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13章
断腸の思い
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辛い日々の唯一の支えで癒しだった彼と、実は顔見知りだったなんて。
「あの私混乱してて、まだなにがなんだかわからないんです」
「いいよ、騙してたの俺だし。でもだからって諦めないから覚悟して。俺思ってたより粘着質みたい」
「それは同意です。でも、私地味だし、感じ悪いし、どうして」
「好きなところはあげたらキリがないけど。一生懸命真面目なところ。責任感があるところ。ツンツンしてても本当は寂しがり屋で甘えん坊なところ。演奏も好きだ。それから──」
「も、もういいです」
恥ずかしくて聞いていられない。それにしても普段とキャラが違いすぎる。
「でも、究極的には好きに理由はないんだ。どうして君じゃなきゃダメだと思う理由は、本当にはわからない。ただもうこんな出会いはもうないと、野生の勘が言っている。君を逃しちゃ駄目だって」
それは一時の気の迷いかもしれないし、ただ恋愛にのぼせあがっているだけかもしれない。千紗の父親のように、いつか突然いなくなったり裏切ったりするかもしれない。それでも井村の告白は胸に迫ってくる切実さがあった。
「あのさ、改めて俺と付き合ってくれませんか」
「……!」
「いや、まだそんな段階じゃない。待つ! 待つから俺の気持ちだけ伝えさせて」
井村が意外と我が強いことを知る。普段は物腰柔らかな人の意見をよく聞く大人に見えたが、今は駄々っ子のように引かない。
「わ、私田吾作さんが好きでした。でも田吾作さんと井村さんは同一人物で──だから、多分井村さんのことも……嫌いじゃないし感謝もしてます」
好き、とまではまだ言えない。まだ騙されたという憤りも残っている。心が揺れている。それくらいしか今は言えない。
「自分がもうわかりません。井村さんは苦手だけど嫌いじゃなかったし……」
「嬉しい」
覆いかぶさってきた井村にキスされていた。
「んーっ!! ま、待って」
「いやごめんもう待てない、色々限界ほんと無理」
何度も角度を変えて合わさる唇に、息もできない。慌てて離れようとするが、強い力で抱きすくめられてしまう。
「リアルでも絶対俺のことを好きになってもらうと決めてる」
感情の高ぶった様子で、井村は千紗を思い切り抱きしめ、その唇を奪った。
「え、ちょ、あの、こういうことは段階を踏んでから……というか男女交際は登下校から!」
「もう食事もデートもしたし一年以上待った。もう下校とかしないし、最後まではしないから」
「さささ最後ってなんですか!?」
千紗の口を塞ぐように、もう一度唇が重なった。抱きすくめられて頬やおでこにもキスされて、わけがわからなくなる。
何度目かのキスで舌が口の中に入ってきて、心臓が止まりそうになってしまう。
「ふ、うあ」
唇に触れるたび、体温が上がっていく。呼吸も乱れる。
人畜無害そうな顔をしておいて、井村のキスは巧みだった。悪い男のするキスだ。いや、善良な男も悪い男も知らないけれども。
そうこうしているうちに、背中や首に大きな手が触れてきて、千紗はぎゅっと目を閉じた。
体をゆっくり触られ、もはやこれまでかと思う。
──お、犯される。うっかり好ましいとか言っちゃったから?
井村は完全に理性を失っているかに見えたが、千紗が身を固くしているのに気づいて拘束をゆるめた。
「今日は俺も我慢する。断腸の思いで。このまま寝よう」
明日はどうなんだろう。
寝れるわけがない……と思ったが、頭や背中をよしよしとされているうちに、なんだかもうどうにでもなれと思って、目を閉じた。
「あの私混乱してて、まだなにがなんだかわからないんです」
「いいよ、騙してたの俺だし。でもだからって諦めないから覚悟して。俺思ってたより粘着質みたい」
「それは同意です。でも、私地味だし、感じ悪いし、どうして」
「好きなところはあげたらキリがないけど。一生懸命真面目なところ。責任感があるところ。ツンツンしてても本当は寂しがり屋で甘えん坊なところ。演奏も好きだ。それから──」
「も、もういいです」
恥ずかしくて聞いていられない。それにしても普段とキャラが違いすぎる。
「でも、究極的には好きに理由はないんだ。どうして君じゃなきゃダメだと思う理由は、本当にはわからない。ただもうこんな出会いはもうないと、野生の勘が言っている。君を逃しちゃ駄目だって」
それは一時の気の迷いかもしれないし、ただ恋愛にのぼせあがっているだけかもしれない。千紗の父親のように、いつか突然いなくなったり裏切ったりするかもしれない。それでも井村の告白は胸に迫ってくる切実さがあった。
「あのさ、改めて俺と付き合ってくれませんか」
「……!」
「いや、まだそんな段階じゃない。待つ! 待つから俺の気持ちだけ伝えさせて」
井村が意外と我が強いことを知る。普段は物腰柔らかな人の意見をよく聞く大人に見えたが、今は駄々っ子のように引かない。
「わ、私田吾作さんが好きでした。でも田吾作さんと井村さんは同一人物で──だから、多分井村さんのことも……嫌いじゃないし感謝もしてます」
好き、とまではまだ言えない。まだ騙されたという憤りも残っている。心が揺れている。それくらいしか今は言えない。
「自分がもうわかりません。井村さんは苦手だけど嫌いじゃなかったし……」
「嬉しい」
覆いかぶさってきた井村にキスされていた。
「んーっ!! ま、待って」
「いやごめんもう待てない、色々限界ほんと無理」
何度も角度を変えて合わさる唇に、息もできない。慌てて離れようとするが、強い力で抱きすくめられてしまう。
「リアルでも絶対俺のことを好きになってもらうと決めてる」
感情の高ぶった様子で、井村は千紗を思い切り抱きしめ、その唇を奪った。
「え、ちょ、あの、こういうことは段階を踏んでから……というか男女交際は登下校から!」
「もう食事もデートもしたし一年以上待った。もう下校とかしないし、最後まではしないから」
「さささ最後ってなんですか!?」
千紗の口を塞ぐように、もう一度唇が重なった。抱きすくめられて頬やおでこにもキスされて、わけがわからなくなる。
何度目かのキスで舌が口の中に入ってきて、心臓が止まりそうになってしまう。
「ふ、うあ」
唇に触れるたび、体温が上がっていく。呼吸も乱れる。
人畜無害そうな顔をしておいて、井村のキスは巧みだった。悪い男のするキスだ。いや、善良な男も悪い男も知らないけれども。
そうこうしているうちに、背中や首に大きな手が触れてきて、千紗はぎゅっと目を閉じた。
体をゆっくり触られ、もはやこれまでかと思う。
──お、犯される。うっかり好ましいとか言っちゃったから?
井村は完全に理性を失っているかに見えたが、千紗が身を固くしているのに気づいて拘束をゆるめた。
「今日は俺も我慢する。断腸の思いで。このまま寝よう」
明日はどうなんだろう。
寝れるわけがない……と思ったが、頭や背中をよしよしとされているうちに、なんだかもうどうにでもなれと思って、目を閉じた。
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