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ChapterⅥ:Signpost
No87.I can't protect she
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あの大仕事から四ヶ月が経過した。灯台以来、薔羨とは会っていない。失踪状態だ。
正直、こんな結末になった理由は分かっている。あの一件は、穏便な歯車を狂わせた。相棒が勝手に責任を感じ、消えた。
話し合った結果、Enterを解散し、各々の進む道を行くことを決意した。きっと彼もそうした事だろう。
それぞれ本来の目標に向けて動き出した彼らとは対照的に、サイレンスの暗殺者としての道が最初から舗装済みな俺と愛沙は、次世代のサイレンス所属暗殺者を育成すべく、将来性のある若手を集めたチーム「Mythology」を結成した。
一族で追われている葵は、羽崎さんが匿ってくれている。薔羨からも俺からも信用があり、並大抵の脅威からは守れるからだ。
「……最近は雨が多いな。そうは思わないかい?歪。」
「そうですね……。予測不能の天候が続いている。それこそ、災害にもなりかねない様子ですよ…。」
その年から続いていた悪天候は、何年もの間変わらないどころか、日に日に酷くなっていた。
二十歳の時、それが運命を狂わせた年だった。慈穏達との交流を切って三年目だ。定期的に顔を見せていた弟にすら、会ってはいない。
北海道で血を流す世界から離れ、平穏な田舎暮らしをしていた俺であったが、この年、再び拳銃を握る羽目になった。
音信不通だった黄牙から、連絡が来たのだ。
「は………どういう事…!」
思わずそう声が出てしまった。そう、俺の選択が間違いだったと気付かされた瞬間だ。頭が回らなくなった。
「恵蜜か。」
大学から帰る途中、ある人に声を掛けられ振り返ると、銃口を突きつけられていた。
「嘘……!」
その銃を突きつける男は、私の両親を殺害した人物だった。
私はすぐに助けを呼ぼうと叫ぼうとしたが、布で口を塞がれてしまった。
「貴様の両親は使えなかった。確かに血は目的のものだった。しかし、老いからか、効力が弱過ぎた。あの時は病弱な貴様の血など使えないと思って追跡を辞めたが、研究によって関係無い事が分かった。」
訳が分からなかった。確か血族を追っていたのは賞金稼ぎで、恵蜜一族の排除が目的だったはず。
「…その感じ、情報が回ってないようだな。俺様は Asmodeus彼岸。計画実行には貴様らの血が必要不可欠だ。よって連行する。」
すると、私は麻酔を撃たれ、彼岸に攫われてしまった。
「………。」
たまたま通りかかった。そして目撃してしまった。
だが、俺は奴らを追わなかった。実はMythologyの皆には隠しているが、俺は身体が悪い。
ある戦闘で負傷し、それを隠して任務を続けた結果、悪化した。今の身体能力は、全盛期の半分。得体の知れない組織に殴り込むには、情報が必要だ。
こんな時、“薔羨なら”思考放棄して追跡し、どんな逆境でも考えて突破口を切り開いたと思う。今の俺には、それができない。だからこそ、俺は後継者の育成に尽力しているのだ。
とりあえず、元Enterのメンバーに情報共有をしておいた。しかし、いち早くに伝えるべき人は、アカウントを変えたようだ。
「……黄牙経由しかないな。」
言葉を失うしかない。守るって約束したのに、守れないどころか、距離は凄く遠い。
それだけでも精神は壊れかけているというのに、もう一つ。“信じ難い。いや、信じたくない話”が、電話越しに黄牙から告げられた。
「………は。……おい、冗談は不要だ。……だってあいつが……あいつがだぞ!」
生命再起会堂。Zeus、Hadesのメンバーと、清心、その他賛成政治家が、集結していた。
「クローン量産に必要な材料は揃った。しかし、依然として邪魔になる可能性がある人物は残っている!」
清心がそう声を荒げると、蝙蝠が口を挟んだ。
「抱擁の神とまで言われた最強の暗殺者。蓬萊。彼の思想は、我々の意向に反し、それでいて、奴は恵蜜の関係者。後々発覚した時に脅威と成りえますよぉ。」
すると、Hadesの特殊分隊 Asmodeusの不動のエースである薊が口を開いた。
「それだけじゃない。彼は自身に代わる者を残すために、育成に尽力しているというデータを確認済み。代用者の始末も必要になる。」
「でしたら、記憶消去装置の実験台になってもらいましょうかぁ。」
「それで記憶が消えなかったらどうする気?」
「ドローンで様子を観察し、記憶が消えてないのであれば暗殺します。清心様はそれで問題無いですかぁ?」
「好きにしてくれ。結果が同じなら、過程は問わない。」
一旦会議が終わり、薊と蝙蝠以外の構成員は、退室していった。
全員が退室したことを確認し、蝙蝠が口を開いた。
「蓬萊は真っ向でやりあって勝てる相手では無いですからぁ。こっちで暗殺しときます。貴方は白薔薇…?っていう奴を相手して下さい。一番蓬萊に近しい存在です。」
「白薔薇ね……。明日にでも身元を特定しておくとする。」
そう言って、薊もその場を後にした。
“悲劇は、止まらない。”
正直、こんな結末になった理由は分かっている。あの一件は、穏便な歯車を狂わせた。相棒が勝手に責任を感じ、消えた。
話し合った結果、Enterを解散し、各々の進む道を行くことを決意した。きっと彼もそうした事だろう。
それぞれ本来の目標に向けて動き出した彼らとは対照的に、サイレンスの暗殺者としての道が最初から舗装済みな俺と愛沙は、次世代のサイレンス所属暗殺者を育成すべく、将来性のある若手を集めたチーム「Mythology」を結成した。
一族で追われている葵は、羽崎さんが匿ってくれている。薔羨からも俺からも信用があり、並大抵の脅威からは守れるからだ。
「……最近は雨が多いな。そうは思わないかい?歪。」
「そうですね……。予測不能の天候が続いている。それこそ、災害にもなりかねない様子ですよ…。」
その年から続いていた悪天候は、何年もの間変わらないどころか、日に日に酷くなっていた。
二十歳の時、それが運命を狂わせた年だった。慈穏達との交流を切って三年目だ。定期的に顔を見せていた弟にすら、会ってはいない。
北海道で血を流す世界から離れ、平穏な田舎暮らしをしていた俺であったが、この年、再び拳銃を握る羽目になった。
音信不通だった黄牙から、連絡が来たのだ。
「は………どういう事…!」
思わずそう声が出てしまった。そう、俺の選択が間違いだったと気付かされた瞬間だ。頭が回らなくなった。
「恵蜜か。」
大学から帰る途中、ある人に声を掛けられ振り返ると、銃口を突きつけられていた。
「嘘……!」
その銃を突きつける男は、私の両親を殺害した人物だった。
私はすぐに助けを呼ぼうと叫ぼうとしたが、布で口を塞がれてしまった。
「貴様の両親は使えなかった。確かに血は目的のものだった。しかし、老いからか、効力が弱過ぎた。あの時は病弱な貴様の血など使えないと思って追跡を辞めたが、研究によって関係無い事が分かった。」
訳が分からなかった。確か血族を追っていたのは賞金稼ぎで、恵蜜一族の排除が目的だったはず。
「…その感じ、情報が回ってないようだな。俺様は Asmodeus彼岸。計画実行には貴様らの血が必要不可欠だ。よって連行する。」
すると、私は麻酔を撃たれ、彼岸に攫われてしまった。
「………。」
たまたま通りかかった。そして目撃してしまった。
だが、俺は奴らを追わなかった。実はMythologyの皆には隠しているが、俺は身体が悪い。
ある戦闘で負傷し、それを隠して任務を続けた結果、悪化した。今の身体能力は、全盛期の半分。得体の知れない組織に殴り込むには、情報が必要だ。
こんな時、“薔羨なら”思考放棄して追跡し、どんな逆境でも考えて突破口を切り開いたと思う。今の俺には、それができない。だからこそ、俺は後継者の育成に尽力しているのだ。
とりあえず、元Enterのメンバーに情報共有をしておいた。しかし、いち早くに伝えるべき人は、アカウントを変えたようだ。
「……黄牙経由しかないな。」
言葉を失うしかない。守るって約束したのに、守れないどころか、距離は凄く遠い。
それだけでも精神は壊れかけているというのに、もう一つ。“信じ難い。いや、信じたくない話”が、電話越しに黄牙から告げられた。
「………は。……おい、冗談は不要だ。……だってあいつが……あいつがだぞ!」
生命再起会堂。Zeus、Hadesのメンバーと、清心、その他賛成政治家が、集結していた。
「クローン量産に必要な材料は揃った。しかし、依然として邪魔になる可能性がある人物は残っている!」
清心がそう声を荒げると、蝙蝠が口を挟んだ。
「抱擁の神とまで言われた最強の暗殺者。蓬萊。彼の思想は、我々の意向に反し、それでいて、奴は恵蜜の関係者。後々発覚した時に脅威と成りえますよぉ。」
すると、Hadesの特殊分隊 Asmodeusの不動のエースである薊が口を開いた。
「それだけじゃない。彼は自身に代わる者を残すために、育成に尽力しているというデータを確認済み。代用者の始末も必要になる。」
「でしたら、記憶消去装置の実験台になってもらいましょうかぁ。」
「それで記憶が消えなかったらどうする気?」
「ドローンで様子を観察し、記憶が消えてないのであれば暗殺します。清心様はそれで問題無いですかぁ?」
「好きにしてくれ。結果が同じなら、過程は問わない。」
一旦会議が終わり、薊と蝙蝠以外の構成員は、退室していった。
全員が退室したことを確認し、蝙蝠が口を開いた。
「蓬萊は真っ向でやりあって勝てる相手では無いですからぁ。こっちで暗殺しときます。貴方は白薔薇…?っていう奴を相手して下さい。一番蓬萊に近しい存在です。」
「白薔薇ね……。明日にでも身元を特定しておくとする。」
そう言って、薊もその場を後にした。
“悲劇は、止まらない。”
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