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Chapter Ⅲ:Friendship

No33.Invisible demon

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 先攻したのは俺の方だった。地を蹴って跳び上がりながらナイフを投げた。しかし、豪馬はそれを片手で止めた。
 背後に着地後、潜ませていたナイフで刺そうとしたが、豪馬は鞭に電流を流し始めたため、俺は後退った。

 「乱闘を一人で荒らせる行動力がある割には慎重だな。まだ電気流しただけで何もしてないじゃん。」

 「あんたの戦術は理解しているつもりだ。散々見せつけられているからな。」

 「はぁ……いつまで引きずる気だ?大体、匿名の元に訪れたのは紅月だろ?」

 「さぁな。ただ、結果的に匿名は俺を悪用した。しかも多大な“精神の傷”を負わせてな。……最早俺も堕ちた同然だ。」

 「さっき躊躇無かったからなぁ。あの頃のお前が見たらトラウマものだな。」

 「………ッチ。」

 こいつはいつも痛い所ばかり突いてきやがる。俺の中での仲間の定義、友情の形をぐっちゃぐちゃにしたこいつらは最優先復讐対象だ。







 これは俺が小学生中盤の頃。両親は離婚しており、親権を持つ父は暗殺者として恨みを買いすぎたせいか袋叩きで他界した。
 暗殺機構の家系ではあるが、父の代で手を退くつもりだったらしく、最低限護身に必要な知識と力しかつけて貰わなかった。
 しかし、親が消えた俺を引き取ったのは父と繋がりのある小規模チームであり、結局この界隈に停滞する事となった。

 「一ヶ月でこのレベルか…。無名一族の出だが才能は一級品だ。このペースなら半年で化けるぞ。」

 その小規模チームこそが豪馬組であった。当時は十五人しかいない十代後半の集まりだった。
 豪馬は界隈に浸透しきっている訳では無く、普通に学校に通いながら放課後に俺の育成に尽力していた。
 彼も“当時”はそこまで鬼畜では無く、俺は普通に暮らせて、土日限定ではあるものの友人と外出したりする事も許可してくれた。
 しかし、まず俺が強くなった事自体が過ちだった事に気づくまで半年も無かった。







 ある日の夏祭り、そこで無差別な大虐殺事件が起こった。
 友人達と花火を見ていた。満月がはっきりと描写された夜だった。今思えば周期にも反していたが、そんな事当時は気にも留めていなかった。
 月に意識が吸い込まれ、目覚めると周囲の人々が友人含めて血だらけで倒れていた。
 恐る恐る下を向くと、その手には見覚えのない包丁が手に握られていた。その時の記憶は薄いが、精神不安に陥って発狂しただろう。






 それまでも、妙に月が巨大な夜があった。それが本当に巨大なのか、それとも幻覚なのかは未だに分からない。
 その日の記憶は大抵薄い。しかしその事件以降、同じような状況の時は大体死体が完成していた。
 何故かは分からないが豪馬がアリバイ工作をして俺を疑いから逃がしており、最早自分自身に恐怖を感じていた。






 「お、教えてください…。俺は一体……何を起こしているのですか……!」

 ある日、恐る恐るそう豪馬に質問した。彼は頭を抱えていたが、決心したように口を開いた。

 「……ずっとこれが正しいとは思っていなかった。ただ、精神の成長と共にその精神も死滅すると微かに希望を持っていた。」

 頭に浮かぶクエスチョンマーク。呪文のようにぼそぼそと彼はそう言っていた。

 「実は……お前は恐らく二重人格なんだ。」

 その時、驚きを隠せなかった。心の整理が出来ずに声が出ない中、彼は続きを話している。

 「本来二卵性双生児として産まれてくるはずだったらしいが、突然変異して相方の身体は姿を消した。しかし、脳だけはお前と融合したようだ。妙な事に月明かりが明確な夜のみその意識が主導権を握るようだ。おまけに過剰なサイコパス思考。離婚の理由はこれだと聞いている。」

 ここである疑問が浮かび、刺々しくその疑問をぶつけた。

 「じゃあなんであんたは俺を強くした!非力ならそいつが目を覚ましてもあんな事態に発展しないだろ!」

 「それは……いや、人と関わる事自体が危険な行為だったのかもしれない。だが、俺も英才教育とか言われて裏社会に縛り付けられていた身。お前の意思を尊重してやりたかった。……すまない。」

 「………意味分かんない。上げて落とすのと同じじゃないか?」

 「だから、自分を磨く過程で意思もより強くなると祈ってたんだよ。でも、俺も学生と並行している。資金が必要なんだ……。」

 匿名を名乗る人物が彼の生活援助の投資をしていた事は知っていた。
 彼の言い振り的に“やらされていた”と判断した俺は、匿名に連絡を試みた。
 すると、『直接会うことは仕事柄出来ない。ただ、指定の場所に来てくれたら生で話位は聞いてあげよう。』そう返ってきた。
 






 後日、実際にその場所に言って例の件と目的について言及を求めた。
 匿名は姿を現さないが、視線だけは感じる。何処かに潜伏して聞いているのだろう。

 『分かった。包み隠さず話そうでないか。前提として、俺はお前にこの界隈で力を発揮してほしかった。俺の仲間はネット界隈を支配しきった奴でな?そういった特殊な人物はすぐにこちらで把握出来ている。しかし、お前は社会路線に戻ろうとしていた。というかサイコパス人格があっても、あの頻度だったらどうにでもなった。でもお前は強くなった。頭が凄く回り、動きも洗練された。その状態で目を覚まそうものなら、お前は殺人鬼と化す。無差別で非道なな。』

 「それはあんただろ鬼畜野郎。で、豪馬さんはなんで協力した?まず知っているのか?」

 『さぁ?金のためじゃない?俺との交換条件で動いているとは言っても、条件以上の働きをしている。多分それなりにでかい暗殺部隊に売り渡して億万長者にでもなるつもりだったんじゃないの?』

 表情は分からないが、俺はこいつに本気の殺意が湧き、視線の方向を睨みつけた。

 『おー怖い怖い。じゃ、忙しいから行くわ。成果を楽しみにしているぞ。』

 すると逃げるように通話が切れた。
 俺は今後どうしたいかを決心して、帰路に着いた。

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