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ChapterⅧ:FinalZone

No131.Sound of collapse

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 愁が展開したミスト内で体勢を立て直し、奴に勝つ方法を考えた。いつ、何を落とされるか分からないから、本当はこうしている時間さえも惜しいが。
 対物ライフル……被弾したら即終了だ。これまで撃たれたタイミングをおさらいしてみても、そこまで連射は出来ないのだろう。直接狙うのではなく、物と巻き込んで殺そうとし始めてきたのを見るに、蝶帝自身の腕はあまりないはずだ。
 少なくとも、俺達を相手するには足りていない。

 と、こちらに愁が合流してきた。

 「奴はこちらの存在を見失ってる。背を向けてるよ。」

 「ならば愁が奇襲して終わりじゃないか?」

 「……天井がある。銃口も上に向けてるから道連れにされる。」

 「………。」

 俺達二人とも射程圏外だ。近づくが当てずっぽうで撃つ必要がある。
 しかし、あまり無駄撃ちしすぎると、奴にこちらの居場所がバレてしまう。愁は視力が抜群に良いため回避できると思うが、音だけを頼りにしないといけない俺は、どうしても動きがワンテンポ遅れる。
 常に頭から離していけないのは、“対物銃”で撃たれているという事。
 
 「……そろそろ霧が晴れる。身を潜められる所に移動するよ。」

 「……そうだな。」

 愁に手を掴まれ、俺は彼の引っ張る方向について行った。







 「あれれれ?ベイビー達どこかに隠れちゃった?……でもね、生き延びれる時間が増えただけの話だよ。」

 蝶帝はそう言って、対物ライフルをもう残り僅かの倒壊していない建物へと放った。
 不安を煽るような轟音と共に、最初は建物が立ち並んでいた区画が、一気にさっぱりとした。だが、地面はぐっちゃぐちゃで、瓦礫が散乱している。







 「怖すぎるだろ……。」
 
 「辺り一面原形留めてない。でも旋梨の希望通り、空は開けた。」

 「そうだけども……奴もそこまで馬鹿みたいに建造物破壊していた訳では無かったな。」

 奴の立つ場所は倒壊した二棟のビルが重なり、そこに瓦礫が敷かれて山となっている。
 狙撃でもできれば話は別だが、俺達二人ともこの角度からでは撃てないし、麓になる部分が丁度俺達の限界射程圏内になっている。

 「計算されているようだが……察知されるくらい撃ってないよな?」

 「確か。」

 「情報戦で既にリードされていたか…。」

 この芸当、物理法則に詳しいだけでは到底出来ない。奴もどこで誰と遭遇するかまではやるまで分からないはずだから。
 誘導されていた可能性もあるが、それは今はどうでもいいとして、俺達の射程圏を理解しているのは、流石にアドリブじゃない。
 偶然……それはない。つまり、奴にとって予想外の方法で暗殺しなければならない。
 
 「愁……これは相当シビアな戦いになる。それでも、お前ならついてきてくれるよな?」

 「もう何回も死地に追いやられてるじゃん。」

 「あ、それもそうか。……真剣な話、いくら対物ライフルが連発出来ないといっても、正面突破は命懸け過ぎる。背後から回ろうにも、バレた時に被弾しやすくなる。」

 「一発アウトだからね。」

 「極端な話、もう奴に撃たせる前に殺す。距離が近づくという事は、回避も難しくなるし、避けだけに徹せれる訳でもない。」

 「なるほど……大体やりたい事は理解した。」

 「説明要らずで助かる。」

 そう互いに理解した上で、愁はミストを麓へと投げ、俺は潜伏場所から飛び出した。






 「……!そこね!」

 蝶帝はミストの方に発砲した。しかし、晴れた霧の中には何も無かった。

 「あれ?ッ!」

 次に左下から打ち上げられてくる不協和音ボムを見つけ、耳を塞いだ。

 「上手く嵌ったな。」

 「ッ!」

 ボムが起動し、聞く人にとっては不愉快な音が木霊すると同時に、俺は蝶帝の背後から声を発した。
 すると蝶帝は不協和音が鳴り止む寸前にすぐにそこへ対物ライフルを放ったが、ボムの影響をもろに受けたため、うずくまった。
 
 「はぁ……はぁ……だけど、何かが弾けた音はした。ちゃんと殺せたはず……」 

 「対物ライフルの欠点が出たな。」

 「ッ!まさかっ!……ッ!」

 刹那、俺は堂々と正面下から飛び上がって、ライフルを連射した。すると、蝶帝は血を流して膝を地面に着けた。
 
 「ミスト内に居ると見せかけて背後からの奇襲は予想できても、背後からの奇襲もフェイクとは思わんかっただろ。」

 愁にミストを展開してもらった後、彼に不協和音ボムを投げて足早に去ってもらった。
 俺は最初から後ろに回っており、対物ライフルの発砲音がしたと同時に自分の声を即興で録音し、それなりに大きい機械を投げつけ、正面の霧が晴れた場所に向かった。
 まだ不協和音ボムの対処が終わっていないあの状況では、両方を見なければならず、声で位置を捉えられているので、奴は見ずに発砲する。
 対物ライフルのため、人を撃った感覚と物を撃った感覚に明らかな違いがないため、俺を殺せたと思い込んだところに、正面から撃ったのだ。
 神経麻痺を喰らっていたため、即座に対応することができなかったみたいだ。

 「……ッ!一緒にさよなら。」

 「はっ!」 
 
 しかし、奴は消えかかる意識の中、恐らく残り一発分入っていた弾を地面に対して放ち、瓦礫の山が崩れ始めた。
 麓では愁が潜伏しており、頂上にいる俺自身も、地面がコンクリートやらガラスやらが散乱する場所にそれなり高さから着地しなければならない。
 
 「ッチ!最期に地味に厄介な道連れを!」







 負傷覚悟で俺はできるだけ平坦な部分に乗り待機した。山が完全に崩れると、下敷きになっていた軽い瓦礫が反動で飛んできたが、俺はそれを回避した。
 ガラスの破片が腹の辺りに刺さったが、鍛えているためまだマシだ。

 「愁!愁!どこだ!」

 「……ここ…だ…。」

 「ッ!愁!」

 すると、先程崩れた山の下敷きになっていた愁を発見した。幸いにも、巻き込まれたのは下半身で済んだようだ。
 俺は重りになっているだろう物を撃ち壊し、彼を何とか救出した。

 「ふぅ………ありがとう。」

 元の位置からだったら全身が巻き込まれて即死だっただろう。本当に危機一髪だ。

 「蝶帝の生存確認は……するまでもないか。」

 七、八発は入れたため、流石に死んでるだろう。どうやら瓦礫にも巻き込まれたようだし。
 何とか勝利は収めた。だが、二人とも戦える容態では既に無かった。

 「愁。」

 「了解。」

 俺達はその場で腰を降ろし、安静にした。
 歪達がどうなってるかは分からないが、きっと奮闘している事だろう。
 
 「……無事生存したぞ。祈ってるからな。」

 
 
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