16 / 150
Chapter Ⅱ:Vicious
No16.Trivial question
しおりを挟む
あの事件から一週間が経過した。メンタルケアも順調に進んでいるようで、外の連中も動きは特に無いそうだ。
今や我が日本列島の民はその約半数以上は政府の管理下から外れている。東京を中心としたこの関東地方の外は、無法地帯といって差し支えないだろう。
異常災害の多発は生物は何一つ干渉していないのに人を狂わせた。国の対応も問題だが、私利私欲が強すぎる人間の本質も改めて影響力があるものだと思った。例えるなら食の恨みのようなものなのかもしれない。
俺は今、都内の病院に向かっている。東堂の様子を確認するためだ。あいつは怠い突っかかり方をしてくるが、競争相手がいないのも寂しいものだ。
あの時は混乱していて状況を上手く把握できていなかったが、後日サイレンス本部で聞いた話によると、あのテロは今後彼らの団結力を高めさせる要因になる大事な分岐点となった可能性が極めて高いらしい。
群れを通り越して一つになった生物は何よりも凶悪だというのは共通認識だろう。こちらから手を出した事はこれまで無かったが、最悪の場合は視野に入るだろう。俺はそんな事極力したくないが…。
そうこうしているうちに東堂の病室に着いたため、ノックして無言で入った。
「聖薇……歪…?」
「久々だな。東堂。」
俺は近くにあった椅子に座って鞄から包みを取り出した。
「やるよ。」
「これは?」
「あんな状況だったから最終選考出来なかっただろ?そこで作るつもりだった品だ。流れ的に多分デザートとかだと思ってな。」
東堂が包みを開くと、薔薇を形どったマカロンが入っている。その反応は予想通りのものだ。
「造形……美しいな。第一選考も薔薇だったよな?好きなのか?薔薇という花が。」
「まぁ…そうだな。名前にも入ってるし、不完全な形でだけど……。」
そう小さく口に零し、俺は部屋を去った。東堂は再び目を閉じたようだ。
白薔薇……。このコードネームは華隆さんが名付けた。俺もその意味は理解していないが、華隆さんは“照らされる場所がある時、影は必ず出来てしまう。互いを理解するのは難しい。”と言っていた。
白と黒。このメッセージは何かを暗示しているように感じるが、華隆が亡くなった今、その真相に迫る術は無い。
しかし、薔薇の花言葉は人間関係に関わるものだという事は知っている。ここに何かヒントがあるのかもしれないが、所詮はコードネーム。深い意味は無いだろう。
彼の発言で自分のコードネームや名前について疑問が浮かび考えながら帰路に着くと、気づいたら楽器店に来ていた。
「あれ?はぁ……外の世界を遮断する程の疑問だったのか?」
本当は帰るつもりだったが、導かれるようにここへ来てしまったので、店内に入った。
「柊よ。今回の件で深い傷を負ってないか?彼らも急な任務で疲れてるだろう。」
私が思考を停止させて机に顔を伏せていると、どこからともなく現れた清心がそんな事を言ってきた。
「お前にまだそんな心が残ってたのか。」
「人を馬鹿にしすぎるのもどうかと思うが。私だってれっきとした人間だ。何も悪くない国民を守りきれなかった事に君は傷つくだろうと思ってな。」
「前言撤回。何も変わっちゃいないな。強いていうなら、私の扱いがただ働き奴隷から、抵抗権のある下僕になったようなものだ。」
「なっ!しっかり依頼料は払っているだろう!」
違う。私の言いたい事はそういう事では無い。暗殺者だってれっきとした人間だ。だが、彼に何を言っても無駄だろう。
「国も我々にばかり押し付けないでさ、少しはテロ対策をしろ。」
「ぐぬぬ。友人の頼みとなれば仕方が無い。バリケードの強化工事にでも取り掛かろう。」
そう言って清心は部屋を去った。
何故、日本が失敗したのかは彼と古くからの友人である私ならすぐに分かる。だからこそ、所属構成員のメンタルケアも、司令として大事な仕事なのだ。今の国を信用しきった時、我々は確実に道を踏み外すからだ。正確には這い上がれなくなるからだ。
楽器店に入ると、よく知る顔ぶれが揃っていた。
「あ、歪君。やっほー。」
「歪か。どうした?」
旋梨が凛、真依、波瑠の三人に今日も真面目に音楽についての指導をしていた。
「何か気付いたら来てた。」
「らしくないな。なら手伝ってよ。ギター同じもの持ってるから。」
俺は旋梨からそのギターを渡され、軽く弾いてみた。
「マジでストーカーか何かなの?」
俺の使用しているギターは特注で作ってもらった。それなのに使用感が完璧に再現されている。最早狂気すら感じる。
「店長に聞いたらすぐ教えてくれるぞ。」
あの店長の脳ミソにプライバシーという言葉は無さそうだ。俺が言える事ではないが、裏社会の教育だとああなるのか…。
何やかんやあって、今日はそのギターを使って旋梨と一緒に教えていった。
今や我が日本列島の民はその約半数以上は政府の管理下から外れている。東京を中心としたこの関東地方の外は、無法地帯といって差し支えないだろう。
異常災害の多発は生物は何一つ干渉していないのに人を狂わせた。国の対応も問題だが、私利私欲が強すぎる人間の本質も改めて影響力があるものだと思った。例えるなら食の恨みのようなものなのかもしれない。
俺は今、都内の病院に向かっている。東堂の様子を確認するためだ。あいつは怠い突っかかり方をしてくるが、競争相手がいないのも寂しいものだ。
あの時は混乱していて状況を上手く把握できていなかったが、後日サイレンス本部で聞いた話によると、あのテロは今後彼らの団結力を高めさせる要因になる大事な分岐点となった可能性が極めて高いらしい。
群れを通り越して一つになった生物は何よりも凶悪だというのは共通認識だろう。こちらから手を出した事はこれまで無かったが、最悪の場合は視野に入るだろう。俺はそんな事極力したくないが…。
そうこうしているうちに東堂の病室に着いたため、ノックして無言で入った。
「聖薇……歪…?」
「久々だな。東堂。」
俺は近くにあった椅子に座って鞄から包みを取り出した。
「やるよ。」
「これは?」
「あんな状況だったから最終選考出来なかっただろ?そこで作るつもりだった品だ。流れ的に多分デザートとかだと思ってな。」
東堂が包みを開くと、薔薇を形どったマカロンが入っている。その反応は予想通りのものだ。
「造形……美しいな。第一選考も薔薇だったよな?好きなのか?薔薇という花が。」
「まぁ…そうだな。名前にも入ってるし、不完全な形でだけど……。」
そう小さく口に零し、俺は部屋を去った。東堂は再び目を閉じたようだ。
白薔薇……。このコードネームは華隆さんが名付けた。俺もその意味は理解していないが、華隆さんは“照らされる場所がある時、影は必ず出来てしまう。互いを理解するのは難しい。”と言っていた。
白と黒。このメッセージは何かを暗示しているように感じるが、華隆が亡くなった今、その真相に迫る術は無い。
しかし、薔薇の花言葉は人間関係に関わるものだという事は知っている。ここに何かヒントがあるのかもしれないが、所詮はコードネーム。深い意味は無いだろう。
彼の発言で自分のコードネームや名前について疑問が浮かび考えながら帰路に着くと、気づいたら楽器店に来ていた。
「あれ?はぁ……外の世界を遮断する程の疑問だったのか?」
本当は帰るつもりだったが、導かれるようにここへ来てしまったので、店内に入った。
「柊よ。今回の件で深い傷を負ってないか?彼らも急な任務で疲れてるだろう。」
私が思考を停止させて机に顔を伏せていると、どこからともなく現れた清心がそんな事を言ってきた。
「お前にまだそんな心が残ってたのか。」
「人を馬鹿にしすぎるのもどうかと思うが。私だってれっきとした人間だ。何も悪くない国民を守りきれなかった事に君は傷つくだろうと思ってな。」
「前言撤回。何も変わっちゃいないな。強いていうなら、私の扱いがただ働き奴隷から、抵抗権のある下僕になったようなものだ。」
「なっ!しっかり依頼料は払っているだろう!」
違う。私の言いたい事はそういう事では無い。暗殺者だってれっきとした人間だ。だが、彼に何を言っても無駄だろう。
「国も我々にばかり押し付けないでさ、少しはテロ対策をしろ。」
「ぐぬぬ。友人の頼みとなれば仕方が無い。バリケードの強化工事にでも取り掛かろう。」
そう言って清心は部屋を去った。
何故、日本が失敗したのかは彼と古くからの友人である私ならすぐに分かる。だからこそ、所属構成員のメンタルケアも、司令として大事な仕事なのだ。今の国を信用しきった時、我々は確実に道を踏み外すからだ。正確には這い上がれなくなるからだ。
楽器店に入ると、よく知る顔ぶれが揃っていた。
「あ、歪君。やっほー。」
「歪か。どうした?」
旋梨が凛、真依、波瑠の三人に今日も真面目に音楽についての指導をしていた。
「何か気付いたら来てた。」
「らしくないな。なら手伝ってよ。ギター同じもの持ってるから。」
俺は旋梨からそのギターを渡され、軽く弾いてみた。
「マジでストーカーか何かなの?」
俺の使用しているギターは特注で作ってもらった。それなのに使用感が完璧に再現されている。最早狂気すら感じる。
「店長に聞いたらすぐ教えてくれるぞ。」
あの店長の脳ミソにプライバシーという言葉は無さそうだ。俺が言える事ではないが、裏社会の教育だとああなるのか…。
何やかんやあって、今日はそのギターを使って旋梨と一緒に教えていった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
職業、種付けおじさん
gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。
誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。
だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。
人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。
明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。
※小説家になろう、カクヨムでも連載中
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
宵どれ月衛の事件帖
Jem
キャラ文芸
舞台は大正時代。旧制高等学校高等科3年生の穂村烈生(ほむら・れつお 20歳)と神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳)の結成するミステリー研究会にはさまざまな怪奇事件が持ち込まれる。ある夏の日に持ち込まれたのは「髪が伸びる日本人形」。相談者は元の人形の持ち主である妹の身に何かあったのではないかと訴える。一見、ありきたりな謎のようだったが、翌日、相談者の妹から助けを求める電報が届き…!?
神社の息子で始祖の巫女を降ろして魔を斬る月衛と剣術の達人である烈生が、禁断の愛に悩みながら怪奇事件に挑みます。
登場人物
神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳):ある離島の神社の長男。始祖の巫女・ミノの依代として魔を斬る能力を持つ。白蛇の精を思わせる優婉な美貌に似合わぬ毒舌家で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の頭脳。書生として身を寄せる穂村子爵家の嫡男である烈生との禁断の愛に悩む。
穂村烈生(ほむら・れつお 20歳):斜陽華族である穂村子爵家の嫡男。文武両道の爽やかな熱血漢で人望がある。紅毛に鳶色の瞳の美丈夫で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の部長。書生の月衛を、身分を越えて熱愛する。
猿飛銀螺(さるとび・ぎんら 23歳):富士ヶ嶺高等学校高等科に留年を繰り返して居座る、伝説の3年生。逞しい長身に白皙の美貌を誇る発展家。ミステリー研究会に部員でもないのに昼寝しに押しかけてくる。育ちの良い烈生や潔癖な月衛の気付かない視点から、推理のヒントをくれることもなくはない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる