20 / 435
第一章~魔法使い見習いは夢想する~
11.命を賭けてでも
しおりを挟む
グリフォンがその気になれば、あの男もフィルラーナ様も生きているはずがない。つまり舐めているのだ。そして遊んでいるのだ。
それはこの状況における、最大の幸運である。
俺のどんな魔法でも、きっと真正面からグリフォンは受けてくれる。あからさまな詠唱を無視して。
「――全身全霊をこの一撃に。」
一発目はただの鉛玉を電気の力で超高速で射出しただけのもの。
だが、二発目は違う。前世から今まで、魔法を追い求めてきた俺が作り出した最高の魔法をここに。
「それは夢。それは理想。それは幻想。されど我が永遠はそこにあり。」
どうせ長引いても俺の勝機などない。ならば最初から最強の一撃を放つのみ。
それこそが二発目の鉄球。魔法により加工されたこの鉄球はありえない強度と、本来俺が出しえない威力の魔法を使用することができる。
「右手は炎、左手は雷、右足は風、左足は土、胴は水、頭は木、心臓は無を生み出す。」
七つの属性がこの鉄球に集まる。それは俺の体すらも魔力に変換させた一撃。俺自身の体を魔法にし、俺の命をも犠牲にする魔法。
この場で全員死ぬぐらいなら俺一人で死んだほうがいい。
「それは進むべき道となり、辿り着くべき道となり、終わりの道となる。混ざれ、狂え、壊れろ、滅べ、潰れろ。我が命の断末魔を永遠にその身に焼き付けるがいい。」
これこそが文字通り全身全霊の一撃。一度切りの最強の一撃。
「『最後の一撃』」
その鉄球は俺の全てを込めて俺の手から放たれる。
それは風を切り、音の壁を超えグリフォンに当たった瞬間大きく弾けた。大きな光を起こし魔力の奔流がグリフォンを流し込む。
そこに込められた属性が多重に折り重なった魔法を瞬時に発現させた。
「本当に、馬鹿げてるぜ。」
俺は未だに土煙がグリフォンを包み込む中、俺はその場に倒れ込む。
体から魔力がなくなっただけでなく、体そのものを媒体にして魔法を使ったのだ。立ち続けるなんてできるはずがない。
「本当に、ふざけてるよなあ、オイ。」
だが、それでもグリフォンは倒れない。俺の命を賭けた魔法でさえも。
しかし、いい。知っていた。
俺如きの魔法じゃグリフォンが倒せないことぐらい。だがそれでも、中途半端な魔法じゃ駄目だった。
俺が何かするという事でグリフォンの気を大きく引く必要があった。
そして何よりこの魔法が発した光で、呼ばなけばならない人物がいた。
「グリフォン、お前を殺すのは俺じゃない。」
天から一つの光が降り注ぐ。それは遥か高き上空から落ちてくる矢。
グリフォンがその矢に気付き、回避行動を取るより早くその矢はグリフォンの魔石を貫いた。
「……一撃、かよ。流石は『天弓』のアルテミスだな。」
その言葉を最後に俺は意識を手放した。
エルフとは弓や魔法などといった遠距離からの攻撃を好む種族である。
しかし決して身体能力が弱いわけではない。むしろ木々を移りながら弓で正確に動く魔物を射抜くなど、相当な身体能力と動体視力があってできることだ。
だからこそアルテミスという女性は『天弓』と呼ばれた。
ありとあらゆるものを天から射抜き、天を駆けるかのように戦場を舞うのだと。そんな彼女からすれば数キロの距離など大した距離のうちに入らない。
「……重症だな。だが死ぬ範囲でもない。」
そう言ってアルテミスは横たわるフィルラーナとよく知らぬ男性に、懐から出した瓶を開けて勢いよく振りかける。体全体にかかるように満遍なく。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です。ありがとうございます。」
フィルラーナはまだ気を失ってはいなかった。ただ疲れし辛いから喋らなかったし、動かなかっただけだ。
「いや、いい。依頼だからな。それでそこの男はなんだ?」
「逃げていた一般市民ですよ。この人も一度避難所に連れていきましょう。それよりも前線は、大丈夫なのですか?」
「ああ、粗方片付けた。元々ああいうのはヘルメスが得意とすることだ。残りは全部あいつ一人でやってくれる。」
「流石、『|万能者(オール・イン・ワン)』と言われるだけはありますのね。」
一番最初に一番の問題点の話をして、それからアルスの方に目を移す。
「あれは、大丈夫なのですか?」
「……普通なら、大丈夫ではないだろう。体を触媒にした魔法を使えば、治療も困難だ。それを体全体に施したのだろうな、常人なら死ぬ。」
「……普通なら、ですか。」
「ああ、普通ならだ。」
アルテミスはため息を吐きながらアルスの元へと歩いていく。
「自分でも気付いていないようだが、こいつには特異な体質があるみたいだ。詳しい説明は省くが取り敢えず死にはしない。」
「なら、良かった。」
ボロボロになり、だというのにどこか満ち足りた顔をして眠るアルスをアルテミスが見た。
「謝罪しよう、アルス・ウァクラート。あの時の私の言葉は間違いであった。お前なら必ず、辿り着ける。その先にいくつの困難が待ち構えているか、私には想像すらできんがな。」
アルスの勇姿は、命懸けの行動は、間違いなくグリフォンの気を大きく引いて時間稼ぎをさせた。
そしてここにアルテミスが実際にいること自体が、その功労の証明である。
「神の悪戯に数奇な体質。普通の人生を送れる事はまずないか。」
そうアルテミスは断言する。しかしそれすらも、冒険者として生きるものなら大歓迎であろう。
冒険者という生物は危険の中に快楽を覚え、困難な人生を歓迎する。
「そこの依頼主、お前はこいつについていくのか?」
「……少し違いますね。私に、ついてくるんですよ。」
「ふん、大した違いなどありはしない。なら気をつけておけ。良くも悪くも退屈しない人生を送ることになりそうだぞ。」
アルテミスは忠告するかのようにフィルラーナに言う。
しかしフィルラーナはそれを聞いても別にどうともせず、ただ笑みを浮かべた。
「知っています。幸運なことに私も、普通の人生など求めていないもので。」
一言、そう返した。
アルテミスはそれを聞き、なら良いと言って男とアルスを担いでその場を去った。
フィルラーナはその後ろ姿を楽しげに見守っていただけだった。
それはこの状況における、最大の幸運である。
俺のどんな魔法でも、きっと真正面からグリフォンは受けてくれる。あからさまな詠唱を無視して。
「――全身全霊をこの一撃に。」
一発目はただの鉛玉を電気の力で超高速で射出しただけのもの。
だが、二発目は違う。前世から今まで、魔法を追い求めてきた俺が作り出した最高の魔法をここに。
「それは夢。それは理想。それは幻想。されど我が永遠はそこにあり。」
どうせ長引いても俺の勝機などない。ならば最初から最強の一撃を放つのみ。
それこそが二発目の鉄球。魔法により加工されたこの鉄球はありえない強度と、本来俺が出しえない威力の魔法を使用することができる。
「右手は炎、左手は雷、右足は風、左足は土、胴は水、頭は木、心臓は無を生み出す。」
七つの属性がこの鉄球に集まる。それは俺の体すらも魔力に変換させた一撃。俺自身の体を魔法にし、俺の命をも犠牲にする魔法。
この場で全員死ぬぐらいなら俺一人で死んだほうがいい。
「それは進むべき道となり、辿り着くべき道となり、終わりの道となる。混ざれ、狂え、壊れろ、滅べ、潰れろ。我が命の断末魔を永遠にその身に焼き付けるがいい。」
これこそが文字通り全身全霊の一撃。一度切りの最強の一撃。
「『最後の一撃』」
その鉄球は俺の全てを込めて俺の手から放たれる。
それは風を切り、音の壁を超えグリフォンに当たった瞬間大きく弾けた。大きな光を起こし魔力の奔流がグリフォンを流し込む。
そこに込められた属性が多重に折り重なった魔法を瞬時に発現させた。
「本当に、馬鹿げてるぜ。」
俺は未だに土煙がグリフォンを包み込む中、俺はその場に倒れ込む。
体から魔力がなくなっただけでなく、体そのものを媒体にして魔法を使ったのだ。立ち続けるなんてできるはずがない。
「本当に、ふざけてるよなあ、オイ。」
だが、それでもグリフォンは倒れない。俺の命を賭けた魔法でさえも。
しかし、いい。知っていた。
俺如きの魔法じゃグリフォンが倒せないことぐらい。だがそれでも、中途半端な魔法じゃ駄目だった。
俺が何かするという事でグリフォンの気を大きく引く必要があった。
そして何よりこの魔法が発した光で、呼ばなけばならない人物がいた。
「グリフォン、お前を殺すのは俺じゃない。」
天から一つの光が降り注ぐ。それは遥か高き上空から落ちてくる矢。
グリフォンがその矢に気付き、回避行動を取るより早くその矢はグリフォンの魔石を貫いた。
「……一撃、かよ。流石は『天弓』のアルテミスだな。」
その言葉を最後に俺は意識を手放した。
エルフとは弓や魔法などといった遠距離からの攻撃を好む種族である。
しかし決して身体能力が弱いわけではない。むしろ木々を移りながら弓で正確に動く魔物を射抜くなど、相当な身体能力と動体視力があってできることだ。
だからこそアルテミスという女性は『天弓』と呼ばれた。
ありとあらゆるものを天から射抜き、天を駆けるかのように戦場を舞うのだと。そんな彼女からすれば数キロの距離など大した距離のうちに入らない。
「……重症だな。だが死ぬ範囲でもない。」
そう言ってアルテミスは横たわるフィルラーナとよく知らぬ男性に、懐から出した瓶を開けて勢いよく振りかける。体全体にかかるように満遍なく。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です。ありがとうございます。」
フィルラーナはまだ気を失ってはいなかった。ただ疲れし辛いから喋らなかったし、動かなかっただけだ。
「いや、いい。依頼だからな。それでそこの男はなんだ?」
「逃げていた一般市民ですよ。この人も一度避難所に連れていきましょう。それよりも前線は、大丈夫なのですか?」
「ああ、粗方片付けた。元々ああいうのはヘルメスが得意とすることだ。残りは全部あいつ一人でやってくれる。」
「流石、『|万能者(オール・イン・ワン)』と言われるだけはありますのね。」
一番最初に一番の問題点の話をして、それからアルスの方に目を移す。
「あれは、大丈夫なのですか?」
「……普通なら、大丈夫ではないだろう。体を触媒にした魔法を使えば、治療も困難だ。それを体全体に施したのだろうな、常人なら死ぬ。」
「……普通なら、ですか。」
「ああ、普通ならだ。」
アルテミスはため息を吐きながらアルスの元へと歩いていく。
「自分でも気付いていないようだが、こいつには特異な体質があるみたいだ。詳しい説明は省くが取り敢えず死にはしない。」
「なら、良かった。」
ボロボロになり、だというのにどこか満ち足りた顔をして眠るアルスをアルテミスが見た。
「謝罪しよう、アルス・ウァクラート。あの時の私の言葉は間違いであった。お前なら必ず、辿り着ける。その先にいくつの困難が待ち構えているか、私には想像すらできんがな。」
アルスの勇姿は、命懸けの行動は、間違いなくグリフォンの気を大きく引いて時間稼ぎをさせた。
そしてここにアルテミスが実際にいること自体が、その功労の証明である。
「神の悪戯に数奇な体質。普通の人生を送れる事はまずないか。」
そうアルテミスは断言する。しかしそれすらも、冒険者として生きるものなら大歓迎であろう。
冒険者という生物は危険の中に快楽を覚え、困難な人生を歓迎する。
「そこの依頼主、お前はこいつについていくのか?」
「……少し違いますね。私に、ついてくるんですよ。」
「ふん、大した違いなどありはしない。なら気をつけておけ。良くも悪くも退屈しない人生を送ることになりそうだぞ。」
アルテミスは忠告するかのようにフィルラーナに言う。
しかしフィルラーナはそれを聞いても別にどうともせず、ただ笑みを浮かべた。
「知っています。幸運なことに私も、普通の人生など求めていないもので。」
一言、そう返した。
アルテミスはそれを聞き、なら良いと言って男とアルスを担いでその場を去った。
フィルラーナはその後ろ姿を楽しげに見守っていただけだった。
2
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説
辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~
有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる