上 下
245 / 435
第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜

4.四大覇者

しおりを挟む
 フランの案内によって、俺達は選手の控室に場所を移した。

「試合が終わった直ぐ後なのに、随分と元気だな。」
「いや、そうでもない。闘気は使い切ってしまったから、今の俺は殆ど一般人と同じだ。」
「嘘つけ。それでも十分強いだろうが。」

 フラン自身は色々言うが外傷はないし、疲れた感じの表情でさえ表に出ない。

「事実、あれで決着が着かず、仕切り直されたら俺の負けだった。鍛錬が足りない。」
「相変わらず向上心の塊だな。勝ちは勝ちでいいだろうに。」

 勝ったんだから素直に喜べばいいし、誇ればいい。反省なんてものはその後でいくらでもできる。
 その姿勢がフランらしさと言えばそこまでではあるが、もう少し羽目を外した方が良い息抜きになると俺は思っている。

「見覚えがあると思えば、アルスの同世代の、あの化け物剣士か。部門が違うのに仲が良かったんだね。」
「何だこの胡散臭い男は。」
「僕の顔ってそんなに胡散臭いかい!?」

 そう言ってヘルメスは手鏡を取り出して、自分の顔とにらめっこを始めた。
 顔も確かにあると思うが、やはり話し方とか態度にそんな風に感じてしまうのだろう。特にフランは勘が鋭いから余計にだ。

「……アルス、お前は相変わらずだな。」
「相変わらずって?」
「信頼に足る仲間を連れている。人を引き付ける才と言ってもいい。」

 信頼に足る、確かにそれは間違いではなかった。何だかんだ言って俺はヘルメスを信用している。だからこうやって、わざわざヒカリを連れてついてきたわけだ。
 それに俺が仲間に恵まれているのもまた、確かである。仲間がいなければ、既に何度も死んでいたことだろう。

「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ。」
「俺はこの国で一番強い剣闘士になった。それでもまだ足りない。再び修練を重ねるつもりだ。」
「皇国最強の剣闘士を倒した程度では不服か?」
「いや、確かに嬉しい事ではあるが、ジフェニルは皇国最強と言うわけではない。何よりこの国には――」

 フランは天井を、いや、その先に広がる空を見た。

「竜がいる。」

 この国の守護の要、攻撃の要。この世で最も優れた種族と謳われる竜。
 あれほどの腕前の剣士だ。ジフェニルとて竜に遅れは取らないだろう。しかしそれは、戦闘に特化していない個体に限る。
 人の中でも強弱があるように、当然竜の中でも強弱が存在する。その個体にはジフェニルは、いや俺でもフランでさえも勝てはしない。
 竜と渡り合うには、まだ一つ格が足りない。

「更にその上に、四大覇者が存在する。それを超えるのが、今の俺の目標だ。」
「四大覇者……先輩、知ってるんスか?」
「俺は知らんが、多分ヘルメスが知ってるだろ。おい、いつまでもしょぼくれてないで会話に混ざれ。」

 俺がそう言うと、ヘルメスは不満な顔をしながら話し始める。

「……四大覇者っていうのは、世界最強クラスの力を持つ四人のことだよ。厳密には五人、かな。一人はもう生きてるか死んでるかもわからないから数に含まれてないだけで。」
「俺は聞いたことがないんだが、それって有名な呼び方なのか?」
「アルスが興味がないだけさ。冒険者だとか、武人の間ではそこそこ有名だよ。」

 世界最強。何人か名前は上がるが、それを四人に絞る事はできない。どっちが戦えば強い、なんてものを理解するには俺は未だ弱すぎるのもある。

「一人がうちのクランマスター、『放浪の王』ゼウス。もう一人が精霊王。そして王国総騎士団長、『神域』のオルグラー。最後は最強の剣士、『無剣』のエーテル。さっき言った生死不明のやつは、魔法使いらしいんだけど禁術に触れたとかで、今は全く姿を見せてない。」

 最後を除いて全員、聞いたことがある名前だ。そして同時に納得もする。どれもが評判通りなら、名も無き組織の幹部にも劣ることは決してないだろう。

「本命は、エーテルか。」
「ああ。究極の剣を得るためには、避けては通れない道だ。」

 世界最強の剣士を越える。全ての剣士の目標であり、その大半が届けない至高の領域だ。それを夢ではなく目標として語れるのが、フランの意志の強さを如実に表していた。
 そうこう話している内に、突然とドアが開いた。ノックの音も聞こえない。
 ただ、選手の控室に入って来れる人なんてのは数が限られているものであり、大して驚きもしない人物であった。

「友人と話しとる途中やったか。邪魔するわ。」

 それはさっきまでフランと戦っていた男、ジフェニルであった。体には包帯を巻いており、見るからにまだ安静にしていなくてはならない状態である。

「オイラが言いたい事は少しだけや。ちょっと時間もらってええか?」

 ジフェニルの言葉に、フランは俺たちの方への視線を向ける。俺は構わないという風に首を縦に振った。

「構わない。」
「おおきに。」

 フランにそう言われて、ジフェニルはフランの方へ向き直る。

「今日はほんとに良い試合やった。負けたのは悔しいけど、それはオイラが弱かったってことや。今度はオイラが勝つ。その為に鍛え直すつもりや。」
「……そうか。」
「だから一年後にまた、この闘技場で戦ってくれへんか。」

 ジフェニルの目は、負けて尚滾り続けていた。どうやって次は勝とうか、何が足りなかったかを必死に考えている目をしていた。
 これ程に剣を使いこなせるのだ。フランに負けず劣らず剣を振ってきたのだろう。それでも負けてしまった。リベンジマッチを要求するのは自然な事である。

「分かった、受けよう。」
「恩に切る。それじゃ、邪魔したで。」

 ジフェニルはそう言って直ぐに部屋を去っていった。
 本当にこれを言う為だけに来たらしい。やはり武人というのは気難しいというか、どこまでも真っ直ぐな人が多い。

「ジフェニルとは、仲がいいのか?」
「そこそこに話す事はある。情に熱く良い男だ。俺が困っていた時にも相談に乗ってくれた。」

 確かに見ててそんな感じはする。威圧感のある見た目の割には、物腰も柔らかく、負けた相手にも明るく接する。きっとチャンピオンでなかったとしても、人気のある剣闘士になっていたはずだ。

「……俺としては、この状況で一区切りついた。当分は暇だ。折角だからお前らの依頼を案内してやろうか?」
「本当かい。僕も下調べはしているけど、あまり詳しくはないから、土地勘がある人がいるのは助かるよ。」
「……そうか。なら、良かった。ついでに聞いて良いか?」

 神妙そうな顔でフランは尋ねる。

「お前の名前は何だ。」

 自己紹介をしていない事を、俺達は今更ながら思い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

処理中です...