。」
「嘘つけ。それでも十分強いだろうが。」
フラン自身は色々言うが外傷はないし、疲れた感じの表情でさえ表に出ない。
「事実、あれで決着が着かず、仕切り直されたら俺の負けだった。鍛錬が足りない。」
「相変わらず向上心の塊だな。勝ちは勝ちでいいだろうに。」
勝ったんだから素直に喜べばいいし、誇ればいい。反省なんてものはその後でいくらでもできる。
その姿勢がフランらしさと言えばそこまでではあるが、もう少し羽目を外した方が良い息抜きになると俺は思っている。
「見覚えがあると思えば、アルスの同世代の、あの化け物剣士か。部門が違うのに仲が良かったんだね。」
「何だこの胡散臭い男は。」
「僕の顔ってそんなに胡散臭いかい!?」
そう言ってヘルメスは手鏡を取り出して、自分の顔とにらめっこを始めた。
顔も確かにあると思うが、やはり話し方とか態度にそんな風に感じてしまうのだろう。特にフランは勘が鋭いから余計にだ。
「……アルス、お前は相変わらずだな。」
「相変わらずって?」
「信頼に足る仲間を連れている。人を引き付ける才と言ってもいい。」
信頼に足る、確かにそれは間違いではなかった。何だかんだ言って俺はヘルメスを信用している。だからこうやって、わざわざヒカリを連れてついてきたわけだ。
それに俺が仲間に恵まれているのもまた、確かである。仲間がいなければ、既に何度も死んでいたことだろう。
「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ。」
「俺はこの国で一番強い剣闘士になった。それでもまだ足りない。再び修練を重ねるつもりだ。」
「皇国最強の剣闘士を倒した程度では不服か?」
「いや、確かに嬉しい事ではあるが、ジフェニルは皇国最強と言うわけではない。何よりこの国には――」
フランは天井を、いや、その先に広がる空を見た。
「竜がいる。」
この国の守護の要、攻撃の要。この世で最も優れた種族と謳われる竜。
あれほどの腕前の剣士だ。ジフェニルとて竜に遅れは取らないだろう。しかしそれは、戦闘に特化していない個体に限る。
人の中でも強弱があるように、当然竜の中でも強弱が存在する。その個体にはジフェニルは、いや俺でもフランでさえも勝てはしない。
竜と渡り合うには、まだ一つ格が足りない。
「更にその上に、四大覇者が存在する。それを超えるのが、今の俺の目標だ。」
「四大覇者……先輩、知ってるんスか?」
「俺は知らんが、多分ヘルメスが知ってるだろ。おい、いつまでもしょぼくれてないで会話に混ざれ。」
俺がそう言うと、ヘルメスは不満な顔をしながら話し始める。
「……四大覇者っていうのは、世界最強クラスの力を持つ四人のことだよ。厳密には五人、かな。一人はもう生きてるか死んでるかもわからないから数に含まれてないだけで。」
「俺は聞いたことがないんだが、それって有名な呼び方なのか?」
「アルスが興味がないだけさ。冒険者だとか、武人の間ではそこそこ有名だよ。」
世界最強。何人か名前は上がるが、それを四人に絞る事はできない。どっちが戦えば強い、なんてものを理解するには俺は未だ弱すぎるのもある。
「一人がうちのクランマスター、『放浪の王』ゼウス。もう一人が精霊王。そして王国総騎士団長、『神域』のオルグラー。最後は最強の剣士、『無剣』のエーテル。さっき言った生死不明のやつは、魔法使いらしいんだけど禁術に触れたとかで、今は全く姿を見せてない。」
最後を除いて全員、聞いたことがある名前だ。そして同時に納得もする。どれもが評判通りなら、名も無き組織の幹部にも劣ることは決してないだろう。
「本命は、エーテルか。」
「ああ。究極の剣を得るためには、避けては通れない道だ。」
世界最強の剣士を越える。全ての剣士の目標であり、その大半が届けない至高の領域だ。それを夢ではなく目標として語れるのが、フランの意志の強さを如実に表していた。
そうこう話している内に、突然とドアが開いた。ノックの音も聞こえない。
ただ、選手の控室に入って来れる人なんてのは数が限られているものであり、大して驚きもしない人物であった。
「友人と話しとる途中やったか。邪魔するわ。」
それはさっきまでフランと戦っていた男、ジフェニルであった。体には包帯を巻いており、見るからにまだ安静にしていなくてはならない状態である。
「オイラが言いたい事は少しだけや。ちょっと時間もらってええか?」
ジフェニルの言葉に、フランは俺たちの方への視線を向ける。俺は構わないという風に首を縦に振った。
「構わない。」
「おおきに。」
フランにそう言われて、ジフェニルはフランの方へ向き直る。
「今日はほんとに良い試合やった。負けたのは悔しいけど、それはオイラが弱かったってことや。今度はオイラが勝つ。その為に鍛え直すつもりや。」
「……そうか。」
「だから一年後にまた、この闘技場で戦ってくれへんか。」
ジフェニルの目は、負けて尚滾り続けていた。どうやって次は勝とうか、何が足りなかったかを必死に考えている目をしていた。
これ程に剣を使いこなせるのだ。フランに負けず劣らず剣を振ってきたのだろう。それでも負けてしまった。リベンジマッチを要求するのは自然な事である。
「分かった、受けよう。」
「恩に切る。それじゃ、邪魔したで。」
ジフェニルはそう言って直ぐに部屋を去っていった。
本当にこれを言う為だけに来たらしい。やはり武人というのは気難しいというか、どこまでも真っ直ぐな人が多い。
「ジフェニルとは、仲がいいのか?」
「そこそこに話す事はある。情に熱く良い男だ。俺が困っていた時にも相談に乗ってくれた。」
確かに見ててそんな感じはする。威圧感のある見た目の割には、物腰も柔らかく、負けた相手にも明るく接する。きっとチャンピオンでなかったとしても、人気のある剣闘士になっていたはずだ。
「……俺としては、この状況で一区切りついた。当分は暇だ。折角だからお前らの依頼を案内してやろうか?」
「本当かい。僕も下調べはしているけど、あまり詳しくはないから、土地勘がある人がいるのは助かるよ。」
「……そうか。なら、良かった。ついでに聞いて良いか?」
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