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私は、とある事情により子供を産むことが出来なくなりました。
だからか、一部の婚家の方々からも一部の使用人からも、石女と呼ばれております。
私のとある事情とは、婚家の方が密接に関わっておりますのに...およそ3年程で綺麗さっぱりと忘れるとは、なんとも嘆かわしいことですわ。

「こんな...屈辱ったらないわ!
石女を嫁として扱わなければならないなんて...我が家の恥だわ!!」

「...何度も説明しておりますが、私の嫁入りは王命によるものですわ。
文句がおありになるのでしたら、私ではなく国王陛下に仰ってくださいませ。」

「はぁ?!言えるわけないでしょう?!
貴女って、馬鹿なんじゃあないの??!」

「......分かりましたわ。
貴女が言えないと言うのでしたら、私の方から、貴女方のお言葉を国王陛下にお伝えいたします。
それでよろしいですね?」

「なっ!!そんな必要ないわよ!!
貴女って、本当に馬鹿なのね?!
まさか、自分に都合良く告げ口でもするつもりなの!!!?」

「いいえ...これは告げ口ではありませんわ。
貴女方が王命に対して持つ不満を、貴女方は国王陛下にお会いすることもなかなか叶わないから伝えられないので、代わりに私に訴えておられるということでしょう?
それらを、月に一度王妃陛下に会いに行くことの出来る私が、代わりに国王陛下にお伝えするだけではありませんか...おかしなことなどありませんわ。
分かりましたら、さっさとこの部屋から出ていってくださいませ。」

ヒステリックに叫べば、誰もが言うことを聞くとでもお思いなのかしらね?
とある事情により子供を産むことが出来ない嫁を、女主人として疎ましく思うのは理解できますわ。
ですけれど、私の抱えるとある事情というものをよくよく思い出していただきたいですわねぇ?
誰のせいでこんな役立たず・・・・にさせられたのか...誰のせいでこんな役立たず・・・・を嫁として迎えることとなったのか...忘れるなど許しませんわ。

「ハァー、フェルゼから聞いたけど、あの人がまた来ていたのかい?」

「あら、お帰りなさいませ。
えぇ、また来ておりましたよ?」

「そう...そろそろ、国王陛下や王妃陛下にお伝えしたらどうかな?
愛しい妻を罵る女共なんて、あ、男もいたか...なら、愛しい妻を罵るような人間なんて、断罪されて然るべきだと思うよ?
僕としては、あの人達が君を罵り始めた初日にお伝えしたら良いと思っていたのだけれど...君には、何か考えがあるんだろう?」

私が、明後日両陛下にお渡しする報告書を纏めておりましたら、旦那様がご帰宅されておられたようです。
集中し過ぎていたのかお帰りに気付けず、出迎えが出来ませんでしたわ...。
私が纏めていた報告書をチラッと見て、深い溜め息を1つ吐くと優しい眼差しでこちらをジッと見つめられ、美しい笑みを浮かべられました。
この笑みは、心の中を見透かされているようで少し苦手ですわ。

「ウフフ、私は、大事なことをお忘れらしいあの人にも、何度も説明した筈なのに理解せずにあの人と共に罵る使用人の方々にも、きちんと相応の罰を受けていただきたいだけよ。

王家により派遣されてきた使用人の方々にお願いして、あの方々に同調するフリをしていただいているの。
同調するフリと言っても、彼らは私のとある事情をよくご存知ですから......直接私を罵るのではなく、
『へぇー、そうなんだー』
という感じで彼らから色々と聞き出して、日々の日誌にて記録してくださっているわ。
明後日、王妃陛下にお会いすることとなっておりますから、こちらの報告書をお渡しすると共に証言していただくつもりよ。」

「そっか、ちゃんと王妃陛下にお話しするのならそれで良いよ。
王妃陛下とのお茶会でのご報告だと、王妃陛下のお耳汚しになってしまうかもしれないけれど、王妃陛下ならば君の不遇を聞けば動いてくださることだろう。
国王陛下には、僕の方でお伝えしても良いかい?」

「えぇ、お願いいたしますわ。」

王妃陛下にお伝えするのですもの、国王陛下にもお伝えしておかなければ拗ねてしまわれますわね。
私のとある事情を、コロッと忘れるような方々には、きちんと断罪しておきませんと...ウフフ、舐められて終わりには出来ませんわ。





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