57 / 435
第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜
7.リーグ戦
しおりを挟む
俺の目の前には明らかに体格に見合わない杖を持つ少年がいる。その体に纏う装飾や高そうな魔道具を見るに恐らくは貴族であろう。
その少年は俺へと真っ直ぐ指を刺す。
「ハッキリ言おう、アルス・ウァクラート。俺はお前より強い。学園長の曾孫だからってちやほやされて、ちょっと高階位の魔法が使えるだけだ。」
「……そうか。」
「あまつさえコネであのフィルラーナ嬢の騎士になるなんて、あまりにも許し難き事だ。」
そういやこれでリーグ戦最後だな。これが終わったら後はトーナメントだし、休憩できるかな。
「ふん。いくらレベルの高い魔法を使えても、実戦魔法術を学んだ俺にとっては敵ではない事を教えてやる。」
「始め!」
痺れを切らしたのか、そもそも聞いていないのか。審判の先生が開始の合図をかける。
「さて、先ずは――」
「話が長い。」
俺は右手を魔法に変えて飛ばす。いわゆるロケットパンチの形で飛んでいく腕は、巨大な石となって少年を吹き飛ばした。
「勝者、アルス・ウァクラート。」
無感動に俺の勝利が宣言された。
少年には全く傷がない。
生徒にはとある魔道具が支給されているのだ。体の魔力を動力源として結界を展開し、結界は一定のダメージを喰らうと壊れて所有者を気絶させる。そんな魔道具。
「そういや、ガレウは大丈夫かな。まあお嬢様はリーグぐらいなら軽く抜けてくるだろうけど。」
アースは無理だ。それは分かってる。
ティルーナ様は……まあ回復魔法特化だしな。
「あ、アルス!」
噂をすればなんとやら。ちょうどガレウも試合が終わったのか、こっちへ走ってくる。
「無事勝てたみたいだね。」
「おうよ。そっちは?」
「ギリギリだったけど、なんとか抜けられたよ。」
ガレウはどちらかというと平均的に優秀、といった成績だ。
飛び抜けてどこかが強いというわけでもなく、魔法も座学も普通にできる。
「だけどトーナメントは勝ち残れる気がしないね。アルスは絶対一位だろうけど。」
「いや、そうとも限らねえよ。エルディナ様もいらっしゃる。」
なんとなくだけど、強いと本能的に感じている。
単純に魔法使いとしても強いのだろうが、その他にも何かがある気がするのだ。
「やれるだけやるけどな。」
「僕は君が優勝するのを楽しみに待っているよ。」
「やめろよ、普通に勝つ気しねえし。」
エルディナ様相手じゃ煉獄剣を抜かざるをえないだろうしな。そっちも練習しとくか。
「トーナメントまでもうちょっと時間あるし、俺は自主練するつもりだけど。お前はどうする?」
「僕は魔力も結構使っちゃったし、回復させるために休んでるよ。」
「そうか、じゃあまた後でな。」
俺はこの場を後にして通路の方へ進んでいく。
闘技場の内部には訓練施設のようなものが存在する。
観客席などなく、単純に腕を磨き、修練するための場所。そこで俺は魔法の練習をしていた。
並列起動の練習だ。俺の周りを五つの火の球が規則的に飛んでいる。
やっと単純な動きなら五つの並列起動ができるようになった。
しかしまだ足りない。一流ならば十は同時展開をするのが当たり前だ。
「精が出ますね。」
「ああ、ティルーナ様。」
「……前から思っていましたが様付けはやめてください。それに敬語もやめてください。虫唾が走ります。私も敬意など払うつもりはないので。」
「なら遠慮なく。」
「躊躇いがありませんね。」
「なんだかんだ言って、グループを組んで三ヶ月ぐらいは経つからな。」
お嬢様は立場的に敬語を使わなくちゃならないが、まあ正直言ってお嬢様以外に敬語を使う必要はないのだ。
気持ちの問題で敬語を使うようにしてるだけだからな。
「そっちは敬語を外さないのか?」
「これは癖です。言わなくても分かるでしょう?」
「分からねえよ。」
というかティルーナが俺に喋りかけてくるなど珍しい。
俺をとてつもなく敵視しているティルーナは俺に喋りかけてくる事は余程の事がない限りない。
「リーグは抜けられたか?」
「反射的に殴ってしまったので、反則負けですね。」
「ひっでえな、オイ。」
やっぱりここにいるべき人間じゃないだろ。
魔導部門で肉弾戦の方が強いのはどう考えてもおかしい。
「で、何の用だ?」
ティルーナがこんな雑談をしに来たとは思えない。
色々と推測はできるが、こういうのは率直に聞くのが一番だ。
「……あなたは、非常に認め難いですがフィルラーナ様の騎士です。」
「ああ、そうだな。」
「騎士ならば、恥ずかしい真似は決してしないでください。主君に迷惑をかけるなどもっての外です。」
「そんなに信用ないか?」
「ええ、もちろん。」
迷惑をかけているつもりがあるから、否定できないのが辛いところだな。
「今回の大会、優勝するつもりがないでしょう。」
「……どうして?」
俺は少し黙り込んで、それから答える。
「貴方が本気の時の目を、私は知っています。今のそれが貴方にはない。ただそれだけのこと。」
「アースの時のと比較してんじゃないだろうな。流石にあれほどには大会でマジにはなれねえよ。」
「いえ、それでは駄目です。許しません。」
ティルーナは言い切る。俺を悪と断じるように。
「フィルラーナ様のためなら命を賭けなさい。フィルラーナ様のために、貴方は全力を尽くしなさい。常に全力で戦いなさい。私はそれ以外を、決して許容しません。」
それは盲信であり、異常であった。
しかし俺はそれをただの異常として一蹴する事はできなかった。
「フィルラーナ様のために命を賭けれないのなら、貴方を騎士とは決して認めない。私が言いたかったのはそれだけです。」
そう言ってティルーナは去っていく。
俺はその後ろ姿を唖然としたまま、何も言わずに見ていることしかできなかった。
その少年は俺へと真っ直ぐ指を刺す。
「ハッキリ言おう、アルス・ウァクラート。俺はお前より強い。学園長の曾孫だからってちやほやされて、ちょっと高階位の魔法が使えるだけだ。」
「……そうか。」
「あまつさえコネであのフィルラーナ嬢の騎士になるなんて、あまりにも許し難き事だ。」
そういやこれでリーグ戦最後だな。これが終わったら後はトーナメントだし、休憩できるかな。
「ふん。いくらレベルの高い魔法を使えても、実戦魔法術を学んだ俺にとっては敵ではない事を教えてやる。」
「始め!」
痺れを切らしたのか、そもそも聞いていないのか。審判の先生が開始の合図をかける。
「さて、先ずは――」
「話が長い。」
俺は右手を魔法に変えて飛ばす。いわゆるロケットパンチの形で飛んでいく腕は、巨大な石となって少年を吹き飛ばした。
「勝者、アルス・ウァクラート。」
無感動に俺の勝利が宣言された。
少年には全く傷がない。
生徒にはとある魔道具が支給されているのだ。体の魔力を動力源として結界を展開し、結界は一定のダメージを喰らうと壊れて所有者を気絶させる。そんな魔道具。
「そういや、ガレウは大丈夫かな。まあお嬢様はリーグぐらいなら軽く抜けてくるだろうけど。」
アースは無理だ。それは分かってる。
ティルーナ様は……まあ回復魔法特化だしな。
「あ、アルス!」
噂をすればなんとやら。ちょうどガレウも試合が終わったのか、こっちへ走ってくる。
「無事勝てたみたいだね。」
「おうよ。そっちは?」
「ギリギリだったけど、なんとか抜けられたよ。」
ガレウはどちらかというと平均的に優秀、といった成績だ。
飛び抜けてどこかが強いというわけでもなく、魔法も座学も普通にできる。
「だけどトーナメントは勝ち残れる気がしないね。アルスは絶対一位だろうけど。」
「いや、そうとも限らねえよ。エルディナ様もいらっしゃる。」
なんとなくだけど、強いと本能的に感じている。
単純に魔法使いとしても強いのだろうが、その他にも何かがある気がするのだ。
「やれるだけやるけどな。」
「僕は君が優勝するのを楽しみに待っているよ。」
「やめろよ、普通に勝つ気しねえし。」
エルディナ様相手じゃ煉獄剣を抜かざるをえないだろうしな。そっちも練習しとくか。
「トーナメントまでもうちょっと時間あるし、俺は自主練するつもりだけど。お前はどうする?」
「僕は魔力も結構使っちゃったし、回復させるために休んでるよ。」
「そうか、じゃあまた後でな。」
俺はこの場を後にして通路の方へ進んでいく。
闘技場の内部には訓練施設のようなものが存在する。
観客席などなく、単純に腕を磨き、修練するための場所。そこで俺は魔法の練習をしていた。
並列起動の練習だ。俺の周りを五つの火の球が規則的に飛んでいる。
やっと単純な動きなら五つの並列起動ができるようになった。
しかしまだ足りない。一流ならば十は同時展開をするのが当たり前だ。
「精が出ますね。」
「ああ、ティルーナ様。」
「……前から思っていましたが様付けはやめてください。それに敬語もやめてください。虫唾が走ります。私も敬意など払うつもりはないので。」
「なら遠慮なく。」
「躊躇いがありませんね。」
「なんだかんだ言って、グループを組んで三ヶ月ぐらいは経つからな。」
お嬢様は立場的に敬語を使わなくちゃならないが、まあ正直言ってお嬢様以外に敬語を使う必要はないのだ。
気持ちの問題で敬語を使うようにしてるだけだからな。
「そっちは敬語を外さないのか?」
「これは癖です。言わなくても分かるでしょう?」
「分からねえよ。」
というかティルーナが俺に喋りかけてくるなど珍しい。
俺をとてつもなく敵視しているティルーナは俺に喋りかけてくる事は余程の事がない限りない。
「リーグは抜けられたか?」
「反射的に殴ってしまったので、反則負けですね。」
「ひっでえな、オイ。」
やっぱりここにいるべき人間じゃないだろ。
魔導部門で肉弾戦の方が強いのはどう考えてもおかしい。
「で、何の用だ?」
ティルーナがこんな雑談をしに来たとは思えない。
色々と推測はできるが、こういうのは率直に聞くのが一番だ。
「……あなたは、非常に認め難いですがフィルラーナ様の騎士です。」
「ああ、そうだな。」
「騎士ならば、恥ずかしい真似は決してしないでください。主君に迷惑をかけるなどもっての外です。」
「そんなに信用ないか?」
「ええ、もちろん。」
迷惑をかけているつもりがあるから、否定できないのが辛いところだな。
「今回の大会、優勝するつもりがないでしょう。」
「……どうして?」
俺は少し黙り込んで、それから答える。
「貴方が本気の時の目を、私は知っています。今のそれが貴方にはない。ただそれだけのこと。」
「アースの時のと比較してんじゃないだろうな。流石にあれほどには大会でマジにはなれねえよ。」
「いえ、それでは駄目です。許しません。」
ティルーナは言い切る。俺を悪と断じるように。
「フィルラーナ様のためなら命を賭けなさい。フィルラーナ様のために、貴方は全力を尽くしなさい。常に全力で戦いなさい。私はそれ以外を、決して許容しません。」
それは盲信であり、異常であった。
しかし俺はそれをただの異常として一蹴する事はできなかった。
「フィルラーナ様のために命を賭けれないのなら、貴方を騎士とは決して認めない。私が言いたかったのはそれだけです。」
そう言ってティルーナは去っていく。
俺はその後ろ姿を唖然としたまま、何も言わずに見ていることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説
辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~
有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる!
孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。
授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。
どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。
途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた!
ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕!
※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
ドラゴンなのに飛べません!〜しかし他のドラゴンの500倍の強さ♪規格外ですが、愛されてます♪〜
藤*鳳
ファンタジー
人間としての寿命を終えて、生まれ変わった先が...。
なんと異世界で、しかもドラゴンの子供だった。
しかしドラゴンの中でも小柄で、翼も小さいため空を飛ぶことができない。
しかも断片的にだが、前世の記憶もあったのだ。
人としての人生を終えて、次はドラゴンの子供として生まれた主人公。
色んなハンデを持ちつつも、今度はどんな人生を送る事ができるのでしょうか?
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる