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4章:夜に散る火の色祭
#17.夏祭り
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午後5時頃のこと。7月分の支出の精算が終わり教室を出ようとしたところだった。
「お疲れ様。やっと出てきてくれたね?」
「……用があるならノックして入ってこいよ……てか昼からずっと居るだろ。部活はどうした?」
「気分☆…私にだって調子があるの!今は琉威君と遊びたい気分なの!」
「はぁ……演技を“やめろ”。稀香。」
冷たくそう言うと、稀香は笑顔で振る舞うのをやめて、何も取り繕わない態度を見せた。
「……逆に特別かもね?こうやって周囲の目を気にせず振る舞えるのは。」
「最悪の関係。マジで後悔してる。」
「こっちの台詞。場所移そ、君の評判にも関わるよ?」
夏休みのこの時間帯、何処にいても人の目はほとんどないのだが、彼女の意見を却下することも面倒なだけなので大人しくついていった。
「美術準備室。ここなら誰も来ないよ。」
腕時計を確認すると既に10分。移動時間も考慮すると遅刻確定だった。
「…で、何の用?これから予定立ってんだけど。」
「そんなの私の獲物のことに決まってるじゃん。……本当に何もしてないの?怪しくて怪しくて仕方がないのだけど?」
声のトーンを低くして、前のめり気味で彼女はそう迫ってきた。
「何もしてないと俺は主張する。信じられないなら自分の直感を信じれば?俺は手出しさせないけどな。」
「…ふーん。それが答えね……」
そう言いながら彼女は背を向け後退り、振り返ってとびっきりの笑顔で言った。
「ところで今日は夏祭りだね!一緒にデートしよっ☆」
「断る。もし付き纏ったら職権濫用も厭わないぞ。」
「あはっ…真面目な君にはできないくせに。その脅し、よく使うよね~」
「……本気だ。」
そう呟いて美術準備室から出て、急ぎ足で集合場所の公園に向かった。
「……本当の眼だった。夏休みが明けて文化祭が始まる前に、逆戻りさせられるといいんだけどね~」
「待たせて悪い!遅れてごめん。」
約束の時間から15分が経過しようとした時、琉威が走ってきた。
「あ、来た。琉威が遅刻なんて珍しいね。」
「ああ残業でな……文化祭前だから精算が複雑なんだ。」
「まぁそういうことなら……」
僕はベンチで寝ている早彩を起こして、奏翔に電話を掛けた。
「琉威と合流したから今から向かうね。ベンチでいい?」
『いいよ。』
「分かった。じゃあよろしく。」
そうして電話を切ると、琉威は尋ねてきた。
「みさかなは先に行ってしまったのか?」
「まぁね。美咲は“気長に待とっ”なんて意気込んでいた割にすぐ折れて、保護者と行ってしまったよ。」
「美咲らしいな。」
「奏翔さんが保護者扱いされてることには反応しないんですね……」
「そう言いつつも早彩もあの二人の扱いに慣れてきたよね。」
「はい。ずっといると馴染むものですね。」
そう笑い合いながら僕達もお祭り会場へと歩いて向かった。
並木道に沿って屋台が立ち並び、ほどよく人で溢れて賑わっている光景を見ていると、お祭りに来たと肌で感じられる。
今日も部活から帰宅した後日記を読み返していたが、やはり文章だけでは思い出せる景色に限界があるので、新鮮な気持ちで楽しめる。
「今年は写真も沢山残しとかないと。」
去年は人が多過ぎて写真をあまり撮る時間が無かったけど、今日はしっかりと思い出を形として残したいと思ってここに来ている。
「やっほ~早彩ちゃん達こっちこっち~!」
人の流れに沿って歩いていると、りんご飴を持ってそう呼ぶ美咲の姿があった。
「焼きそば並んでおいたよっ!」
「ありがとう美咲ちゃん。」
「どういたしてまして!ほら、爽真と琉威の分も!」
そう言って美咲は手提げ袋から輪ゴムで縛られたパック焼きそばを取り出して手渡してきた。
「ありがとう。」
「サンキューな。あと待たせたお詫びだ。何か奢ろうか?」
「本当?ありがとうっ!じゃあチョコバナナお願いっ!」
すると美咲は琉威を引っ張りチョコバナナの屋台の列に並んだ。ちゃっかり早彩もついて行っている。
「遠慮ないよなぁ美咲。早彩も乗っかり方が似てるよ。」
木陰から声がして、クレープを片手にした奏翔が現れた。
「姿が見えないと思ったら別行動だったのか……」
「焼きそばは二人で出し合って買った。そしたらちょうど電話が掛かってきたからさ。」
「確かにクレープの屋台ベンチから離れてるもんね……」
「そういうこと。」
「何か意外かも。そういえば奏翔ってけっこう甘党だったね。」
「意外かな…?行くたび食べてるはずだけど見ていて馴染まないものかぁ……」
毎日日記に書き込んでぼんやりとは覚えているといっても、誰が何を食べたとかまでは定着しづらい。
知恵と工夫で何の問題もなく生活できているけど、この病気による弊害は割と大きいはずのものなのだ。それこそ深刻化すれば記憶もできないだろう。
そんな暗い思考は頭の片隅に追いやり、僕はお祭りのことに集中を戻した。
すると三人がチョコバナナを持ってベンチに戻って来た。
「はい、爽真君のだよ。」
「ありがとう。」
早彩からチョコバナナを受け取り、僕はベンチに座った。
「美味しいっ!いやぁ本当ありがとうね琉威。」
「さっきも言ったろ詫びだって。」
「何かしら理由つけて奢ろうとするでしょ君……」
美咲からチョコバナナを受け取ったことで両手が塞がった奏翔はそうツッコんだ。前例があり過ぎる。
「まぁな。折角お祭りに来たんだから手持ち分は散財する気だ。さてと、花火までは………あと1時間か。一回それぞれで回るか?」
琉威がそう提案すると、全員が頷いた。この祭りの会場はけっこう広いため、皆で回るのは中々難しい。
「なら1時間後にこの場所集合ね!一時解散っ!」
元気よくそう言って、美咲はいつものを連れて人の流れに混ざっていった。
「美咲ちゃんは早いですね…もう見失っちゃいました。」
「動き始めが早いからねあの子。じゃあ僕達も回ろうか。」
「ですね。…て、あれ…琉威さんは……」
早彩の言葉を聞いて辺りを見渡したが、琉威の姿がなくなっていた。
「あれ?さっきまでそこに居たはず……」
「琉威さんも行ってしまったんですかね?」
「かもね。じゃあ二人で回ろっか。」
「はい!」
そうして僕は早彩とお祭りを回ることになった。
「お疲れ様。やっと出てきてくれたね?」
「……用があるならノックして入ってこいよ……てか昼からずっと居るだろ。部活はどうした?」
「気分☆…私にだって調子があるの!今は琉威君と遊びたい気分なの!」
「はぁ……演技を“やめろ”。稀香。」
冷たくそう言うと、稀香は笑顔で振る舞うのをやめて、何も取り繕わない態度を見せた。
「……逆に特別かもね?こうやって周囲の目を気にせず振る舞えるのは。」
「最悪の関係。マジで後悔してる。」
「こっちの台詞。場所移そ、君の評判にも関わるよ?」
夏休みのこの時間帯、何処にいても人の目はほとんどないのだが、彼女の意見を却下することも面倒なだけなので大人しくついていった。
「美術準備室。ここなら誰も来ないよ。」
腕時計を確認すると既に10分。移動時間も考慮すると遅刻確定だった。
「…で、何の用?これから予定立ってんだけど。」
「そんなの私の獲物のことに決まってるじゃん。……本当に何もしてないの?怪しくて怪しくて仕方がないのだけど?」
声のトーンを低くして、前のめり気味で彼女はそう迫ってきた。
「何もしてないと俺は主張する。信じられないなら自分の直感を信じれば?俺は手出しさせないけどな。」
「…ふーん。それが答えね……」
そう言いながら彼女は背を向け後退り、振り返ってとびっきりの笑顔で言った。
「ところで今日は夏祭りだね!一緒にデートしよっ☆」
「断る。もし付き纏ったら職権濫用も厭わないぞ。」
「あはっ…真面目な君にはできないくせに。その脅し、よく使うよね~」
「……本気だ。」
そう呟いて美術準備室から出て、急ぎ足で集合場所の公園に向かった。
「……本当の眼だった。夏休みが明けて文化祭が始まる前に、逆戻りさせられるといいんだけどね~」
「待たせて悪い!遅れてごめん。」
約束の時間から15分が経過しようとした時、琉威が走ってきた。
「あ、来た。琉威が遅刻なんて珍しいね。」
「ああ残業でな……文化祭前だから精算が複雑なんだ。」
「まぁそういうことなら……」
僕はベンチで寝ている早彩を起こして、奏翔に電話を掛けた。
「琉威と合流したから今から向かうね。ベンチでいい?」
『いいよ。』
「分かった。じゃあよろしく。」
そうして電話を切ると、琉威は尋ねてきた。
「みさかなは先に行ってしまったのか?」
「まぁね。美咲は“気長に待とっ”なんて意気込んでいた割にすぐ折れて、保護者と行ってしまったよ。」
「美咲らしいな。」
「奏翔さんが保護者扱いされてることには反応しないんですね……」
「そう言いつつも早彩もあの二人の扱いに慣れてきたよね。」
「はい。ずっといると馴染むものですね。」
そう笑い合いながら僕達もお祭り会場へと歩いて向かった。
並木道に沿って屋台が立ち並び、ほどよく人で溢れて賑わっている光景を見ていると、お祭りに来たと肌で感じられる。
今日も部活から帰宅した後日記を読み返していたが、やはり文章だけでは思い出せる景色に限界があるので、新鮮な気持ちで楽しめる。
「今年は写真も沢山残しとかないと。」
去年は人が多過ぎて写真をあまり撮る時間が無かったけど、今日はしっかりと思い出を形として残したいと思ってここに来ている。
「やっほ~早彩ちゃん達こっちこっち~!」
人の流れに沿って歩いていると、りんご飴を持ってそう呼ぶ美咲の姿があった。
「焼きそば並んでおいたよっ!」
「ありがとう美咲ちゃん。」
「どういたしてまして!ほら、爽真と琉威の分も!」
そう言って美咲は手提げ袋から輪ゴムで縛られたパック焼きそばを取り出して手渡してきた。
「ありがとう。」
「サンキューな。あと待たせたお詫びだ。何か奢ろうか?」
「本当?ありがとうっ!じゃあチョコバナナお願いっ!」
すると美咲は琉威を引っ張りチョコバナナの屋台の列に並んだ。ちゃっかり早彩もついて行っている。
「遠慮ないよなぁ美咲。早彩も乗っかり方が似てるよ。」
木陰から声がして、クレープを片手にした奏翔が現れた。
「姿が見えないと思ったら別行動だったのか……」
「焼きそばは二人で出し合って買った。そしたらちょうど電話が掛かってきたからさ。」
「確かにクレープの屋台ベンチから離れてるもんね……」
「そういうこと。」
「何か意外かも。そういえば奏翔ってけっこう甘党だったね。」
「意外かな…?行くたび食べてるはずだけど見ていて馴染まないものかぁ……」
毎日日記に書き込んでぼんやりとは覚えているといっても、誰が何を食べたとかまでは定着しづらい。
知恵と工夫で何の問題もなく生活できているけど、この病気による弊害は割と大きいはずのものなのだ。それこそ深刻化すれば記憶もできないだろう。
そんな暗い思考は頭の片隅に追いやり、僕はお祭りのことに集中を戻した。
すると三人がチョコバナナを持ってベンチに戻って来た。
「はい、爽真君のだよ。」
「ありがとう。」
早彩からチョコバナナを受け取り、僕はベンチに座った。
「美味しいっ!いやぁ本当ありがとうね琉威。」
「さっきも言ったろ詫びだって。」
「何かしら理由つけて奢ろうとするでしょ君……」
美咲からチョコバナナを受け取ったことで両手が塞がった奏翔はそうツッコんだ。前例があり過ぎる。
「まぁな。折角お祭りに来たんだから手持ち分は散財する気だ。さてと、花火までは………あと1時間か。一回それぞれで回るか?」
琉威がそう提案すると、全員が頷いた。この祭りの会場はけっこう広いため、皆で回るのは中々難しい。
「なら1時間後にこの場所集合ね!一時解散っ!」
元気よくそう言って、美咲はいつものを連れて人の流れに混ざっていった。
「美咲ちゃんは早いですね…もう見失っちゃいました。」
「動き始めが早いからねあの子。じゃあ僕達も回ろうか。」
「ですね。…て、あれ…琉威さんは……」
早彩の言葉を聞いて辺りを見渡したが、琉威の姿がなくなっていた。
「あれ?さっきまでそこに居たはず……」
「琉威さんも行ってしまったんですかね?」
「かもね。じゃあ二人で回ろっか。」
「はい!」
そうして僕は早彩とお祭りを回ることになった。
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