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ChapterⅧ:FinalZone

No143.Finally

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 俺は強くリボルバーを握った。奴は見向きもせず、準備を進めた。
 あの機械の拳を何度も受けているせいで身体に相当な負荷が掛かっている。もう後がない。
 そうしていると、全ての準備が整ってしまった。

 「はっはっはっはっ!わぁーはっはっはっはっ!」

 そう豪快な笑い声が聞こえると、液体が変色してケーブルの中に何かが流れ込み、背負われている装置から煙が出始めた。
 奴は背負っていた装置を床に降ろし、上に向けられた巨大な砲台にセットした。砲台は撤去する予定だったが、想像以上に苦戦したため放置していたのだ。
 破壊しておくべきだった。

 ……と、過去の過ちを反省しても仕方が無い。装置のチャージゲージが刻一刻と溜まっていった。
 この僅かな動きをするのにも、やはり時間が掛かってしまう。もどかしい。敵は目の前にいるのに。

 「遂に…遂に我々の悲願が達成される!日本の労働力は再びV字回復し、豊かな社会となるのだ!」

 二分の一チャージが完了された。時間が早いように、遅いように感じられる。俺は膝を立て、リボルバーのスコープを覗き込む。
 照準がブレる。普段の俺ならこんな事はないだろう。ただ、今はボロボロの身体、一発しかチャンスはないという緊張、リボルバーの重さなど様々な状況が重なり合っている。
 
 「たった一人の犠牲で多くの命が作られる。我々が再起する時代はもう少しなのだ!」

 そう独り言を奴はつづり続ける。装置に夢中で俺の存在には一切興味を示していないようだ。
 完全に勝った気でいやがる。

 「どうだ黒薔薇誇らしくないか?そして虚しくないか?自身の失った記憶の中の日常を取り戻すために必死に足掻いたようだが、最後には“数”が物を言うんだよ!私だって、選挙で選ばれた人間。この世は結果でも過程でもない。“数”なんだよぉ!」

 「はぁ……それは………違うだろ…!……この世は継承だ……。俺が死のうが、弟が……仲間が……未来ある者が…!……必ず成し遂げる……何年掛かろうが………!」

 「まだ喋っていられる余裕があるか…。ただ、もう長くは持たなそうだがな!」

 声を振り絞ると同時に己の闘志を奮い立たせ、スコープに奴の姿をロックした。
 奴は俺の生存を確認したのにも関わらず、こちらに目を向けない。もう時間の問題とでも思っているのだろう。
 ただ、俺はその油断をしっかりと利用させてもらう。
 90%チャージ。装置から、光が漏れ出す。俺がずっと撃たなかったのは弱っていからという理由だけじゃない。
 奴は唯一殺せる一発を、確実に命中させる機会を伺っていたのだ。

 そして、このギリギリのラインが、最高のチャンスだ。ただ、それと同時に最大のピンチともなり得る。
 決意を固め、俺は引き金に指を掛ける。

 「終わりだなぁ聖薇!散布が完了したら、暗殺者を片っ端から処刑する。……そして永久不変の身体:「クローン」の時代が幕を明ける!」

 95%。最早、手も震えない。痛みも感じない。俺に残された道は、死ぬか、それとも死ぬかだ。
 ただ、全員が死ぬ最悪のシナリオと、俺だけが死ぬシナリオになるかの違い。それなら、最善を尽くす他ない。
  
 「さて、素晴らしい社会へ……!………ッ!……あがっ!…どうなってる……!」

 奴はそう苦しんでようやくこちらを見た。奴からは煙が出ている。身体がしっかりと貫かれている。
 威力の高さに軽く吹っ飛んだ俺は銃を降ろしてこう言う。

 「今のお前は機械という“物”だ。大人しく散れ。……清心!」

 俺が放った一発の弾丸。それは「対物弾」だ。それは無事、奴の心臓に命中した。

 「そんな…そんな事……うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 刹那、辺りが火花に包まれた。清心は爆散したようだ。







 視界が晴れ、装置のゲージを見ると、既に97%。これを撃たせたら、結果は何も変わらない。
 先程までの負担に加え、対物弾を拳銃で放った負担も掛かるが、俺はそんなのお構い無しに走った。
 そしてチャージを停止させた。99%にまで溜まったエネルギーは、ケーブルを伝ってカプセル内に逆流していく。
 やがて光は収まった。

 「……今度…こそだ。」

 俺はケーブルを外し、カプセルに記憶の液体を入れる。すると、液体は葵の身体に纏わり付き、染み込むように消えた。
 カプセルを展開する。すると、彼女の目がゆっくりと開き、動き出した。

 「薔……羨………?」

 「ッ!……葵…!」

 互いの声を認識し、俺は彼女に歩み寄ろうとした。だが、安堵からか先程まで堪えていたダメージが一気に襲ってきて、俺は膝を着いた。

 「薔羨…!」

 そんな俺は心配してか、彼女はこちらへ急いで寄ってきた。

 「大丈夫?その怪我……」

 「……心配いらない。……苦しまずに済む。」 

 「でも……!それって………」

 「……それでいい。……俺は大罪人だ。影からの制裁は、天からの制裁には抗えない。………例えどんな理由があったとしても……。」

 最初から、俺は死を悟っていた。いや、もしかしたら無意識にそれを望んでいた。
 撫戯や甘採と同じだ。孤独でなければ、世間体を無視して動く事なんて出来ない。社会全体で生き抜く事より、自分の世界で生き抜く事を優先している。……違うな、俺が彼らをそうさせた。
 同じ道に引き込んだのだ。

 「……嫌だ。折角目覚められたのに、皆とまたあの日のような日常を送れないなんて!」

 俺はその言葉に横に首を振った。
 
 「………壊れた。Enterは。要は死に、慈穏も死に、俺も間もなく死ぬ。……出来る事なら、俺だって戻りたかった。……それが叶わぬ幻想と分かっているから、俺は命を掛けられた……。」

 「私の……為に………?」

 彼女は涙を零し、俺に思いっきり抱き着いた。

 「……本当に…。無責任だよ……君は。置いてくんだよね……私を。」

 「……ごめん。だから、今だけは甘えろ。それが心の底からじゃなくたっていい。もう一度、思い出したかったんだ。」

 俺は彼女と密着し、時を過ごした。短いようで、長い時間を。
 彼女の涙が血に滲む。俺の消えゆく温度に、彼女の温かさを感じる。

 「………懐かしい。忘れもしない。あの日だけは……。」

 
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