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ChapterⅦ:Candle

No115.Consent

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 あの事件から四日が経過し、落ち着きが取り戻されつつあった。原因不明、銃声の鳴り響く今回の火災は、テロによるものと断定され、全国に衝撃が走った。
 今に始まった事では無いとはいえ、これだけの死者を出す事件は、渋谷駅襲撃の前哨戦となった大豪雨の乱戦以来だ。
 兄上から入った話によると、『燈花は死んだ。』だそうだ。
 
 「クローン生産があれほどまでに進んでいたとはな……。」
 
 「あぁ。そのせいで足止め喰らっちまったぞ。ワイヤーを弾いた感触は、人間に対してとほぼ変わらねぇ。」

 撫戯の言う通り、クローンは人間に近い存在だった。まさに、“永遠の命を手に入れた人間”を撃ち続けているようだった。
 何せ、撃つまでオリジナルかクローンか一切見分けがつかない。あれほど高い技術をどうやって扱っているのか、国は一体何をそんな頑なに隠しているのか。
 兄上が何度も奴らと接触しているから太刀打ち出来るのであって、彼が居なかったら成す術もないだろう。
 
 「相変わらず、あれだけの事があっても、真実が一切公表されていない。隠蔽されている。撫戯も考えてる事は同じか?」

 「多分な。……暗殺は困難。あれだけ暴れられたらな、犠牲者の護衛で精一杯だ。あれが国家の片割れがやる事だとは、目的が読めなさ過ぎる。」

 「俺達はいつから万能屋になったんだか……。」

 「そう言える状況でも無いだろ。あんなのがまだ居るとなると、こっちに余裕がねぇ。」 

 武装、発想、数、これらにおいては圧倒的に不利だ。特に、“クローンを製造する技術”が、あまりにも厄介だ。
 一つの軍隊のように群れる奴らに暗殺が効くかどうか。接触不能、遠距離から撃ち抜こうが、どのみちタコ殴りにされる。
 正面から戦っても、数に蹂躙される。双方、犠牲者が出るのは確実だ。

 「また色々策を練らなければな……。」

 兄上達中枢部は、色々頑張っているであろうが、実行部である我々の限界もある。今は特殊編成で戦力上位で固められているが、実際はまだ数はあるはずだ。
 だとしても、恐らく奴らの足元にも及ばないだろう。奇跡的に命を授かり、長い年月を経て、運命的にこのような人間となった貴重な魂に対して、あちらは技術の結晶。完成すれば、無限だ。
 どのような工程を経たから知らないが、事実として既に多くのクローンが人間社会に紛れ込んでいる。
 奴らは、一連の騒動でそれを証明してきた。







 今生きている事が不思議、それだけギリギリの戦いを終えた。
 薔羨がトドメは刺してくれたらしい。無力化が相当効いたようだ。現在、俺は寝込んでいる。疲労困憊というやつだ。

 「要ー大丈夫?心配だから来ちゃったよ。」

 すると、月歌がそう言って部屋に入って来た。

 「俺は平気。……皆はどうなんだ。」

 「歪も撫戯も全然動けるし、凍白姉弟も心の傷は酷いけど、致命傷はないよ。」

 「そうか……。ちょっと散歩にでも行くかな。」

 「え?今から?傷は大丈夫なの?」

 「最初から致命傷は無いよ。ちょっと火傷が酷いくらいだ。一週間もすれば戦線復帰できるさ。……それより、永久の傷になる前に、治療しなければいけないでしょ。“精神”だけは。」

 凍白姉弟を失うのは、組織としても痛手だし、個人的にも未来ある者には、真っ当な人生を生きてほしい。
 暗殺者の一族だとしても、暗殺者なりに真っ当な道はあるはずだ。慈穏と薔羨は、それを証明してくれた。
 
 夜のため、一応武器を仕込み、扉を開けて凍白家へと月歌と向かった。







 夜の冷たい風を浴びる。たった四日前に浴びた火の海とは、正反対だ。
 
 「思い出すなぁ……出会った日の事……。」

 「そう言えばそんな事もあったっけな。」




 高校時代、友人の紹介で出会ったのが月歌だった。頼れる兄貴肌だった友人は、色々な方面で相談をよく受けていたそうだ。
 そして、彼でも解決が難しい問題は、俺に相談するように言ってたらしい。感情が読むのが得意な俺が、嫌われなかった理由はきっとこれだった。
 気味の悪い特技だと俺自身感じずにはいられなかったが、不要な心配だったよ。

 「君が彼の言っていた……」

 「はい…相原月歌です。」

 ちょっと洒落たカフェの特別席。音漏れしないこの落ち着いた空間が、最適だ。
 
 「それで相談というのは……。」

 「実は………」

 彼女が持ちかけた相談はストーカー被害。司法方面に就こうとしていた俺に渡すのも無理はなかったのかも。
 
 「現状はどうなっているの?」

 「学校のある時間以外はずっと……です。友達もあまり居ないから、怖くて……私は一体どうすればいいの?」

 「それは怖いよね。……ここからは警察沙汰に片足を突っ込む事になる。そうなると、その加害者の危険度によっては、報復が少々心配ではある。少し時間を貰ってもいいかな?君が恨まれない方法で何とか解決してみる。」

 「は…はい。分かりました…。」

 「……どんな相手なのかは分かる?」

 「視線が……遠いような…感じです。」

 道具を使っていそうだ。案外すぐに見つかるかもしれない。
 
 「では、ありがとうございました……。」

 そう言って月歌はその場を去ろうとしたが、俺は止めた。

 「待って。もう日が暮れる。その状況で夜に一人で帰るのは、流石に危ないよ。」

 「じゃあ…どうやって……。」

 「俺が付き添う。……それでいい?」

 「……はい。」

 月歌は、不安が拭えない表情を浮かべながらも了承した。今思えば、初対面のよく分からない男に付き添ってもらうなんて逆に不安だったかも。
 ただ、これに他意は決して無い。誰か他に人が居るというだけで、危険は緩和される。
 
 「じゃあ行こうか。」

 そう言った後会計を済ませ、外へ出た。
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